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棚には「タブレットだけ」──英国No.2スーパーが仕掛ける「売り場を持たない」カタログ店舗の実力 がっかりしないDX 小売業の新時代(3/3 ページ)

英国食品スーパー2位のSainsbury's(セインズベリー)は2016年、カタログ小売Argos(アルゴス)を擁する英Home Retail Groupを約14億ポンド(約3010億円)で買収しました。アルゴスの店内にはタブレットと受取カウンターしかなく、商品は一切陳列されていません。今回の記事では、筆者が実際にアルゴスで買い物体験をした内容から、食品スーパー+非食品ダークストアのフォーマットを整理します。

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送客は双方向に働き、売り場効率が向上する

 週1回以上来店する食品スーパーの集客力と、年数回しか買わない非食品量販の購買が、一つの導線に重なります。低頻度業態が高頻度業態の中に入ることで「ついで」の接点を獲得し、オンライン注文したアルゴスの受け取り客がスーパーで食品を買います。送客は双方向です。

 電球やケーブルのようなロングテール商品を物理棚から外し、デジタル検索とバックヤードで売る。空いた棚は食品やペットフードなど、高回転率で鮮度重視の商品に振り向ける。店舗併設のアルゴスは各店舗約2万SKUを扱い、オンライン全体では5万SKU超に達します。倉庫では圧縮陳列が可能なので、売り場面積あたりの生産性で考えれば、食品スーパーでは到達できない水準です。

2400万人の顧客データを基盤に、リテールメディアを展開

 両ブランドは共通ポイント「Nectar」で接続されており、セインズベリーの食品売り場では、会員向け価格「Nectar Prices」が導入されています。一方、アルゴスではNectarポイントをオンライン・店頭の双方でためたり使ったりできます。

 運営会社のNectar360は、約2400万人の顧客データを基盤に、セインズベリーとアルゴスを横断するリテールメディア事業を展開しています。これは英国第3位のサイト訪問数を誇るアルゴスがあるからこそ機能する仕組みです。

 買収で得たのは売り場と売り上げだけではありません。食品に偏っていた購買データに、家電・玩具・家具という非食品の購買データが加わりました。広告主から見れば、日々の食卓から引っ越しや出産といったライフイベントまで見える媒体になります。店舗統合はコスト削減策であると同時に、データ事業の拡張投資でもありました。

アルゴス事例から見る、がっかりしないDXのポイント

 日本でも、食品スーパーとドラッグストア、家電、衣料、生活雑貨が同じ建物に入る例は珍しくありません。しかし、その多くは「同じ場所に並べただけ」のテナントミックスにとどまっています。顧客から見れば便利ではありますが、企業側の在庫、ID、購買データ、受け取り機能、販促設計が一体化していなければ、本当の意味での相乗効果は生まれません。

 セインズベリーによるアルゴス統合の8年間が示したのは、店舗網の縮小と顧客接点の拡大は矛盾しない、ということです。単に不採算店を閉めたのではありません。閉める店を決める一方で、残すべき機能を見極め、食品スーパーの中に移しました。

 売り場に置くべき商品と、キオスクとバックヤードで受け取らせる商品を分けました。また、共通IDで顧客を束ね、購買データをリテールメディアに転換。そして食品売り場では、奇をてらわず「普通の売り場」の完成度を徹底しました。

 ここに、日本の小売が学ぶべき点があります。DXの成果は、導入したアプリの数でも、設置した端末の数でも、ECサイトの見栄えでも決まりません。顧客がどこで商品を知り、どこで選び、どこで受け取り、どのIDでつながり続けるのか。その接点全体を再設計できるかで決まります

 店舗閉鎖を発表するとき、同時に「その店が担っていた機能を、どこへ移すのか」を語れるでしょうか。売り場を減らすとき、同時に「減らした棚の代わりに、どの接点で売るのか」を設計できているでしょうか。

 顧客にとっての不便を増やさず、企業にとっての収益機会を増やす──この両立を描けるかどうかが、がっかりしないDXと、単なる縮小均衡の分かれ目です。

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