「孫さんはOpenAIだが、僕はAnthropic」 SBI北尾会長が語る「AI投資5億円→増収27億円」の勝算(2/2 ページ)
SBIホールディングスが生成AI「Claude」を開発する米Anthropicとの全社提携を発表した。当面の最優先戦略にAI化を掲げ、社外から専門人材を起用。SBI証券では顧客対応のAIエージェント開発に5億円を投資し、口座再活性化などを通じて年27億円の増収を見込む。「孫正義氏はOpenAIだが僕はAnthropic」と語る北尾吉孝会長が、AIドリブン戦略の勝算を明かす。
提携の柱は4つ OpenAIではなくAnthropicを選んだ理由
強固なAIセキュリティ基準を固めた上で、SBIグループが全社改革のパートナーとして選んだのがAnthropicだ。SBIグループは、Anthropicとの提携を4つの柱で構成している。Claudeを使った業務改革、最先端のAIセキュリティモデルの先行利用と共同事業、日本の金融市場向けAIアクセス基盤の共同開発、そして顧客サービス向けAIエージェントの共同開発だ。
北尾会長は「孫(正義)さんはOpenAIに注力しているが、僕の評価はAnthropicの方がずっと上。極限まで合理的に判断するのが自分のスタイル。新しいものが出るたびに飛びつくことはしない」と語った。米OpenAIが著作権侵害などの訴訟を複数抱えている状況の中で、Anthropicとの差が開いていることを指摘する。
SBIグループはAI活用の最終的な狙いを、顧客サービスに置く。念頭にあるのが、金融の知識をほとんど持たない層の存在だ。北尾会長は「金融知識ゼロの人のほうが、世の中では多い。そうした層であっても、最適な資産形成ができる仕組みが必要だ」と語る。
鍵となるのが「選択不要のUX」だ。「知識のない顧客に商品を選ばせること自体に無理がある」という前提から、金融資産の最適なポートフォリオをAIが提案し、実行までを担う。利用者の金融リテラシーの水準や関心に沿って、次に取るべき行動を提案する機能もAIエージェントに持たせるのだ。
AIエージェント活用による顧客サービス向上を、北尾会長は「何よりも大事な生命線」と位置付ける。自社の安全性を確保しただけでは意味がなく、顧客にとって安全で滞りなく使えるシステムを作れるかどうかが問われている。
そして、このAI活用とセキュリティの確立を急ぐ北尾会長は、社内の業務改善を超え、民間技術が国家の運命を左右する「グローバルな現実」さえも見据えている。
民間技術が「国家インフラ」になる時代の経営観
業務効率化や顧客体験の向上にとどまらず、SBIグループがシステム開発運用のAI化を急ぐ判断の前提には、国際情勢の変化によって、技術の位置付けそのものが変わったという深い認識がある。ビジネス面においても、こうした廉価な技術の切り替えに先んじた側が優位を握る現象が起きている。
ロシアによるウクライナ侵攻や、イスラエルとイランの対立など、最近の国際紛争では戦況を左右する要素が従来と大きく変わった。値段が高く、保有できる主体が限られたミサイルに代わり、安価で量産できるドローンが主要な戦力となっているのだ。
米SpaceXが手掛ける衛星通信サービス「Starlink」は、ウクライナの通信を支える基盤となった。北尾会長は「SpaceXは圧倒的な数の衛星を打ち上げている。2番手に付ける米Amazonとの間には“月とスッポンくらい”の雲泥の差がある」と説明する。衛星通信は打ち上げた数と運用の実績が積み上がるほど優位が広がる事業であり、後発が資本を投じても差は容易に縮まらない。一民間企業が事業として築いた優位が、国家の通信基盤を左右する段階に入っているのだ。
こうした状況が示すのは、民間企業の技術が軍事と民生の双方で使われる「デュアルユース」の広がりだ。SBIグループが出資していたイスラエルの企業も、この流れの中で短期間に大きな利益を生んだという。北尾会長は「イスラエルの軍事技術は、戦争が絶えなかった国だけに、猛烈な勢いで発展してきた」と説明する。
民間企業が提供するサービスが、国家安全保障の中核プレイヤーと重なる時代になった。企業がどの技術を選び、どう使うかは、もはや社内の効率化にとどまる話ではなくなってきている。
単なる社内業務の効率化や、ブームに乗ったお題目としてのAI導入ではない。地政学リスクへの洞察に裏打ちされたセキュリティ、社外人材の抜てき、そして「金融知識ゼロ層」をも取り込むUX改革──。北尾氏が描くAIドリブン戦略は、金融業界の在り方を塗り替える可能性を秘めている。「選択不要のUX」が当たり前となったとき、従来の金融機関との差は、もはや縮まらないほど開いているはずだ。
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