形骸化する障害者雇用、出社回帰、消えない男女格差……制度を変えても職場にはびこる「昔の価値観」:働き方の見取り図(1/3 ページ)
働き方改革関連法の施行から7年が経ち、有給休暇の取得促進や残業時間の上限規制など、制度面での改革は着実に進んできた。一方で「本当に働き方は変わったのか」と問われると、首をかしげる人も少なくないだろう。骨太方針2026の議論を手掛かりに、働き方改革が抱える誤算を考える。
高市首相が労働時間規制緩和の検討を指示したことを不安視する声が、いまでも聞こえてきます。
政府は「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2026」の原案を公表し、閣議決定に向けて議論を進めています。骨太方針の原案を確認する限り、労働時間規制の緩和という文言は見られません。示されているのは労働時間法制について議論を進めるという方向性です。
一方、雇用・労働に関する施策は進んでいます。
障害者雇用の促進、育児休業制度の利用促進――働き方改革関連法の施行から7年が経ち、すでに職場ではさまざまな改革が進められてきたはずです。これまでの施策を土台に、職場のさらなる進化が期待されますが、大きな懸念があります。過去から続く価値観が刷新されずに制度だけ変えても、矛盾した未来しか見えてこないということです。本稿では、この古い価値観を「世界線」と表現します。
その象徴的な出来事の一つが、まさに労働時間規制の緩和の検討です。今回は、骨太方針の背景に垣間見える、働き方改革の誤算について確認したいと思います。
著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫
愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。
所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。
NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。
残業を減らしたのに「もっと働きたい」人が1割いる理由
働き方改革によって、働きやすくなったと感じている人は一定数いるかもしれません。年10日以上の有給休暇を保有する社員は、年5日以上取得することが職場に義務付けられました。
有休は以前より取りやすくなりましたし、残業についても上限規制が強化されたため、労働時間が短くなったと感じている人もいるはずです。働き方改革は一定の成果を上げているようにも見えます。
しかし、高市首相からは労働時間規制の緩和検討の指示が出ました。働き方改革が進めてきた流れと逆行しているように感じますが、厚生労働省が公表した「働き方改革関連法施行後5年の総点検(結果概要)」によると、全体の10.5%が労働時間について「増やしたい」と答えています。
「減らしたい」と答えた人は30.0%なので、減らしたい人の方が多くはあるものの「増やしたい」人が1割強いることも無視できません。
内訳を見てみると、増やしたい人の6割弱が、労働時間は週35時間以下と比較的短い人たちです。また、労働時間を増やしたい理由の中には「たくさん稼ぎたいから」(41.6%)、「所定労働時間以外の労働分の収入(残業代)がないと家計が厳しいから」(15.6%)などの意見も見られます。
中には「業務を通じて知識や経験・スキル・技術を高めたいから」(7.0%)といった理由の人もいますが、労働時間を増やしたいと考えている背景には、収入面の事情があることがうかがえます。
労働時間を増やしたいと考える背景にあるのは「長く働けば給与は増えるもの」という、働き方改革に取り組む以前から続いている世界線です。有休取得を義務付け、残業が減ることは働き手にとって喜ばしいことに見えますが、給与体系は時間連動型なので収入が減ってしまうという矛盾が生じることになります。労働時間を増やしたいと思う人が、一定数出てきて当たり前です。
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