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お寺の副住職が「PDF」を使い倒したら何が起きた? 「お盆のハガキ300枚」をAIが仕分ける時代へ

長野県浄土宗善立寺では、PDFを活用し、さまざまなデジタル化の取り組みを進めている。従来の“紙ベース”の業務を、どのようにデジタル化しているのか。

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 長野県塩尻市にある浄土宗善立寺では、PDFを活用し、さまざまなデジタル化の取り組みを進めている。従来の“紙ベース”の業務を、どのようにデジタル化しているのか。

 アドビは6月15日、ドキュメントスキャナーなどを展開するPFUと共催で「紙からPDF、そしてAIへ」と題し、記者説明会を実施した。イベントには善立寺の副住職 小路竜嗣氏が登壇し、お寺の現場で実践しているPDF活用法や、AI時代におけるPDFの可能性を紹介した。

長野・善立寺が進める5つの「デジタルによる効率化」の取り組みとは?

 長野県・浄土宗善立寺の副住職である小路氏は、異色の経歴の持ち主である。

 信州大学で機械工学を専攻し、大学院修了後、エンジニアとしてリコーに入社。その後、善立寺の一人娘との結婚を機に、同社を退社し、出家することに。

 現在は善立寺の副住職を務めながら、ドキュメントスキャナー「ScanSnap」の公式プレミアムアンバサダーやAIサービス「Manus」(マナス)の公式フェローを務めるなど、寺院のIT化・リテラシー向上に寄与している。

 さっそく、小路氏が紹介した5つのPDF活用事例を見ていこう。

(1)お盆の棚経ハガキ300枚のデジタル化

 棚経(たなぎょう)とは、お盆に菩提寺の僧侶が檀家(だんか)の家を訪ね、仏壇や精霊棚の前で読経を行う法要のこと。スケジュールを組むためにお寺から往復ハガキを送ると、希望の日時などが記入されたものが返送される。その数は300枚にも上り、かつて紙のまま管理していたころは、住職と小路氏の間で情報に齟齬(そご)が生じていたという。

 そこでScanSnapを使ってハガキを一括で取り込みPDF化することに。外出先からスマホやiPadでいつでも確認できるようになり、情報共有がスムーズになった。

 さらに、このPDFデータを基に自然言語で情報を取り出せるワークフローを計画中だ。これが実現すれば、AIアシスタントに「◯◯地区で棚経を希望している檀家さんは何軒ありますか? いつ訪問すべきかリストアップしてください」と頼めば、すぐに一覧を作成できる。

(2)契約書のレビュー

 これはお寺に限ったことではないが、アンバサダー活動の一環で、企業主催イベントへの登壇機会が多いという小路氏。企業と契約を締結する際に、Adobe Acrobatに搭載された生成AI機能である「Acrobat AIアシスタント」に相談して、法務の一次スクリーニングを行っている。

 「乙に不利な条項はありますか?」と尋ねると、どこのページの何条にリスクがあるのか、引用付きで回答してくれるため、根拠となる条項をワンクリックで確認することが可能だ。Adobe AcrobatではAIの学習データとして二次利用されないことが保証されているため、契約書のような機密性の高い文書でも安心して活用できるのが利点だという。

(3)15年分の「寺報」をPDFスペースで活用

 お寺の会報誌である「寺報」は、これまで15年間にわたり、Adobe InDesignを使って、小路氏自ら制作・発行し続けてきた。

 従来、“発行して終わり”だった寺報だが、バックナンバーのPDFを全て「PDFスペース」に保存したことで、過去の膨大なデータを一元管理できるようになった。

 ちなみに、PDFスペースとは、2025年12月にローンチされたAcrobatのワークスペースのことだ。最大100ファイルを保管して、Acrobat AIアシスタントで活用することができる。


15年分の「寺報」をPDFスペースで活用(提供:アドビ)

 小路氏はPDFスペースの中で、Acrobat AIアシスタントに「過去に◯◯のテーマで書いた記事をピックアップして」「これまでの傾向を踏まえ、新しい切り口で次号のテーマを提案して」といったリクエストをしながら、記事を作成している。

 「眠っていた情報をナレッジとして活用することで、新しいインサイトが生まれるようになった」(小路氏)

(4)90年続く雑誌『浄土』の1000号分のデジタルアーカイブ

 浄土宗関連団体 法然上人鑽仰会が発行する雑誌『浄土』は、1935年の創刊以来、現在も発行が続いており、その数は1000号に上る。その膨大な量の雑誌を非接触モデルの「ScanSnap SV600」で全てスキャンし、PDF化。デジタルアーカイブとして法然上人鑽仰会の公式サイトで無償公開している。

(5)研究調査におけるAI活用

 大正大学地域構想研究所の客員研究員でもある小路氏は「研究調査でAIを活用するなら、Acrobat AIアシスタントが最適だ」と語る。

 汎用的な従来の生成AIは、ハルシネーションのリスクと常に隣り合わせであり、ファクトチェックや引用元の特定コストがかさむ点が課題となっていた。しかし、Acrobat AIアシスタントでは、複数の論文PDFを基にAIが新規性と差分を自動で整理してくれるほか、回答の横に表示された引用ソースのアンカーリンクをクリックするだけで、正確な該当箇所へ瞬時にジャンプすることができる。


長野県 浄土宗善立寺の副住職 小路竜嗣氏(筆者撮影)

PDFは人間よりもAIが読む時代に

 今やビジネス文書や公的文書を保存・配布するファイル形式として、広く使われているPDF。そんなPDFの提供開始をアドビが正式発表したのは、1993年6月15日のことだった。

 それから33年の時が経ち、AIを筆頭にさまざまなテクノロジーが加速度的に進化していく中、これからもPDFはその存在価値を示し続けられるのだろうか。

 これまでのPDFは、“人間が読むため”のものだった。しかし、これからAI時代になると、PDFを読むのは、人間よりもAIのほうが多くなる。

 「PDFは『編集できない、固めるためのフォーマット』であると誤解されているが、本当は『情報を出し入れできる“情報のコンテナ”』」だとアドビの立川太郎氏は語る。

 見た目は同じでも、JPEGのような画像データとは異なり、PDFはテキストを選択したり検索したりすることができる。つまり、PDFはテキストデータ・メタデータ・注釈/コメント・電子署名といった、中身のデータが構造化された“入れ物”であり、AIが活用できるのは、画像ではなくテキストデータを持つPDFのほうなのだ。


PDFは中身のデータが構造化されており「情報コンテナ」としての価値を持つ(提供:アドビ)

 従って、紙の書類をスキャンしてデジタル化する際にも、画像データのままではなく、OCRでテキストデータを読み込んだ上で、PDFとして保存しておくといいという。今の生成AIは画像データも読めるとはいえ、毎回膨大な画像データを精査してテキストを正確に抽出するには、時間がかかりすぎるからだ。

 紙からデジタル、そしてAIへと時代が移り変わる中、ただの「保存フォーマット」だと思われていたPDFを「情報のコンテナ」として捉え直していく──アドビはその地位を確立できるか。今後の動向を注視したい。

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