離職率83%、赤字1200万円からの逆転劇 非IT社長がYouTubeで独学→「自作アプリ」でかなえた訪問看護DX(2/2 ページ)
離職率83.3%、約1200万円の赤字――崩壊寸前だった訪問看護ステーションが、数年で利益率10%超、離職率7.7%へと立て直した。「デジタルは苦手だった」と話す現役看護師の代表が進めた、現場視点のDXに迫る。
クリック数400回→4回、2時間→3分に 自作ツールの効果
ツールを開発するにあたり、浦濱氏が注目した業務の一つが、毎月末に利用者の主治医に提出する報告書の作成と送付だった。看護師は毎月、1人当たり約20人の利用者の報告書を作成しているが、報告書をまとめるのに1時間ほどかかっていた。それを、Geminiを使用することで5分に短縮した。
さらに、仕上げた報告書を主治医に発送するのにも時間を要していた。利用者1人分の報告書を印刷・発送するまでに4回のクリック操作が必要だった。同社の利用者は約100人なので、約400回クリックしていたことになる。
そこで、データをまとめて印刷できるツールを作成。400回のクリック操作を4回まで減らし、2時間かかっていた作業が3分で終わるようになった。
他にも、利用料金を計算するアプリも開発した。訪問看護は、介護保険と医療保険の両方を扱い、訪問の回数や保険証の種類によって金額が変わるため計算の難易度が高い。
「当ステーションで計算できるのは、私ともう1人の訪問看護歴が長い看護師だけでした」
ほかの職員は利用者に料金を尋ねられても、その場では回答できず、いったん事務所に持ち帰り、計算できる職員に確認してからあらためて伝えるしかなかった。
そこで浦濱氏は、項目を選ぶだけで料金を計算できるアプリを作成した。開発時に使ったのは、Gemini上で対話しながらアプリなどを組み立てられる「Canvas」機能だ。開発にかかった時間は30分ほどだったという。
DXだけでは終わらない 離職率83.3%を改善した組織づくり
一方で、社内には「これまでのやり方で構わない」「なぜ、変えなくてはならないのか」という空気もあった。「最初はトップダウンで進めました」と浦濱氏。価値を伝えるために、言葉で示すだけでなくデモンストレーションして挙動を見せ「DXが進むと、こんな便利な世界が待っている」と示し続けた。
開発したツールやアプリの使い方は、毎週定例の勉強会で広めた。また、旗振り役を設けて社内に「DXサークル」も作った。担当者には手当を支給し、率先して学び、ほかの職員に伝える役割を設けている。
DXの成果は、数字として表れている。事務作業にかかる時間を短縮したことで、同社の看護師1人当たりの1日の訪問件数は、2件から6〜7件に増えた。訪問数は約3倍になったが、DXによる効率化のおかげで残業はほとんどない状態だという。
経営も安定し、約1200万円の赤字状態から利益率10%超を達成した。離職率も83.3%から7.7%まで改善。直近の1年は、パートを含めて離職者はゼロだ。
「何よりうれしかったのは、以前は時間が空くと車の中でサボっていたメンバーたちが、今では自然と事務所に戻り、利用者について話し合うような組織に変化したことです」
DXと並行して、同社では有給休暇の1時間単位での取得や、企業型年金の導入など、社内の制度を整えてきた。DXによる業務改善に加え、制度改革も進めたことが離職率の低下につながったとみている。
浦濱氏は自作ツールの社外への展開も進めている。同業者から、とある病院で看護師長が2日がかりでシフトを組んでいると聞き、AIでシフトを自動作成するツールを開発した。すでに2つの医療機関と契約しており、今後も医療や介護の現場へ広げていく考えだ。
専門知識がなくても、現場目線の工夫と課題解決への熱意があれば組織は変えられる。現場の課題をデジタルで解決していくプーラビダの取り組みは、人材不足に悩む多くの業界にとって貴重なヒントになるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「楽になった分は、サボっていいよ」 老舗建設社長が社員にアプリ3000個自作させたワケ
「現場が動かない」「プロジェクトが続かない」――。こうした理由で頓挫するDXは少なくない。後藤組はIT人材ゼロから4年で3000を超えるアプリを生み出し、全社的な改革を実現。取り組みは一過性で終わらず、成果へと結びついている。なぜ「全員DX」は機能したのか。その背景を探る。
千葉のパチンコ店がDXで化けた IT人材ゼロから「半日作業を1秒」にした現場改革
「DXに取り組みたいが、ITに詳しい人材がいない」――。多くの中小企業が抱えるこの悩みに、一つの答えを示しているのがヒカリシステムだ。同社は現場の工夫を積み重ねることで、DXを業務改革にとどめず、事業へと発展させてきた。
溶接工が「6時間」でアプリを開発 静岡の町工場が「500万円」かけて生成AI教育をした、驚きの効果
静岡県掛川市の町工場コプレックは、社員13人に約500万円を投じ、生成AIの教育を通じて現場主導で業務アプリを開発する体制を構築した。背景にあるのは、AI時代における競争構造の変化だ。ホワイトカラーの仕事がAIに代替される中、ものづくりの現場では何が起きているのか。
