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なぜIBMやウォルマートの採用条件から「大卒」「経験3年」の文字が消えているのかAI・DX時代に“勝てる組織”(3/3 ページ)

多くの企業が「人が採れない」と頭を抱えている。しかし、その原因は労働市場だけにあるとは限らない。今、世界で注目される「スキルベース採用」という考え方と先進企業の実践から、人材獲得競争を勝ち抜くための新たな採用戦略を探る。

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IBM、Walmart、Aonは何を変えたのか

 では、この考え方を経営レベルで実装し、成果を上げているグローバル先進企業は、どのような仕組みを構築しているのでしょうか。

 米IBM、米Walmart、英Aonといった企業に共通しているのは、スキルベース採用を「外部から人を採るためだけの手法」として終わらせていないことです。

 採用、学習機会、実務経験、社内登用、キャリア移動に至るまで、すべてを「スキル」という共通言語で一体的に設計しています。

IBM:「学歴要件を外す」だけでは終わらせない

 スキルベース雇用のパイオニアであるIBMは、IT業界において「New Collar」という概念を提唱してきました。これは、4年制大学の学位を必ずしも必要としない、新しい時代のスキルを持った人材を意味します。

 同社は、米国の求人の半数以上で学位要件を撤廃しました。その結果、従来はアプローチできていなかった多様なバックグラウンドを持つ層からの応募が増え、現在では米国内で採用される人材の約20%が学位を持たない人材です。

 IBMが優れている点は、必須条件から学歴を消したこと自体にはありません。「学歴の代わりにスキルを見ます」と門戸を開いても、候補者側からすれば、どうやってそのスキルを身につけ、証明すればよいのか分からないからです。

 そこでIBMは「SkillsBuild」という無償のオンライン学習プラットフォームを提供し、さらに実務と学習を組み合わせたアプレンティスシップ、すなわち、収入を得ながらも、知識やスキルについて学ぶ見習い制度のプログラムを構築しました。

 「学ぶ機会」と「実務に入る経路」をセットで提供するエコシステムを作らなければ、真のスキルベース採用は機能しない。IBMの取り組みは、そのことを示しています。

Walmart:採用・育成・社内登用を「スキル」でつなぐ

 世界最大の小売企業であるWalmartは、米国内の職務の90%において学位を必須としていません。さらに注目すべきは、米国の店舗、クラブ、サプライチェーン部門における給与制マネジャーの75%が、時給制のフロントライン従業員としてキャリアをスタートさせているという事実です。

 同社は「Walmart Academy」や従業員向けの教育費支援プログラムに多額の投資をして、現場の従業員が働きながらマネジメントやテクノロジーのスキルを習得できる環境を整えました。さらに、今後3年間で需要が高まる約10万件の重要職務について、従業員が短期証明書プログラムなどを通じてリスキリングし、別職種へキャリア移動できるよう支援を強化しています。

 外部採用で苦戦する企業ほど、実は自社の足元にいる従業員の「スキルの原石」を見落としているケースがあります。Walmartは、スキルベースの考え方を「社内人材を発見し、育成し、登用する仕組み」へと広げている好例です。

Aon:「経験者を探す」から「経験を積める仕組みを作る」へ

 大手保険会社のAonは、保険やリスクマネジメントといった高度な専門知識が求められる業界にありながら、未経験人材の採用と育成で成果を上げています。

 同社は2017年、シカゴにおいて、地域のコミュニティカレッジでの座学とAonでの有給の実務を組み合わせたアプレンティスシップ制度を開始しました。これまでに約300人のアプレンティス(見習い)を支援しており、シカゴ地区での修了率は80%を超え、修了者の多くにフルタイム職のオファーを出しています。

 労働市場に「即戦力の経験者」がいないのであれば、他社と限られた人材を奪い合うだけでは限界があります。Aonの事例は「経験者を探す」という従来の発想から「育成可能なスキルを、実務を通じて補完し、経験を積める仕組みをつくる」発想への転換を示しています。

企業に求められる「採用のものさし」のアップデート

 IBM、Walmart、Aonといった企業に共通しているのは、採用プロセスで人を見る基準を変えただけではないという点です。入社後に成長できる機会を提供し、獲得したスキルを基に配置や登用の選択肢を広げています。

 採用、育成、配置、キャリア形成――これらを分断せず、「スキル」という一本の軸でつなぎ合わせているのです。

 現在の日本企業が直面している「人が採れない」「優秀な人が定着しない」という課題の根底には、会社側が「過去の肩書き」や「部署というサイロ」に縛られ、目の前にいる人の可能性を狭めているという構造的な問題があります。

 強い組織とは、採用時点で「すでに完成された100点満点の人」を探す会社ではありません。成長のポテンシャルを持った人を見つけ、適切に育て、それぞれのスキルを最大限に発揮できる場へ配置する。その一連の仕組みを持った会社こそが、「誰もが成長し、活躍できる会社」です。

 採用基準を見直すことは、人事部だけの仕事ではありません。経営陣や現場のマネジャーも巻き込んだ、会社全体の人材マネジメントの転換です。

 完成された人を探す会社から、成長できる人を見つけ、育て、活躍につなげる会社へ。求人票の「大卒以上」や「経験3年」という文字を消す前に、まずは自社の人を見る「ものさし」を解像度高くアップデートする必要があります。

 「人が採れない」と嘆く前に、会社は本当に人の可能性を見ているのか。スキルベース採用は、その問いを企業に突きつけています。

著者紹介:小出翔

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GrowNexus代表取締役

デロイトトーマツコンサルティングにて14年間のコンサルティング経験を経て、GrowNexusを設立。

多様な業界の大手企業・官公庁・自治体に対し、人事・組織改革、新規事業創出、業務効率化の戦略策定から実行・伴走支援まで幅広く手掛ける。近年はDX推進に加え、デジタル人材戦略から採用・配置・育成・評価・処遇に至る一貫した支援を実施。経産省・IPAのデジタルスキル標準策定も支援しており、デジタル時代の人材・リスキリングに特に強みを持つ。GrowNexusの代表として、伴走・成長支援型のサービスと、テクノロジーを融合した新しいサービスを提供。

著書に『未来のキャリアを創る リスキリング』『地銀”生き残り”のビジネスモデル 5つの類型とそれらを支えるDX』『働き方改革 7つのデザイン』など多数。近著に『誰もが成長し活躍する会社のしくみ「スキルベース組織」という新しい人材マネジメントの実践法』。

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