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ANAホールディングス「2700億円をDXに投資」 片野坂会長が語る「AI時代の経営者の役割」

AIの進展によって人間の労働価値が大きく変わりゆく中で「企業と個人」「経営者と社員」の関係性を見直すべきタイミングが訪れている。これからの経営者は、どんな組織づくりをしていけばよいのか。ANAホールディングス 取締役会長の片野坂真哉氏が見解を語った。

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 「経営者は『AIがやるべき仕事』と『人間がやるべき仕事』を明確に区分し、仕事の構造改革を断行する必要がある」──そう語るのは、生産性経営者会議 共同委員長であり、ANAホールディングス 取締役会長の片野坂真哉氏だ。


ANAホールディングス 取締役会長の片野坂真哉氏(日本生産性本部より提供)

 AIの進展によって人間の労働価値が大きく変わりゆく中で「企業と個人」「経営者と社員」の関係性を見直すべきタイミングが訪れている。

 これからの経営者は、どんな組織づくりをしていけばよいのか。そして働く人々は労働移動が活発化する激動の時代に、どう備えればよいのか。

 日本生産性本部が2026年5月15日に発表した提言「付加価値増大を軸とした生産性経営の実践〜2040年、日本を世界の生産性トップリーグへ導く経営変革の道筋〜」と、同日に開催した公開シンポジウムにおける同氏の発言から抜粋して紹介する。

経営者への提言

──経営者自身の変革──

1. AI時代の経営者はチーフ・イノベーション・オフィサーへ

2. 効率化重視に留まらない、付加価値を創造し続ける経営の実践を

──戦略の明確化──

3. 自社のドメインナレッジとデジタル技術の融合による「勝ち筋」を明確に

4. 付加価値を最大化できるよう競争領域と協調領域の区別を

5. 自社の戦略的貢献領域を明確に定義し、事業ポートフォリオの再構築を

──産業構造・エコシステムの変革──

6. 業界再編・企業統合・戦略的連携を推進し、産業構造改革の主導を

7. スタートアップとの戦略的な協業・投資の推進を

8. 国内市場は縮小するからこそ、グローバル市場での勝負を

──仕事・人材・組織の変革──

9. 人間が付加価値創造に専念できる職場環境の実現で、真の働き方改革を

10. 人間にとって、やり甲斐のある仕事への労働移動と実効性のあるリスキリングを

11. 「生産性向上の源泉となる多様性」と「経済的格差を放置しない包摂性」を

──経営基盤の強化──

12. 持続的な企業価値向上の経営基盤として、コーポレートガバナンスの高度化を

日本生産性本部「付加価値増大を軸とした生産性経営の実践〜2040年、日本を世界の生産性トップリーグへ導く経営変革の道筋〜」より

「2700億円」DX投資 250億円の人件費抑制を目指す

 シンポジウムにて片野坂氏は次のように語った。

人財力に定評のあるANAだが、AIとはどう向き合っていく?

片野坂氏: ANAは2026年1月に「〜2030年のさらなる高みに向けて〜」と題し、2026-2028年度の中期経営計画を発表した。ここで打ち出したのは、デジタルによって人の力を極限まで引き上げる“人財×DX”の差別化戦略であり、以下の2つの考え方が根底にある。

  • Digital by Default……デジタルを活用できる仕事はデジタルに置き換える
  • Human Premium……人の力を最大限発揮し、他社と差別化する

 今回発表した生産性経営者会議の提言の中でも「デジタルと人の力で」「ドメインナレッジとデジタルの融合で」というワードが頻出しているように、これからの経営における大きな潮流なのだと思う。

人財×DXそれぞれの戦略と数値的な目標は?

 まず人財戦略については「人財の育成・確保」「チームスピリット・挑戦の進化」「エンゲージメント向上」の3つを柱としている。ANAでは稼ぐ力と社員への成果配分の両方を重視するために、グループの付加価値生産性指標を以下の計算式で算出している。

ANAグループ付加価値生産性指標=1人当たり人件費(連結人件費/就業人員数)+1人当たり営業利益(営業利益/就業人員数)

 これを2030年までに、2018年度(コロナ禍前)比で30%アップを目指していく。

 次にDX戦略については、2030年までの5年間で2700億円の投資を決めた。通常、航空機への長期投資として同規模の投資を実施しているが、DX領域にこれだけ投資をするのは初めてのことだ。

 これにより、データと知見の融合による高収益モデルを確立し、約2000億円の増収効果を生み出すとともに、グループ人員数7%相当の生産性向上効果を実現し、約250億円の人件費抑制を目標に掲げている。

AIか人間か 仕事の構造改革こそが「真の働き方改革」だ

AI時代の経営者に求められる要件は?

 経営者向けの提言の9番に「人間が付加価値創造に専念できる職場環境の実現で、真の働き方改革を」とあるが、ここで言う職場環境とは、オフィス設備や空間デザインといったフィジカルな環境改善を指すものではない。

 端的に言えば、AI時代の環境改善とは、AIで労働時間を削減することだ。経営者は社員の仕事を分解し「AIがやるべき仕事」と「人間がやるべき仕事」を明確に区分しながら、仕事の構造改革を断行する必要がある

 そして、これからの経営者には、AIや多様な人財から出てきた複数の提案を瞬時に吟味して、正しい選択肢を選び取る「決定力や決断力」がより求められる。嫌われることを恐れてはいけない。

労働移動について、どう見ているか

 コロナ禍で航空業界は非常に厳しい状況に陥った。そのとき雇用を守るため、客室乗務員をはじめとする累計2300人のグループ社員を330の企業や自治体などの異業種へ出向させた(※)。

※参照:テレビ東京 カンブリア宮殿『テレ東経済WEEK第2弾! 1円でも稼ぐ!地獄を見たANAの新戦略』

 昨今では、政府や経済界でも「リスキリング」や「リカレント」が重要なキーワードとして挙げられる。今後は、事業性が低下した分野から成長分野へと、労働移動がより活発になっていくだろう。

 とはいえ、円滑な労働移動は容易なことではない。これまでグランドスタッフとして空港内で接客をしていた人たちに、いきなり「これからはITの仕事をしなさい」と押し付けても対応できない。やりがいを感じられる仕事へ移動できるよう、経営者は社員との対話を促進すべきである。

主体的なキャリア設計から始まる、会社と個人の新しい関係性

働く人々は労働移動にどう備えるべき?

 今回の発表では、働く人々に向けて、次の4つの提言をしている。

(1)何をどのように学ぶか問い直し、果敢にチャレンジを

 AI時代に入ると、今までの自分の技量をベースに、今までと同じ領域でスキルを高めていく「アップワードスキリング」だけではダメだ。今の仕事のままでいいのかと自身に問いかけ、時にはアドバンスト・エッセンシャルワーカー(デジタル技術なども活用して現在よりも高い賃金を得るエッセンシャルワーカー)への転身も視野に入れながら、より付加価値の高い仕事につながる学び直しが求められる。

(2)「知」を自ら拡充し、デジタル技術を使いこなして付加価値創造の主役へ

 AIはどんどん進化する。ついていくのは大変だと思うが、それでも自らの仕事で培ったドメインナレッジを拡充するための「協働の道具」としてAIを積極的に活用することで、付加価値創造の主役になってもらいたい。

(3)自らのキャリアを会社に委ねず、主体的な設計を

 今の若い人たちは入社した初日から転職を考えているほどだが、心配なのは「1社で定年まで」を前提にキャリアを築いてきた中高年以上の人たちだ。いつか自分の仕事がAIに置き換わったら、次にどこで何ができるのか。会社任せにするのではなく、主体的にキャリアを設計していく気概を持ってもらう必要がある。

(4)多様性をイノベーションの力に変え、現状打破の起点に

 同質的な組織の中からイノベーションは生まれない。多様な人たちとの協働を自ら求め、イノベーションの起点にしていくことが大切だ。

労働移動が活発化することによって社員が流出することに抵抗はないか?

 例えばグループ内で「旅客事業部門から貨物事業部門へ移りたい」と希望する社員がいたら、できるだけ道を開くようにしている。できればグループ内にとどまってほしいという思いからだが、今や会社が労働者を抱え込む時代ではない。

 社員のITリテラシーの向上施策に積極投資していると「社員が外に出やすくなるじゃないか」と言われることもあるが、大いに結構ではないか。経営者は「自社のため」だけではなく「社員のため、社会のため」という発想で、労働移動を許容するべきだと考えている。

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