溶接工が「6時間」でアプリを開発 静岡の町工場が「500万円」かけて生成AI教育をした、驚きの効果(1/2 ページ)
静岡県掛川市の町工場コプレックは、社員13人に約500万円を投じ、生成AIの教育を通じて現場主導で業務アプリを開発する体制を構築した。背景にあるのは、AI時代における競争構造の変化だ。ホワイトカラーの仕事がAIに代替される中、ものづくりの現場では何が起きているのか。
生成AIは、製造業の現場をどう変えるのか。板金加工事業を展開する町工場、コプレック(静岡県掛川市)は3月、社員数約70人のうち13人を対象に、業務に必要なシステムを生成AIで開発するための教育投資に踏み切った。投資額は450万〜500万円に上った。
対象となったのは、工場の現場で働く社員たちだ。同社が見据えるのは、単なる業務効率化ではない。現場を主役に据え、社員自らが改善を生み出す新しい製造業の姿だ。
なぜ、地域の町工場がここまで生成AIに注目するのか。代表取締役の小林永典社長に戦略を聞いた。
町工場が社員の生成AI教育に投資したワケ
小林社長は、10年ほど前から機械学習に関心を持ち、社員と共に講習などに参加してきたが、当時は実務への落とし込みには至らなかったという。しかし、生成AIが登場し、さまざまな業務で活用が進むようになった。小林社長自らが試した上で「中小企業でも仕事のやり方が一気に変わる」と判断し、社員への教育に踏み切った。
小林社長が目指したのは、一部の社員だけが生成AIを使うのではなく「会社全体にインストールする」(文化として定着させる)ことだ。そのために、あえて高額な外部研修を選び、13人の社員を参加させた。
「YouTubeや安価な教材で学ぶこともできます。しかし、それでは社員間で習熟度にばらつきが出やすい。皆が体系的に学び、同じ知識や課題を共有することで、社内にAIブームを起こすことが大切だと考えました」
中小企業は「既製品を使う側」のままでいいのか
小林社長が生成AIを重視する理由の一つが、労働構造の変化だ。現在、ホワイトカラーの仕事はAIによって急速に代替されつつある。ホワイトカラーの仕事が減少する一方で、世界では配管、電気、建設、製造といった「物理的な価値」を提供する技能職が見直される「ブルーカラービリオネア」と呼ばれる現象が生じている。
ホワイトカラーの仕事がAIに奪われる中で、今後、生成AIやテクノロジーを使いこなしながら“ものづくり”を手掛け、イノベーションを起こすような人々が増えていくと小林社長はみている。同氏はその層を「ハイスペックブルーカラー」と呼ぶ。
ハイスペックブルーカラーが登場した際、昔からものづくりに取り組んできたブルーカラーは、従来と変わらず「コストダウン重視」「効率重視」だけで勝負できるのか──。「おそらく難しいだろう」と小林社長。だからこそ、ブルーカラーも生成AIやテクノロジーを学び、ハイスペックブルーカラーへと進化する必要があるという。
また、小林社長は、生成AIの進化には明確な段階があると考えている。Web上の情報を扱う段階から、デスクトップのファイルを操作する段階へ。そして次にやってくるのが、工場の現場で使用しているセンサーやロボットとつながる「物理世界への浸透」だ。
「ロボットや機械を自律制御するフィジカルAIが一般的になると、私たち中小企業は大企業が作ったシステムを、利用料を払って使うことが想定されます。それでは競争力を持てない。自分たちで作れるようにならなければ、生き残っていけないと判断しました」
これは、SaaS企業が開発したサービスを利用していた企業が、ローコードツールなどで自社アプリを開発するようになった流れと同様の構造だ。自社で開発することで、より使いやすいシステムになる。既製品に現場を合わせるのではなく、現場にシステムを合わせることで、大手や競合他社との決定的な差別化を生み出す考えだ。
だからこそ、生成AIの教育プログラムを学んだ受講者の半数以上は工場で働く社員だ。小林氏は「一次情報に触れる人間がテクノロジーを使うことに意味がある」と強調する。
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