小田原の老舗梅干し店、世界で稼ぐ――「この外国人は何を言っているんだ」から逆転、築いた“売れる仕組み”(2/2 ページ)
小田原の老舗梅干し店がビジネス変革を成し遂げた。主導したのはドイツ出身のゾェルゲルさん。数々の課題をどう乗り越えたのか。
「販管ソフトに外国住所を無理やり入力」「重複して発送」――管理が限界に
NIHON ICHIBANでは、ちん里う本店の既存インフラ――梱包・発送フロー、販売管理ソフト、決済ツールなどをそのまま利用していた。しかし、多種多様な商品を扱うようになったことで、これらにほころびが出始めた。
段ボールなどの梱包用資材は、ちん里う本店の商品に合わせていた。他社の商品を預かることになり「割れ物」「特殊な形状の品」などの扱いに苦労したという。
さらに、商品数が2000点を超えたあたりから、NIHON ICHIBAN拡大の足かせになったのが販売管理ソフトだった。当時の数々の苦労について、ゾェルゲルさんは次のように話す。
「日本の販売管理ソフトを使っていましたが、外貨が入力できませんでした。そのため従業員が電卓をたたき、海外の売り上げ分を日本円へ計算し直してから入力していました。住所欄も海外のフォーマットに対応しておらず、無理やり海外の住所を入れていたのでグチャグチャでした」(ゾェルゲルさん)
在庫管理も限界だった。「同じものを2回発送する」「在庫切れがたびたび起きる」「食品の賞味期限の管理が難しい」などのトラブルが発生。商品情報の管理にも課題があり、発注主から「輸送用パレットに製品を何個積めるか」という問い合わせがあっても「分からない」と返すしかない状況を前に、ゾェルゲルさんは「このままでは駄目だ」と考えた。
商品情報を手作業で整理 「データの片付けに数年間追われた」
ゾェルゲルさんは、在庫管理ソフトの刷新を決断。これまでは自社内のサーバで運用していたため、その手間を減らすためにクラウドサービスを使うという方向性を決めた。その他に「外国人スタッフも使えるように日本語と英語に対応している」「データがリアルタイムで更新できる」などの要件をまとめた。
ちん里う本店は2019年、米Oracleが提供するクラウド型ERPの「NetSuite」(ネットスイート)を導入した。在庫・生産管理、財務会計、ECサイトなど多数の機能を備えたビジネス管理プラットフォームだ。
「NetSuiteをマスターデータにすると決めました。商品に関わる全てのデータ――原材料、栄養成分、商品ラベルの情報、商品や箱のサイズ、輸送用パレットへの積み込み方が分かる写真、これらの日本語版と英語版のデータなどをNetSuiteに手作業で入力しました。導入から数年間は、データの片付けに追われました」(ゾェルゲルさん)
同社は、NetSuiteの「仕入れ管理」「販売管理」「在庫管理」「製造管理」の機能を利用している。製造管理の機能を追加したことで、ゾェルゲルさんは「本当の意味で原価管理ができるようになった」と話す。
例えば「梅干しの在庫」に関するデータでは「何年漬けの梅干しなのか」などまで分かる。「『どこの国の人が買ったのか』『どこに出荷したのか』『マーケティングコストはいくらだったのか』『利益はいくら出たのか』といった分析が可能になり、透明性が出ました」(ゾェルゲルさん)
実店舗のPOSデータとも連携させており、商品情報や価格が変わった際は、NetSuiteのマスターデータを変更すればPOSデータにも反映される。「以前は、価格が変わったらみんなで夜遅くまで残ってシステムに変更後の価格を入力していました」(ゾェルゲルさん)
同社は、商品に関するドキュメントを「Microsoft SharePoint」にまとめており、これもNetSuiteにひも付けている。注文主に渡す商品規格書のほか、顧客からの「しょうゆの種類と使い方を教えてほしい」といった問い合わせに対応するための資料も整理した。NetSuiteと連携させることで「商品規格書の英語版を簡単にダウンロードできる」「販売パートナーが商品ドキュメントを閲覧できる」といった体制が整ったという。
業務負荷を増やさずに売り上げアップ 秘訣は?
NIHON ICHIBANの成功によって「取り扱い商品数」「海外販売数」などが増加しているにもかかわらず、業務上の負担を大きく増やすことなくビジネス拡大を成功させた。ビジネスモデルの変革と、ITを活用した「仕組み化」によって、売り上げを増加させたのだ。
ITシステムを導入して、手作業を減らす。データを整理して、参照できるようにする。こうしたちん里う本店の取り組みは、他の企業も参考にできる内容だ。ゾェルゲルさんは「中小企業が一番困っていることは『自動化』ではなく『透明性』です。自社で何が起きているのか知りたいのです」と話して、データを整備する重要性を強調した。
データ基盤が整ったちん里う本店は今、AI活用に力を入れている。同社のAI活用例について、次回の記事で詳しく紹介する。
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