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中国は敵ではない NVIDIAトップが警告する「米中共存」とAIインフラの盲点

米NVIDIAのジェンセン・フアンCEOは、中国をAIの脅威とみなして封じ込めようとする米国の現在の政策姿勢に、真っ向から異を唱えた。「中国を敵に仕立て上げることは最善の答えではない、彼らと対話することが最も安全な道だ」という。「競争相手と敵は違う」というファン氏のこの一言が、議論の出発点だ。

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 米中によるAIや半導体の開発競争が激化する中、意外な場所から意外な声が上がった。その発言者は、世界最大のAI半導体メーカーである米NVIDIAのCEO、ジェンセン・フアン(Jensen Huang)氏だ。

 4月に配信されたポッドキャスト番組「Dwarkesh Podcast」のインタビューの中で、中国をAIの脅威とみなして封じ込めようとする米国の現在の政策姿勢に、真っ向から異を唱えた。

 「中国を敵に仕立て上げることは最善の答えではない、彼らと対話することが最も安全な道だ」という。「競争相手と敵は違う」というファン氏のこの一言が、議論の出発点だ。

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米NVIDIAのCEO、ジェンセン・フアンは「中国を敵に仕立て上げることは最善の答えではない」と話す(写真撮影:河嶌太郎)

自律型AIが暴く死角 対話なき「サイバー奇襲」の恐怖

 対話の欠如が招くリスクを考える上で、一つの具体的な事例がある。米Anthropicの先進AIモデルである「Claude Mythos Preview」だ。

 このモデルは公開前の段階で、主要な基本ソフトやブラウザの全てにわたって数千件の重大な脆弱性を発見した。脆弱性が存在しないよう特別に設計された堅牢な基本ソフトである「OpenBSD」にすら、27年間も見過ごされてきた脆弱性を発見したという。

 番組のインタビュアーによると、Anthropicが先にこの能力に到達したからこそ、1カ月間手元に置いておき、その間に米国企業に脆弱性を修正させてから一般公開する、という防御側の対応が可能だった。しかし、同じことを中国が先にやったとしたら何が起きるだろうか。

 中国が同等の能力を持つモデルを開発し、自国企業に先行公開したとすれば、中国企業はその間に自国システムの脆弱性を修正できる。一方、米国企業のシステムは無防備なまま攻撃にさらされることになる。

 この問題の解決策について、フアン氏は「研究者や中国、そして全ての国との対話を持ち、人々がテクノロジーをそのような破壊的な形で使わないようにすることが大切だ」と語る。特に米国と中国のAI研究者が実際に対話することは不可欠であり、AIを何に使わないかについて、両者が合意を目指す必要があるという。規制ではなく対話、それがフアン氏の処方箋だ。

「AIは5層のケーキ」 輸出規制を無力化する中国のエネルギー優位

 輸出規制によって中国のAI開発を封じ込めようとする議論に対し、フアン氏は根本的な疑問を呈する。その根拠となるのが、AIを5つの技術レイヤーで捉える同氏独自の視点だ。

 AIはいわば5層のケーキだ、という。下から順に、エネルギー、半導体、半導体の上でAIモデルを動かすための仕組み全体であるコンピューティングスタック、AIモデル、そして最上層のAIアプリケーションの5層で構成される。

 中国は、特に最下層であるエネルギーの層で圧倒的な優位に立っているという。中国には、電力が引かれたままで、あえて稼働していないデータセンターが豊富に存在していると同氏は指摘する。そういう状態で米国が最新鋭の半導体の中国への輸出を規制しても無意味だと言う。なぜならAIは並列処理の技術だからだ。

 最先端の半導体1枚の性能よりも、旧世代の半導体を大量に束ねて同時に動かす総合力がものをいう。エネルギーがタダ同然なら、4倍、10倍の数のチップを束ねればよく、エネルギーが潤沢であれば最先端チップの不足を十分に補える、と同氏は指摘する。つまり、旧世代チップを大量にそろえ、それを動かすエネルギーとデータセンターが潤沢にある限り、中国は十分に競争力のある強力なモデルを開発できるということだ。

 さらに、中国は世界のAI研究者の50%を擁しているとフアン氏は言う。彼らの優れたコンピューターサイエンスによって、アルゴリズムの性能自体を10倍向上させることができる、と主張する。

世界が中国製AIへ傾く日

 すでにそうした現状であるにもかかわらず、輸出規制をさらに強化し、米国と中国の分断が深まればどうなるのか。フアン氏が最も警戒するのは、世界のAIエコシステムが米中2つに完全に分断されるシナリオだ。

 無償で設計図が公開されるオープンソースのエコシステムが外国の技術基盤の上でしか動かない一方、自社保有のクローズドなエコシステムが米国の技術基盤の上で動く。「そうなれば極めて愚かであり、米国にとって最悪の結果になる」と同氏は指摘する。

 「中国は世界最大のオープンソースソフトウェアの貢献国であり、世界最大のオープンモデルの貢献国である。これは事実だ」とフアン氏は断言する。現在、中国のオープンモデルはNVIDIAの半導体とその技術スタックの上で動いている。しかし規制によって中国が独自半導体や独自スタックへの依存を深めれば、世界最大のオープンソース供給国が、米国以外のエコシステムの旗手になる。

 中東や東南アジア、アフリカといったグローバルサウスの国々にとって、無償で利用できる中国発のオープンなエコシステムは、コスト面でも技術面でも極めて魅力的な選択肢になり得る。米国とその友好国以外の全ての技術者が、中国のエコシステムに貢献するメンバーになるということだ。

 今は確かに米国がリードしている。しかし、米国と少数の友好国以外がすべて中国側についたとき、米国のエコシステムが勝ち残る保証はどこにもない。

 エコシステムを分断させずに中国と共にAIを進化させ、対話を続けることは、米国の国益にもなり、世界の安定にもつながる。フアン氏のこの主張は、現在の米国の主流的な政策論とは一線を画す少数派の見解かもしれない。自社の半導体をより多く売りたいというビジネス上のポジショントークもあるだろう。

 しかし、AI時代の冷戦状態のようになり、サイバー空間での攻防がエスカレートしていく未来と比べたとき、対話による共存という道筋は、非現実的な理想論というよりも、むしろ最も現実的な生存戦略なのかもしれない。

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対話による共存という道筋は、非現実的な理想論というよりも、むしろ最も現実的な生存戦略なのかもしれない(写真提供:ゲッティイメージズ)

本記事は、エクサウィザーズが法人向けChatGPT「exaBase 生成AI」の利用者向けに提供しているAI新聞「中国は競争相手だが敵ではない Nvidiaトップが訴えるAI時代の米中共存論」(2026年4月18日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。

著者プロフィール

湯川鶴章

AIスタートアップのエクサウィザーズ AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。17年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(15年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(07年)、『ネットは新聞を殺すのか』(03年)などがある。


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