TSMC誘致で激変する熊本 地元の老舗百貨店が「台湾需要」を取り込んだ、“賢い”戦略とは?(1/3 ページ)
かつて「街の顔」として栄華を誇った地方百貨店の苦境が叫ばれて久しい。しかし中には、そうした環境の変化を好機と捉え、新たな価値創出へと舵を切る例も見られる。後編では「鶴屋百貨店」の事例を紹介する。
著者紹介:若杉優貴(わかすぎ ゆうき)/都市商業研究所
都市商業ライター。大分県別府市出身。
熊本大学・広島大学大学院を経て、久留米大学大学院在籍時にまちづくり・商業研究団体「都市商業研究所」に参画。
大型店や商店街でのトレンドを中心に、台湾・アニメ・アイドルなど多様な分野での執筆を行いつつ2021年に博士学位取得。専攻は商業地理学、趣味は地方百貨店と商店街めぐり。
アイコンの似顔絵は歌手・アーティストの三原海さんに描いていただきました。
地方の消費環境が変化する中、経営が苦しくなる地方百貨店は後を絶たない。しかし、そうした変化を好機と捉え、大胆な店舗改革に取り組む例も多く見られる。
前編では、昭和のままの姿で縮小しつつあった百貨店を、新たな資本を取り入れながら建て替える道を選んだ老舗百貨店「佐賀玉屋」を紹介した。
九州にはこのほかにも、進化を遂げつつある百貨店がある。例えば、熊本市の中心商業地において圧倒的な存在感を持つ「鶴屋百貨店」だ。世界最大級の半導体メーカー「台湾積体電路製造」(TSMC)の熊本進出を追い風に、単なる「インバウンド対応」にとどまらない変化を見せている。鶴屋百貨店はどのような戦略によって進化しつつあるのかを解説する。
熊本県唯一の百貨店「鶴屋百貨店」は1951年に創業した。地方百貨店としては比較的歴史が浅い。熊本市中心部にある本店以外にフルライン百貨店業態の支店はないものの、8万平方メートル近い広大な売り場があり「ハンズ」「GAP」「ユザワヤ」などといった多くの専門店も入居している。
CMソングや「上質なくらしを提案する郷土のデパート」というキャッチフレーズは「熊本市民では知らない人はいない」と言われるほどだ。東館があるテトリアビル内にくまモンと会える「くまモンスクエア」を備えるなど、市の中心商業地におけるシンボル的存在として、地元客・観光客を問わず圧倒的な集客力を持つ。
百貨店の定番イベントである物産展も人気だ。話題性が高い物産展を開催する日には、立体駐車場に空車待ちの列ができることも少なくない。
TSMC熊本進出を商機に 老舗百貨店の“賢い”戦略とは?
そんな鶴屋百貨店が近年、従来型の物産展の枠を超えて注力しているのが「台湾コラボレーション」である。
コラボ展開の大きなきっかけとなったのは、2021年秋に決定した世界最大級の半導体メーカーTSMCの熊本進出だ。台湾・新竹市に本社を置くTSMCが進出したのは、熊本市の東側に隣接する菊陽町。その結果、熊本都市圏では半導体や関連企業の集積が進み、台湾人の居住者やビジネス来訪者も増えつつある。
こういった街の変化に対し、鶴屋百貨店や傘下のスーパー・鶴屋ストアは単なる「インバウンド対応」にとどまらない対応を見せている。従来のような「外国人観光客」としてではなく「地域の一員」としての外国人需要を見据え、新たに台湾人の社員を採用。外商チームによる新規顧客開拓や台湾食材売り場の導入、台湾総菜の開発などにも取り掛かった。
こうした動きの象徴的な役割を果たしているのが「台湾フェア」だ。
日本国内における一般的な「台湾系イベント」といえば、大都市圏の公園やイベント会場で大規模に開催するケースが多い。地方百貨店では、物産展として単発的に実施することはあっても継続開催に至る例は少ない。一方、鶴屋百貨店では2023年に台湾フェアを初開催して以降、複数回にわたって実施し、いまや「北海道物産展」などと並ぶ定番催事へと成長しつつある。
短期間での定番化は来場客からの支持のみならず、台湾企業や政府機関などの支援、そして安定した出店ネットワークの構築があって実現するものだ。鶴屋百貨店の台湾フェアでは、近鉄百貨店がフランチャイズ運営する台湾のセレクトショップ「神農生活」を期間限定で出店させるなど、百貨店同士のつながりを活用した店舗誘致を実施している。
そのほか、台湾・中華航空(チャイナエアライン)や台湾観光協会といった複数の台湾大手企業・法人などの後援も受けている。これは地方百貨店としては異例であるといえる。
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