「普通に満足」だけでは、もう選ばれない? ユニクロ、セコマの事例にみる「感動のツボ」の設計(3/3 ページ)
顧客満足度を高めるうえで重要なのは、単に不満をなくすことでもなければ、やみくもに感動を演出することでもない。「極端な満足」を得るために、顧客との関係性に合わせて体験を設計していくことだ。
ロイヤル顧客になるほど「感動のツボ」は変わる
顧客体験は利用回数によっても変化する。
例えば接客において、利用頻度の低いライトユーザーは店舗の雰囲気や見た目の印象など、分かりやすい要素に反応しやすい。
一方、利用頻度が高いミドル・ヘビーユーザーになると、表面的な演出よりも、自分の好みや状況を理解してくれる接客を評価する傾向が強くなる。パーソナライズされた対応や、言葉にしていないニーズをくみ取るサービスは、ロイヤルティの高い顧客ほど高く評価するという。
テーマパークを例にすると、利用経験が少ないライトユーザーは、新しいアトラクションやイベント開催といった分かりやすい変化に反応しやすい。つまり、大型アトラクションへの投資はライトユーザーの獲得に効果的だという。
一方、利用頻度が高いロイヤル顧客になると、新しいアトラクションの効果は薄れる。場合によっては従来との違いに違和感を抱くことさえある。こうした既存顧客との関係を深めるためには、接客品質やきめ細かなサービス改善の方が重要になる。
このように「ロイヤルティラダー」(顧客がブランドと初めて接点を持ってから、ファンになるまでのフレームワーク。ラダーは「はしご」の意味)を登るにつれて、顧客の「感動のツボ」は変わる。どの層の顧客を対象にするのかによって、感動体験の設計を変える必要がある。
重要なのは「記憶に残る体験」
小野氏が近年、特に注目しているのが、人間の記憶とCXの関係だ。
日常の体験の大半は平坦なものであり、時間が経てば忘れられてしまう。しかし感情が大きく動いた体験は記憶に残りやすい。
ただし、人間の記憶は必ずしも正確ではない。認知科学の研究によれば、人は過去の出来事をそのまま保存しているのではなく、思い出すたびに再構成しているという。
例えば1年前のテーマパーク体験を振り返るとき、人は実際の出来事だけでなく、別の記憶や印象を混ぜながら再構成してしまう。覚えていない部分を無意識に補完することさえある。
そのため企業は、顧客に感動体験を提供するだけでなく、その記憶を正しく思い出させるための仕組みを設計する必要がある。
代表的なのが写真だ。体験中に写真を撮影した人と撮影しなかった人では、後からの記憶の残り方が異なるという。写真は記憶を呼び起こす物理的な痕跡として機能する。
企業ができる例としては、お礼メールやアンケートも同様だ。顧客が体験を言語化することで、記憶を整理し、後に思い出すためのフックになる。スマートフォンが表示する「1年前の今日の写真」や音楽配信サービスの年間振り返り機能も、記憶を再生する仕組みとして理解できる。
CXは体験そのものだけでなく、後からどう思い出されるかまで含めて設計する時代に入っている。
感動体験は目的ではなく手段
小野氏は現在「顧客の幸福」(Customer Well-Being)についても研究を進めている。顧客が感じる幸福には、大きく2つの側面があるという。
一つは「ヘドニア」と呼ばれる快楽的幸福。快適な環境や楽しさ、心地よさから得られる幸福感を指す。
もう一つは「エウダイモニア」と呼ばれる自己実現型の幸福。生きがいや成長実感、達成感などがこれに当たる。
快適な車で移動することはヘドニア的な幸福につながる一方で、山登りやマラソンのような苦労を伴う挑戦は、エウダイモニア的な幸福をもたらす。
人は快適さだけを求めているわけではない。あえて困難に挑戦し、その過程で自己実現を感じることも幸福の一部となる。
CXを考える際にも、感動そのものを目的化する必要はない。重要なのは、顧客の記憶に残る体験を通じて、再利用や継続利用につながる価値を生み出すこと。感動体験はゴールではなく、そのための手段として位置付けるべきものだと小野氏は強調した。
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