Googleを急襲 Anthropicが仕掛けるAI覇権の地殻変動
米Anthropicは、米OpenAIや米Google、米Amazon Web Servicesが押さえるエンタープライズ向けAIインフラ市場に、自社製品を引っ提げて本格参入する。
AIのモデルだけを売る時代は終わった。
米Anthropicは、米OpenAIや米Google、米Amazon Web Servicesが押さえるエンタープライズ向けAIインフラ市場に、自社製品を引っ提げて本格参入する。
同社が4月に発表した、AIエージェントの構築・実行環境をクラウド上で一括提供する「Claude Managed Agents」は、開発者がエージェントを本番環境に投入するまでの何カ月もかかるインフラ作業を丸ごと肩代わりするサービスだ。
発表から約2カ月が経過した現在、同社はこれをエージェント運用スタック全体の掌握に向けた試みと位置付けている。
AIエージェントの構築・実行環境をクラウド上で一括提供するClaude Managed Agentsは、開発者がエージェントを本番環境に投入するまでの何カ月もかかるインフラ作業を、丸ごと肩代わりする(以下、写真提供:ゲッティイメージズ)
Notionや楽天も採用 インフラ作業を丸ごと肩代わりする新戦略
Anthropicはこれまで、AIを外部から呼び出すための仕組みである「Claude API」を提供し、サードパーティーが独自のエージェントを作れるよう支援する立場を基本としてきた。
これまで開発者が利用できるAnthropic純正のエージェントインフラは「Claude Code」と「Claude Cowork」に限られていた。そのため、これら以外のツールを使う開発者は、コードを安全に実行するための隔離環境であるサンドボックスの構築や状態管理、権限制御、エラー回復といった、エージェントを動かすための土台となるインフラを全て自前で調達する必要があった。
Claude Managed Agentsは、その構図を大きく変える。同社の発表文では「本番エージェントの出荷には、サンドボックス化されたコード実行やチェックポイント、クレデンシャル(ログイン情報などの認証情報)管理、スコープ付き権限、処理の全工程を追跡するエンドツーエンドのトレーシングが必要だ。それだけでユーザーに何かを見せる前に何カ月もの作業になる」と指摘。新しい仕組みが、それらの負担を解消すると説明している。
料金体系は従量課金型で、標準のトークン費用に加え、アクティブなセッション時間1時間あたり0.08ドルが加算される仕組みだ。ツール待ちやユーザー入力待ちのアイドル時間は課金されない。Web検索機能は1000回あたり10ドルとなっている。
すでにメモアプリ大手の米Notionや楽天グループ、開発者向けシステム監視ツールの米Sentryが採用を表明。Anthropicの内部テストでは、標準的な指示文のループ処理と比較して、構造化ファイル生成のタスク成功率が最大10ポイント改善したという。
AIの進化が招く「ハーネスの陳腐化」
Claude Managed Agentsの技術的核心は、脳にあたるAIモデルと、手にあたるコード実行サンドボックスやツール群を分離したことにある。
同社のエンジニアリングブログの例が、非常に分かりやすい。「Claude Sonnet 4.5」では、処理できる文脈量の上限であるコンテキストウィンドウが近づくと、タスクを早期に切り上げようとする挙動――いわば、もうすぐ記憶が尽きると焦るような動作が観察された。
開発チームはこれをコンテキスト不安と呼び、(AIの呼び出しを制御するループ処理である)ハーネス側にリセット機能を追加して対処した。ところが、次世代の最先端モデルである「Claude Opus 4.5」に同じハーネスを適用すると、その挙動はすでに解消されており、苦労して作ったリセット処理が、今度は無用な重荷に変わっていたという。
エージェントの制御ループであるハーネスとは、本質的に今のモデルにできないことを補う仕組みだ。しかしモデルが賢くなれば、その補完機能は不要になるか、むしろ邪魔になる。
ハーネスは今日の弱点を前提として書かれているため、モデルの改善とともに陳腐化する宿命を持つ。こうした問題を解決するために、新しい仕組みはエージェントを構成する3要素、すなわち作業ログであるセッション、制御ループであるハーネス、隔離環境であるサンドボックスを、互いに独立したインタフェースとして分離した。
それぞれが相手の内部システムを知らずに動作するため、モデルが改善されてハーネスを刷新しても、セッションログやサンドボックスには手を触れなくて済む。
セキュリティ面でも、重要な変更がある。従来の一体型設計では、AIが生成したコードを実行する仮想実行単位であるコンテナと、外部サービスの認証情報が同居しており、悪意ある指示をデータに埋め込んでAIを操る「プロンプトインジェクション攻撃」によって、認証情報が盗まれるリスクがあった。
新設計ではサンドボックスと認証情報が構造的に分離され、外部ツールをつなぐ標準規格であるMCP(Model Context Protocol)を通じた通信は、専用の中継サーバを経由する。これにより、AIが動作するサンドボックスが認証情報に直接触れるリスクを排除している。
オープンソース締め出しの波紋 わずか4日後に仕掛けられた伏線
戦略的に注目すべきは、今回の発表のタイミングだ。AnthropicがサードパーティーツールによるClaude Codeへのアクセスを制限したのが4月3日。そのわずか4日後の4月8日に「Claude Managed Agents」を発表している。
オープンソースプロジェクトである「OpenClaw」の作者で、OpenAIに在籍するピーター・スタインバーガー(Peter Steinberger)氏は、SNS上で「まず人気機能を自社の閉じたハーネスに取り込み、次にオープンソースを締め出す。業界でよく見るパターンと一致する」と批判的な見解を投稿した。
ただし、サードパーティーへの規制と今回の新インフラ戦略との因果関係について、Anthropicは公式な言及を避けている。
インフラ覇権を巡る四つ巴の戦い
Claude Managed Agentsが参入するのは、Amazon Web Servicesの「Amazon Bedrock Agents」、米Microsoftの「Azure AI」、Googleの「Vertex AI Agent Builder」がすでに確固たる地位を持つ競争の激しい市場だ。
しかし、Anthropicには固有の強みがある。同社が先立って公開し、現在はリナックス財団(Linux Foundation)傘下の団体に移管されたMCPは、業界の事実上の標準になりつつある。今回の新サービスはこのMCPをネイティブにサポートしており、既存の外部システムとの接続をそのまま再利用できる。
さらにClaude Codeという巨大な開発者コミュニティーを持つ点も無視できない。Claude Codeは、公開からわずか6カ月で年換算10億ドルの収益を突破したと報じられている。今回の新サービスは、その開発者基盤を企業向けインフラへと転換する強力な布石となる。
エンタープライズAI市場は今、どのモデルを選ぶかから、どのインフラで動かすかへと競争軸が完全に移行している。Anthropicの今回の動きは、その地殻変動への明確な応答といえそうだ。
本記事は、エクサウィザーズが法人向けChatGPT「exaBase 生成AI」の利用者向けに提供しているAI新聞「Claude Managed Agentsでエージェントインフラ垂直統合」(2026年4月13日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。
© エクサウィザーズ AI新聞
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