“梅干し職人”のためツール自作 老舗漬物店のClaude活用、「チャット+コピペ」で成果を出せたワケ(1/2 ページ)
明治創業の老舗漬物店が、AI活用で成果を出している。Claudeを活用して「梅干し職人向けツール」などを開発。PCが苦手な人にも使いやすいツールをどのように作っているのか。
相模湾に面する神奈川県小田原市。戦国時代に「小田原城」を中心とする城下町が発展し、江戸時代には東海道の宿場町として栄えた。しかし、明治維新直後の1870年、小田原城は「廃城」になってしまう。
その小田原城で“最後の料理長”を務めていた人物が、1871年に創業したのが梅干し専門店の「ちん里う本店」(ちんりう本店)だ。小田原駅前に店舗を構え、梅や紫蘇(しそ)を使った漬物や菓子を製造・販売。百貨店などを中心に販路を広げてきた。
現在、同社の経営を担うのがドイツ出身のゾェルゲル・ニコラさん(常務取締役)だ。一時は経営難に陥った同社だが、ゾェルゲルさんが主導して海外展開を推進。今ではECサイトの取り扱い商品が約8000点を超えている。海外展開については、前編「小田原の老舗梅干し店、世界で稼ぐ」をご覧いただきたい。
海外展開に成功した同社が、いま注力するのが「AI活用」だ。米Anthropicの生成AI「Claude」を駆使して業務効率化に取り組んでおり「PC操作が苦手だった梅干し職人でも使える在庫管理ツール」などを自分たちで開発している。
155年の歴史を持つちん里う本店は、Claudeをどのように活用しているのか。取材すると、日本企業がAIを真に活用するためのヒントを収穫できた。
100年前のレジ機→クラウド→AI 老舗の歴史は技術進化とともに
ちん里う本店は長らく、国産の「販売管理ソフト」を自前のサーバで運用していた。サーバ機器の運用負荷が大きかったこと、海外向けEC事業の成功に伴って扱う商品数が増えたことなどから、販売管理ソフトを刷新。米Oracleが提供するクラウド型ERPの「NetSuite」(ネットスイート)に、商品や販売データを集約している。
同社の店舗で取材をしていると、店舗内の隅に置いてある古いレジスターの前で立ち止まったゾェルゲルさんが、感慨深そうに口を開いた。
「これは1900年代初頭に実際に使っていたレジスターです。登録できる最高額は99円。それが今や、クラウドで大量のデータを管理する時代です。さらに、AIまで使っている。面白いですよね」
ちん里う本店がClaudeを導入したのは、2026年4月。NetSuiteのデータをより簡単に扱いたいと考えたゾェルゲルさんが旗振り役となった。AIツールとNetSuiteを連携させる機能「NetSuite AI Connector Service」を使い、ちん里う本店が取り扱う商品の情報や在庫データ、販売実績などをClaudeが参照できるようになった。
非ITエンジニアのゾェルゲルさんだが、Claudeと対話して多数の“便利ツール”を自作している。最初に作ったのは、商品情報をまとめた「商品規格書」のテンプレートに沿って、必要なデータを自動で入力するツールだったという。
その後、ツールの数を増やしていった。例えば、同社は毎年、顧客一人一人に「昨年のお中元・お歳暮では、誰に何の商品を贈りました」という履歴をメールで案内している。これまでは贈答履歴を手入力しており、商品価格の変更があれば反映したりするなど多大な手間がかかっていた。Claudeを使って作ったツールを使えば、従業員がボタンを押すだけでメール送信まで一括で完了するという。
この他にも「取引先別の卸売価格表を出力できるツール」「『大安』などの『六曜』を考慮した売り上げ予測ツール」などを多数開発している。顧客からの「金額あり・なしの領収書を2つ出力する」といった細かい要望に対応する工数も、AIを使うことで大幅に削減できたという。
「(データ基盤を参照・活用する機能がほしいと思っていたが)当社のように小規模な会社は、システム開発会社に依頼することが予算的に難しい。AIのおかげでプログラミングコードを格安で生成でき、必要な機能を自分たちで開発・実装できるようになりました」(ゾェルゲルさん)
PCが苦手な職人を巻き込む“Claude活用作戦”
ゾェルゲルさんは今、こうしたツールの開発に力を注いでいる。NetSuiteには、導入企業が独自のダッシュボードやポータルサイトを構築できる機能がある。一部プログラミングコードを書く必要があるが、ゾェルゲルさんはClaudeを駆使してポータルサイトを作り込んでいるという。
「梅干し職人」のためにツールを開発 どんな機能?
開発したポータルサイトの例として、ゾェルゲルさんは「梅干しの製造管理ポータルサイト」など幾つかを挙げた。
「当社の梅干しは、10年漬けまで作っています。品種や年数ごとに管理しなければなりません。しかし、梅干し職人は、PC操作が苦手な人が多い。ある人は、マウスの操作方法から説明しました。そういう人に『メニューの3番目を開いて』『フィルターを設定して』といった操作をお願いするのは難しいのです」(ゾェルゲルさん)
そこで、数カ所をクリックするだけで必要な情報を入力できるUI(ユーザーインタフェース)のポータルサイトを開発した。
「1案件で2時間」かかっていた商品規格書を自動で出力
商品の出荷に関わる業務も効率化した。「商品の出荷状況を可視化するポータルサイト」では、運送計画や出荷などのフェーズを視覚化する、倉庫から搬出する商品を選ぶと「買い物かご」に入るUIにする、など分かりやすさを追求している。
商品の積み込みが完了したらポータルサイト上に反映されるといい、仕組み化することで「段ボールの積み忘れに出荷後に気付く」といったミスをなくした。どのパレット、どの段ボールに何が入っているかを表示する書類も一括で出力できる。
商品規格書の作成も、効率化した。従来は「日本語版と英語版を用意する」「原材料ごとに注釈書を作る」といった作業に手間がかかっており、商品数によっては1案件の出荷手続きに2時間を費やしていたという。AIを組み合わせたポータルサイトによって、商品規格書を自動で生成できるようになった。
経営戦略を立てる上でも、Claudeを使って構築したダッシュボードを役立てている。ちん里う本店は、取引先に海外の高級レストランを抱えている。同社は「『ミシュランガイド』が取り上げている国」を主要ターゲットに据えており、対象国・地域で販売パートナーを増やすなどの戦略を取っている。そうした市場戦略をAIに分析させて地図に落とし込んでいるのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
小田原の老舗梅干し店、世界で稼ぐ――「この外国人は何を言っているんだ」から逆転、築いた“売れる仕組み”
小田原の老舗梅干し店がビジネス変革を成し遂げた。主導したのはドイツ出身のゾェルゲルさん。数々の課題をどう乗り越えたのか。
伊勢名物「赤福」が売れない……ピンチ救った“白餅・黒餅”が生まれるまで
伊勢名物として愛される「赤福餅」。コロナ禍の客数減少により、販売数が大きく減少した。このピンチを救った新商品について、12代目社長が語った。
「お茶はタダでも飲める」時代――創業300年の老舗茶商・山本山、“危機”を前に仕掛ける生存戦略
高級茶「玉露」を開発した老舗茶商の山本山が、危機に直面している。「お茶がタダで飲める」ようになった今、生き残る道をどう描いているのか。
「今変わらなければ」 酒屋カクヤス、背水の陣で挑む業態転換 鍵を握る「30年来の基幹システム」刷新の行方
酒類卸のカクヤスが、業態転換を目指している。成否を左右するのが、30年前から動く「基幹システム」の刷新プロジェクトだ。AI活用で挑む刷新の舞台裏に迫る。
「JAL史上最大のプロジェクト」 足かけ7年、費用は800億円──旅客システム刷新を成功させたマネジメント術とは
JALが800億円、7年かけた「旅客基幹システム」刷新プロジェクト。長期間にわたって多くの関係者が携わった同取り組みを成功させた、マネジメント術に迫る。
「日本の味」を捨てたから世界で勝てた――味の素、海外売上比率6割を支える“徹底ローカライズ”の正体
うま味調味料で知られる「味の素」は、事業利益の約60%を海外事業が占める。日本生まれの味の素が支持される背景には、同社の徹底したローカライズ戦略があった。





