セルフレジ、AI導入……あなたの会社の「小売DX」が全て失敗に終わるワケ 見落としがちな「前提設計」の重要性: がっかりしないDX 小売業の新時代(1/3 ページ)
セルフレジの導入、需要予測AIの活用……あなたの会社で「小売DX」を許可しても売り上げは横ばいで、人手不足は解消せず、価格競争から抜け出せない理由は?
連載:がっかりしないDX 小売業の新時代
デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。
セルフレジを入れた。発注を自動化した。需要予測AIも走らせた。それでも売り上げは横ばいで、人手不足は解消せず、価格競争から抜け出せない。現場には「また新しいシステムか」という疲弊感だけが残る──。
小売業に携わる方なら、一度はこの光景を目にしたことがあるのではないでしょうか。
店舗オペレーションの効率化、価格最適化、在庫回転率の向上。これらは全て「既存の商売の仕組みをより速く、より安く回す」という前提の上で行われますが、前提そのものは一切変わっていません。
日本企業の多くは目の前の「現象」ばかりに注目してしまいがちですが、前提が変わらないのならば、改善をしても「同じ未来を早く呼び込む」だけとなってしまうのです。
過去と同じ判断基準のまま頑張っても、未来だけ良くなることはありません。今回は日本国内大手レストランチェーンの約8割に導入されている蛇口用の節水ノズル「Bubble90」を提供するDG TAKANO(東京都台東区)とセブン‐イレブンの事例から、小売DXを成功させるために必要な「前提設計」について考察します。
著者プロフィール:郡司昇(ぐんじ・のぼる)
20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。
現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」シニアフェロー Nextリテール分科会リーダーなどを兼務する。
公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇
公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質2025DX』
ビジネスの出発点は「どの前提が間違っているか」を見極めること
DG TAKANOは東大阪のガスコック工場で育った3代目・高野雅彰氏が家業とは別で起業し、最大95%の節水を実現するノズル「Bubble90」を開発。日本の飲食チェーンやスーパーで広く導入されています。
同社はサウジアラビアでも、全国のモスクへBubble90の導入を目指すパイロットプロジェクトなどを進めています。
さらに、洗剤なしで汚れが落ちるナノテク食器「meliordesign」も開発。節水ノズルを組み合わせ、キッチンの水使用量を最大99%削減するトータルシステムを構築し、洗剤を使わないことで残飯の堆肥化も可能にしています。
この企業が注目したのは「どうやって節水するか」ではありません。「洗うには、水を大量に使うのが当たり前」という前提そのものです。
筆者がリーダーを務める一般社団法人日本オムニチャネル協会が主催するイベント「オムニチャネルDay」に、DG TAKANOの代表取締役高野雅彰氏が登壇しました。当日の高野氏による講演は、日本の小売業がイノベーションを起こす上で極めて重要な示唆を含んでおり、その内容に筆者の解釈を加えて以下に記載します。
日本企業は30年間負け続けた。なぜ負け続けたのかを分析しなくてはならない。努力不足か? そんなことはない。技術が足りなかったのか。技術は依然として世界トップクラスだ。人材はどうか。他国に比べて極端に劣っていたわけではない。
──高野氏は問題の所在を明確に示しました。「問題は判断基準です。何を成功と定義して、何をリスクと定義したか、その前提がほとんど更新されていない。まさしくこれだけなんです」
私たちが今立っている場所は、過去の判断と行動の積み上げで決まっています。今のポジションに満足しているなら、過去の判断基準は正しかったと言えます。しかし満足していないなら、話は別です。
「いつ判断基準をアップデートしましたか」と、高野氏はイベント参加者に問いかけていました。
多くの企業は「売り上げが落ちた」「人が採れない」「価格競争が厳しい」といった現象を見て、既存の基準にのっとって判断します。しかし高野氏はそういった内容ではなく、その判断を支えている前提の方を重視しているのです。
「多くの方はDG TAKANOはものづくりの会社だと見ている。確かに製品は作った。でも私は技術から出発したことが一切ない。出発点はいつも『どの前提が間違っているか』なんです」
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