小学生が10分のレクチャーで溶接作業 97年続く町工場が導入した「溶接ロボット」の実力(4/4 ページ)
小学生が10分のレクチャーで遠隔での溶接作業を完了させた。そんなロボットを、97年続く老舗町工場が国内で初めて導入した。熟練工不足に悩む中小製造業で、採用や技術継承の常識を変える挑戦を追った。
募集職種は「溶接工」から「溶接ロボットオペレーター」へ
ウェルデモートの導入を決めた宝角合金製作所は、ハローワークに新たな求人を出した。募集職種は「溶接ロボットオペレーター」。すぐに3人から応募があった。採用したのは、機械加工の経験があり、「新しいことに挑戦したい」と話した40代の男性だった。
「ロボットを操作すること自体が新たな専門スキルになり、本人の仕事への誇りにもつながっています。7月3日に導入してまだ1週間ほどですが、『ここまでできるのか』と正直驚いています」(拓哉氏)
従来であれば、熟練した溶接技術を持つ人材を採用・育成しなければならなかったが、採用できる人材の幅が広がった。しかし、社内にはまだ懐疑的に見ている社員もいるという。誰もロボットによる実際の溶接を見たことがない。生産性が向上するのかも分からないがゆえの不安ではないかと拓哉氏は捉えている。
「ただ、当社は溶接以外の機械加工の工程でもロボットを導入して自動化を進めています。現に、2025年に導入したロボットによって生産性が向上したことを社員は皆知っています。今回の溶接ロボットが現場に浸透するのも時間の問題だと考えています」(拓哉氏)
ウェルデモートの導入によって、変わったのは採用だけではない。拓哉氏は、若い世代がロボットを使いこなす姿を見て、従来の価値観が大きく変わりつつあることを実感したという。
「先日参加したロボット講習会では、若い人たちが技術を習得するスピードに驚かされました。工作機械の操作は本来、座標軸の計算やサイン・コサインなどの数学的な思考をベースにプログラムを組み立てます。しかし、若い世代はそうした理屈ではなく、『ロボットの腕をここからここへ動かす』といった感覚的な空間認識でロボットを操作していくんです。自分たちの世代より圧倒的に習得が早かったですね(笑)」(拓哉氏)
「私の年齢(34歳)でも、『自分にできないことが新入社員にできるわけがない』という無意識の思い込みがどこかにあります。でも、若い世代の方がデジタルツールの扱いに長けているのは事実です。経営陣がその適応力の違いを認識し、若い世代に思い切って任せられるかどうかが、自動化を推進するカギになると思います」(高丸氏)
これまで「3Kの代表格」とされてきた溶接も、ロボットを操作する仕事へと変われば、若い世代にとっては「かっこいい仕事」と映る。それが非常に面白い現象だと、両氏は笑いながら語った。
宝角合金製作所は今回の導入を機に、DXをさらに進める考えだ。とはいえ、社長世代と後継ぎ世代とでは価値観の相違から意見がぶつかり合いがちだが、そのあたりはどう乗り越えているのか。拓哉氏に尋ねると、こう返ってきた。
「日頃から率直な意見を出し合っています。役員会では、日常的に現場の課題感や実情を共有して、次の作戦のアイデアを話し合っています。まずは、溶接の内製化を軌道に乗せ、その次はIoT機器をつないでロボットの稼働状況を事務所からリアルタイムで把握すること。データが蓄積されれば、品質管理へのAI活用にも取り組みたいです」
高丸工業もまた、地方の中小製造業のDXを支えるプラットフォームの構築に取り組んでいく。
「溶接条件を数値データとして蓄積できれば、その技術を国内外の工場へ展開できるようになります。将来的には、日本にいながら海外工場のロボットを遠隔操作し、現地の生産を支援するような、柔軟な働き方も実現できると考えています」(高丸氏)
人手不足や技術継承に悩む中小製造業は少なくない。その解決策として語られるのはAIや自動化といった大きな言葉になりがちだが、現場で本当に求められているのは「何を実現したいか」という目的から逆算して仕組みを設計することなのかもしれない。
高丸工業と宝角合金製作所の挑戦は、中小製造業が直面する採用や育成問題に対し、現実的な一つの解を示しているのではないだろうか。
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