採用難なのに「新卒の面接」「会社説明会」を廃止、なぜ? 万博「大屋根リング」作った町工場の狙い(2/2 ページ)
人材採用に悩む中小企業が多い中、大阪の2社が採用施策で成果を上げている。ある企業は、会社説明会や新卒面接を廃止したという。その狙いと効果は。
世界シェア1位の船舶バルブメーカー、現場と歩む採用施策
船舶向けバルブメーカーの中北製作所は、船体を安定させるために使う「バラスト水」の自動制御システムで世界1位のシェアを誇るという(2008年、同社調べ)。
同社は7年前に社長が交代した際に「このままでは時代の変化に付いていけない」と考え、挑戦型の経営にかじを切った。その成長戦略を支えるため、中途採用を強化してきた。
採用を担当する神正樹氏(総務部人事課課長)が入社したのは2020年。人材業界出身で、製造業は未経験だった。同社の採用活動では、採用の必要性について経営陣と確認した後、必要な人材について現場にヒアリングしている。
ダイレクトリクルーティング機能を備えた採用サービスのデータベースを使って神氏が候補者を大まかに絞り込み、現場と一緒に確認する。「この人なら会いたい」という感覚を現場とすり合わせてからスカウトすることで、採用の精度が高まるという。
採用できない時も、現場との対話は続ける。「人材市場は今こういう状況です」「採用条件を少し緩和すれば応募が増えるかもしれません」といった情報を共有しながら、要件を一緒に見直していく。採用は人事担当だけで進めるのではなく、現場と共同で進めている。
知名度で大企業に勝てない 中北製作所が選んだ道は
中小企業は、知名度で大企業と勝負することが難しい。そこで中北製作所は、スピードを重視する。応募があればすぐ返信し、面接日程もできるだけ早く設定する。
面接回数も必要以上には増やさないようにしている。会社見学は必ず実施し、良い点だけでなく課題も含めて率直に伝える。応募職種だけにこだわらず、候補者本人の適性を見ながら別職種を提案するケースもある。
神氏は「採用データの分析に時間をかけるより、まず動き続けることが大切」と話す。市場は変化し続けるため、データを細かく分析している間にも状況は変わってしまうという考え方だ。
「人が足りない」からといって採用が必要とは限らない
採用を実りあるものにするため、その土台となる組織文化から見直しを進めてきた両社。徐々に採用そのものに対する考え方も変わりつつあるという。
中北製作所は、将来的には人事担当だけでなく各部門が主体的に採用できる体制を目指す。すでに採用データベースの閲覧権限を現場へ広げ始めており、現場自身が必要な人材を考え、採用活動にも携わる状態を目標としている。
一方の抱月工業は、採用を一時的に止めている。退職者が減り、人員に余裕があるためだ。今後、人材が足りなくなった時も、すぐに採用を考えるのではなく「業務改善の機会だ」と現場へ問い掛け、AIなども活用しながら仕事の進め方を見直し、本当に採用が必要なのかどうか考える。
営業部門などと「本当に人を増やす必要があるのか」と議論になることもあるという。採用は不足分を埋める作業ではなく、経営戦略や業務改善と合わせて考えるものだと位置付けている。
「HR(人的資源)に関する業務は、社会実験の繰り返しだと思います。前に在籍していた食品業界のセオリーを応用しようとしても全然合わない。現場に合わせて(採用戦略や仕組みを)どうつくるか。全てうまくいったともいえるし、全部失敗ともいえる。常に途上にあると思っています」(弓指氏)
「トライアンドエラーして何年か後に『気付いたら変わっていた』と。ある日どこかでそんなふうに思えるような組織にしたいですね」――弓指氏は、こう期待を込める。
両社とも、採用力を高めるために「特別な手法」を用いているわけではない。現場と対話し、会社の価値観を共有し、採用を人事だけではなく全社で進める。その積み重ねが採用を支える組織文化の醸成につながっているようだ。
ダイハツ、旭化成、NOT A HOTELなど登壇:
無料セミナー「ITmedia デジタル戦略EXPO 2026 夏」開催!
ITmedia デジタル戦略EXPO 2026 夏では、各分野の第一人者や企業の現場でビジネス変革に取り組むリーダーの声を通じて、経営×IT×現場のコラボレーションで全社変革を進めるヒントをお届けします。
AIを活用したデジタル戦略が必須となる中、ダイハツ工業や旭化成、NOT A HOTELなどビジネス変革に取り組む企業の「当事者の声」を通じて、現場のリアルな課題解決方法を探ります。視聴登録はこちらから。
- 開催日:7月8日(水)〜8月5日(水)
- 形式:オンラインセミナー
- 参加費:無料
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「申し訳なさはあるが……」 新卒3割が“内々定辞退予備軍”、現役学生の“ホンネ”
調査によると、新卒3割が“内々定辞退予備軍”だという。今どきの学生は「就活」「内々定辞退」をどう捉えているのか。現役学生が語った。
なぜ人は出世すると“残念な上司”に化けるのか? 日本企業をむしばむ「オールド・ボーイズ・ネットワーク」の正体
パーソル総合研究所が「オールド・ボーイズ・ネットワーク」に関する調査を実施しました。調査結果を読み解きながら、令和の会社組織が直面している「見えない病巣」についてあれこれ考えてみます。
「机の上だけの仕事にしたくなかった」 フジクラ、入社3年目の生産管理が"AI特需"を支えるまで
生成AIブームの拡大によって、データセンター向け光ファイバーケーブルの需要が世界的に高まっている。フジクラで働く蓮沼瑚々さん(25歳)は、入社3年目にして、同社の主力製品「Spider Web Ribbon」の海外向け輸出を担当する若手社員だ。その歩みをたどると、関連部署との信頼関係を構築する仕事の流儀が見えてきた。
求人は4倍、離職率“半減”、働く意欲は8割超に 「イトーキ滋賀工場」の“壁を壊す”空間戦略とは?
経営層はいま、オフィスに対して明確な意味付けを求められている。この課題に対し、製造現場から一つの実践解を提示したのが、滋賀県近江八幡市にあるイトーキの滋賀工場だ。同施設は経営、人事、DXという複数のテーマを横断しながら「これからの働き方」を実装するための共創拠点として機能させている。現地を取材した。

