「流行」を捨てたユニクロ、牛肉を“あまり売らない”スーパー 成功企業に共通する「前提を変える」思考法: がっかりしないDX 小売業の新時代(1/3 ページ)
「店舗に来てもらうのが基本」「品ぞろえの幅が競争力」「安さで集客する」「チラシとポイントで販促する」──これらはいずれも数十年にわたって業界の常識として機能してきました。ビジネスの出発点は、これらの前提を疑い、変えること。今回の記事は、前提を変えて成長する企業の事例を紹介します。
連載:がっかりしないDX 小売業の新時代
デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。
前回の記事では、日本国内大手レストランチェーンの約8割に導入されている蛇口用の節水ノズル「Bubble90」を提供するDG TAKANO(東京都台東区)の代表取締役高野雅彰氏の講演の内容を起点に、小売業のDXが成果を出せない構造的原因を整理しました。問題は努力不足でも技術不足でもなく、判断基準を支えている「前提」が更新されていないこと。後編の本記事では、前提を変えた企業の事例を複数の業界から取り上げ、検証します。
前回の記事:セルフレジ、AI導入……あなたの会社の「小売DX」が全て失敗に終わるワケ 見落としがちな「前提設計」の重要性
著者プロフィール:郡司昇(ぐんじ・のぼる)
20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。
現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」シニアフェロー Nextリテール分科会リーダーなどを兼務する。
公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇
公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質2025DX』
「安さで集客」「品ぞろえが競争力」 前提を疑うことの難しさ
前提を疑えと言われても、すぐに実行できる企業はほとんどありません。普段意識されないからこそ「前提」なのです。
「店舗に来てもらうのが基本」「品ぞろえの幅が競争力」「安さで集客する」「チラシとポイントで販促する」──これらはいずれも数十年にわたって業界の常識として機能してきました。
業績が悪化しても、前提そのものではなく実行の精度に問題があると考えてしまいがちです。もっと安くすれば、もっと品ぞろえを増やせば、もっと効率的にオペレーションすれば……。前提を疑うとは、自分がいま何を無意識に信じ込んでいるかを自覚すること。それは技術やツールの導入よりもはるかに困難で、はるかに本質的な経営行為です。
前提を変える経営を具体的にイメージする上で参考になるのが、ユニクロの事例です。
「流行を追う」という前提を捨てたユニクロ
アパレル業界の常識は明確でした。ファッションとは流行を追うことであり、多品種・短サイクルで差別化するのが勝ちパターン。この前提の上では、判断基準は「今シーズンのトレンドをいかに早く商品化するか」になり、売れ残りリスクと値引き競争の消耗戦を繰り返していました。
ユニクロはこの前提を変えました。ファッションの本質を流行ではなく、日常の快適さと再定義しました。判断基準は「トレンドへの対応速度」から「ベーシック衣料の素材品質と機能性」に変化。ヒートテック、エアリズムといった素材技術へ集中投資し、流行を追わないから、シーズンをまたいで同じ商品を改良し続けられる。結果、ユニクロ事業の売上収益は2兆9363億円(2025年8月期)、アパレル企業として世界第3位に成長しました。
流行で戦う土俵に乗らなかったから、流行に振り回されるリスクそのものが消えたのです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

