ため息、舌打ち、強いタイピング音は、なぜ嫌われるのか? 職場で広がる「音ハラ」の根っこ(3/4 ページ)
ため息や舌打ち、強いタイピング音――。かつては見過ごされてきた職場の音が、いま「音ハラ」として問題視されている。なぜ今になって不快な音がハラスメントと捉えられるようになったのか。その背景を探った。
若い世代ほど、音に敏感なのはなぜか
音への感度には世代差がある。村嵜氏によれば、音ハラを指摘される人は20〜60代と幅広いが、音ハラに関する相談を寄せるのは20〜40代が中心だ。背景には、育った時代の違いがある。20〜40代は、ハラスメントが今ほど問題視されていなかった時代を知らず、互いに配慮し合うことを当然と考える人が多い。
配慮が当然という感覚からすると、不快な音はマナー違反と映り、その分だけ敏感になる。加えて、キャリア形成の途上にあり、音ハラで自分のパフォーマンスが落ちるのを避けたいという意識も働く。
一方で、概念の浸透は別の副作用ももたらす。ハラスメントへの目が厳しくなり、言いたいことを言いづらくなった上司が、不満を独り言や愚痴で消化する。聞きたくなくても聞こえるその声が、また音ハラとして名指しされる。ハラスメントを抑えようとする動きが、かえって不快な音を生む構図だ。
村嵜氏は、音ハラのほか「不機嫌ハラスメント」なども定義してきた。「定義することで、曖昧なまま過剰に主張する人を抑制できる」と語る。日本ハラスメント協会が定義し責任を持つことで、本当に悩む人には判断基準を示せるという。ただ、その線引きは容易ではない。
音ハラかどうかの判断にもいくつかの基準があるが、周囲がその音を不快と感じているかどうかは、客観的な証拠や第三者の証言が得にくく、判断が割れやすい。人によって音の感じ方が異なるという根本的な難しさがある。
それでも定義する意義は大きい。「何でもハラスメントと呼ぶなという声も、新しいハラスメントに悩む声も、どちらも大事。世代によって受け止め方は異なるが、全世代が共存しなければならないからこそ、基準を示すことに意味がある」(村嵜氏)
新しいハラスメントが次々と生まれるのは、人間関係の距離感が急速に変化している証でもある。
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