「たった14人」の挑戦から7兆円の逆転劇へ ラピダス小池社長の「TSMCとは戦わない」2ナノ半導体の勝算(2/2 ページ)
世界の半導体市場を台湾TSMCが席巻する中、7兆円規模の国家プロジェクトとして最先端「2ナノ」の量産化に挑むのがラピダスだ。同社はTSMCとの規模の勝負を避け、設計から前後工程を一棟で完結させる「RUMS」による多品種生産で勝負する。「たった14人」の同志でスタートした原点から、北海道を「次のシリコンバレー」へと変える小池淳義社長の戦略に迫る。
「14人」から始まった 世代を超えた熱量の連鎖
ラピダスの出発点は、わずか「14人」の同志だった。設立の6年前から小池氏が声をかけ続けたのだ。「できっこない。お金もない。顧客をどうやって見つけるのか」と述べて去っていく人もいたという。そんな中、最後まで「これはできる」と信じて残った同志たちだ。
かつて日本の半導体が世界一だった時代を知るエンジニアたちが次々と参画し、設立当初の平均年齢は48歳。その熱量と使命感が組織の核となり、社員の数はその後、月30〜40人のペースで増え続け、現在は約1200人に達する。
若い世代も、その熱量に引き寄せられている。小池氏が登壇した大学の講義では、定員100人の教室に300人が押し寄せた。授業後の質問の列は一度途切れても、また後ろに並び直すほどだという。
太田氏は「ラピダスがトランスミッター(発信役)になって、昭和のエンジニアのエネルギーが令和の若者たちに流れ込んでいる」と表現する。世代を超えた熱量の連鎖が、いま北海道で確実に広がっている。
北海道をシリコンバレーに 半導体で産業を根付かせる
小池氏は若いころ、バイクで北海道を一周したことがある。1日600キロ、誰とも出会わないほどの広大な大地を走り抜けながら「こんな素晴らしいところはない」と思ったという。その瞬間、もう一つの思いも湧いた――「ここに長く住み続けるためには、産業が必要だ」。その思いが、半導体で北海道を豊かにするという構想の出発点となった。
その立地を決定付けた理由は、大きく2つある。1つ目が拡張性だ。小池氏は世界各地での半導体工場の建設経験から「第3棟が土地や環境の制約で建設できなくなる事態を、これまでの工場建設で目にしてきた」と語る。北海道の広大な土地が、その制約を根本から解消する。2つ目が、優秀なエンジニアが働きたい場所であることだ。「自然の中で働きたい、美しい環境、おいしい食べ物、こういうものが全部備わっているのが北海道だ」と小池氏は強調する。
さらに小池氏を後押しした“偶然の一致”がある。米シリコンバレーの中心部を縦断する距離も、北海道の石狩から千歳を経て苫小牧に至る距離も、いずれも約70キロ。「シリコンバレーに負けないような北海道バレーを作れたら素晴らしい。北海道大学、公立千歳科学技術大学、高専など優秀な教育機関もある」(小池氏)
また、農業・水産・観光に半導体という第2次産業をかけ合わせ、北海道全体で第6次産業(1次×2次×3次)を広げる――その実現に向け、2025年5月には北海道経済連合会を中心に産官学金が連携する「北海道バレービジョン協議会」が発足した。
その可能性は、すでに北海道各地で芽吹いている。AIとGPSで農機を自動操舵するスマート農業を展開する帯広市、ドライバーが一切操作しなくてもシステムが自律的に走行するレベル4自動運転バスが公道を走る上士幌町、スマートフォンで複数の交通機関を一括予約・決済できる次世代交通サービス(MaaS・マース)を導入する網走市など、半導体が支えるテクノロジーが、北海道の産業を確実に変え始めているのだ。
「部品屋」であってはならない 人間とロボットが共存する世界のために
「AIの中核にあるのが半導体です」と明言する小池氏は、データセンターから始まり、スマートフォン、自動車、ロボットへと広がるAI需要が半導体需要と表裏一体であることを強調する。
幼い頃から「ロボットの研究者になりたい」という夢を抱いていた小池氏にとって、半導体はその夢を実現するための手段だった。その思いは今もラピダスの活動に息づいている。同社の幹部自らが地元の小学校で半導体の仕組みを教えており「小学生も将来のヒントを得ると同時に、われわれも若い人から学ぶことができるのです」とその意義を語る。
さらに小池氏はAIが人間の知性を超える技術的転換点である「シンギュラリティー」(技術的特異点)について「AIの技術が加速している今(米国の発明家)レイ・カーツワイル氏が提唱した2045年より早く来るかもしれません。人間が存続するためにはどうすべきかを、今から考えておかなければいけない」と指摘する。
「半導体は部品屋であってはならないのです。お客さまと共に新しいイノベーションを起こすような製品を作っていくのが半導体(業界の使命)です。ロボットと人間が共存できる世界はどういう世界なのかを考え、それを追求するのが自分の最後の仕事だと思っています」(小池氏)
半導体は、人間の暮らしをより豊かにするために存在する。その原点に立ち返ることこそが、ラピダスが産業界全体に示す、最も本質的なメッセージだ。
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