83→30項目へ激減 5年ぶりコーポレートガバナンス・コード改訂で取締役会はどう変わる?(2/2 ページ)
7月21日、金融庁と東証が5年ぶりに「コーポレートガバナンス・コード」改訂版を公表した。従来の83項目から30項目へと大幅削減し、形式的な穴埋めから「人的資本への投資」や「果断なリスクテーク」を促す実質的対話へ舵を切った。リスクを新たな「稼ぎ方」と捉え直す今回の改訂。形骸化した取締役会を脱し、平時から「説明する筋肉」を鍛えて持続的成長へ導くための戦略と「5つの問い」を解説する。
明日から取締役会の質を変える「5つの問い」
コーポレートガバナンス・コードに関する制度の中身が分かったところで、次に気になるのは「では、取締役会で具体的に何を話せばいいのか」ということだと思います。私自身、正解を持っているわけではありませんが、こんな問いから始めると、議論が自然と深まっていくと感じています。
一つは、経営資源の配分についてです。「この会社が10年後にどうありたくて、そのためにお金と人をどこに振り向けると、社員も投資家も納得できるだろうか」という問いは、設備投資の数字だけでなく、人材育成や技術への投資も、同じ土俵で語れるようにしてくれます。
手元の現金が、理由もなくただ積み上がっていないかを確かめてみるのも、良い出発点になります。
もう一つは、あえて実施しない項目を選ぶことです。全ての原則に無理やり丸をつけるのではなく「この項目は今の自社の事業の性質には合わない。だから今は実施せず、代わりにこういう形で価値を高めていく」と、正直に説明できる項目を探してみる。これは、後ろ向きな選択ではなく、むしろ自社の状況を正しく理解している証になります。
事務局の機能についても、話す価値があります。「社外の役員が、事前にどんな情報を持っていれば、より本質的な質問ができるだろうか」という視点で事務局の動き方を見直すと、会議そのものの質が変わってきます。資料を配る順番や、事前説明の時間の取り方といった、地味に見える工夫の積み重ねが、実は議論の深さを大きく左右します。
リスク管理についても「このリスクへの備えは、避けるためだけのものか、それとも挑戦を後押しするための土台になっているか」という問いを立ててみると、守りの話が、成長の話につながっていきます。そして、社内の空気についても、一度確かめてみる価値があります。「経営陣の説明に納得できないとき、この会議室では、率直にそう言える雰囲気があるだろうか」。反対意見が歓迎されているかどうかは、資料の出来栄えよりも、会議の質を左右する要素かもしれません。
そして、有価証券報告書の開示時期についても、慣れた慣行をそのまま続けるのではなく、「株主総会の時期を含めて、スケジュールをどう組み直せば、投資家によりよい説明ができるだろうか」と、一度立ち止まって考えてみる価値があると思います。経理や法務、IRといった複数の部門にまたがる調整が必要になるため、早めに議題として取り上げておくと、後になって慌てずに済みます。
私は普段、企業が困難な状況(不祥事が発生する、SNSで炎上するなど)に直面したときの説明の仕方や、社会との信頼の築き方に関わる仕事をしています。その現場でいつも感じるのは、完璧に見える説明が、必ずしも信頼につながるわけではないということです。
全ての項目に非の打ちどころなく丸が付いている会社よりも、「この部分は今のわが社には合わないので、こういう理由で実施していません」と、自分の言葉で正直に語れる会社のほうが、結果として信頼されることが多いように思います。
今回の改訂が求めている「丁寧な説明」や「経営資源の配分に関する対話」は、法律や制度の話であると同時に、社員や顧客、取引先、株主といった関係者との、地道な信頼づくりの話でもあります。
危機が起きたときに慌てて対応する会社と、普段から自分たちの選択を語る習慣がある会社とでは、いざというときの説明力にも大きな差が出ます。その意味で、今回の改訂は、平時のうちに「説明する筋肉」を鍛える機会でもあると感じています。
リスクの捉え方についても、同じことが言えます。危機管理の現場では、リスクを隠したり小さく見せたりする会社ほど、いざというときに信頼を失いやすいと感じています。反対に、リスクを正直に認め、それにどう備えているかを語れる会社は、たとえ問題が起きても、周囲からの理解を得やすいものです。今回の改訂がリスク管理を「挑戦を支える土台」と位置付けたのは、この感覚とよく重なります。
投資家との対話の場でも、同じことが言えます。質問に対して、用意された想定問答をなぞるだけでは、聞いている側にはすぐに伝わってしまいます。反対に、うまくいかなかったことも含めて、なぜその判断をしたのかを自分の言葉で話せる経営陣は、たとえ結果が思わしくなくても、次への信頼をつなぎとめることができます。今回の改訂が後押ししているのは、こうした地に足の着いた対話の積み重ねなのだと感じています。
取締役会に身を置く一人として、今回の改訂をきっかけに、自社の言葉でどう説明できるかを、あらためて考えさせられています。制度が変わったことよりも、その制度を使って、自分たちの会社の選択をどう語れるようになるか。そこにこそ、今回の改訂の意味があるのだと思います。
【実践チェックリスト】確認すべき7つのポイント
最後に、今回の内容を振り返る意味で、取締役会や経営企画、IRの担当者が、まず社内で確かめておくとよさそうな点を整理しておきます。
- 自社の現行コーポレート・ガバナンス報告書と、改訂後のコードとの間で、記載の追加や見直しが必要な項目はどこか
- お金や人材、技術の配分について「なぜそこに振り向けるのか」「見送った選択肢の機会コストは何か」を、今の資料の中で説明できているか
- あえて実施しない項目があるとすれば、それを自社の言葉で説明する準備ができているか
- 取締役会事務局が、社外役員への情報提供や論点整理をどこまで担えているか
- リスク管理の体制が、グループ全体、特に海外拠点まで含めて機能しているか。現場の情報が薄まらずに取締役会まで届く経路があるか
- 経営陣と異なる意見を、率直に言い合える空気が、この会議室にあるか
- 有価証券報告書の開示時期や株主総会のスケジュールについて、社内の関係部門で早めに検討を始められているか
一つ一つは地味な確認作業に見えるかもしれません。ですが、この積み重ねが、いざというときに社内外へ説明できる会社をつくっていくのだと思います。
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