「孫さんはOpenAIだが、僕はAnthropic」 SBI北尾会長が語る「AI投資5億円→増収27億円」の勝算(1/2 ページ)
SBIホールディングスが生成AI「Claude」を開発する米Anthropicとの全社提携を発表した。当面の最優先戦略にAI化を掲げ、社外から専門人材を起用。SBI証券では顧客対応のAIエージェント開発に5億円を投資し、口座再活性化などを通じて年27億円の増収を見込む。「孫正義氏はOpenAIだが僕はAnthropic」と語る北尾吉孝会長が、AIドリブン戦略の勝算を明かす。
「孫さんはOpenAIだが、僕はAnthropic。僕の評価はずっと上だ」
Web3カンファレンス「WebX 2026」壇上での、SBIホールディングス北尾吉孝会長兼社長の一言だ。大手金融グループのトップが示した見解に、会場の熱気は上がっていった。
SBIホールディングスは6月、米Anthropicと生成AIプラットフォーム「Claude」を活用した全社的なAIトランスフォーメーション(AX、AIを軸とする業務変革)の推進で合意したと発表した。システム開発や顧客対応、データ分析、営業支援まで幅広い業務を対象とする。日本の金融グループとしては初の取り組みだ。
AXを当面の3大事業戦略の筆頭に据え、推進役には社外から人材を招き入れた。従業員約2万人を抱えるグループ全体で業務の自動化を進めるとともに、SBI証券では顧客対応を担うAIエージェントの開発に着手。わずか5億円の投資で年間27億円という5倍超の増収を上げる計算だという。大組織を根本から作り替える「北尾流・AIドリブン戦略」と、その勝算に迫る。
社外エース起用で挑む「5億円投資→27億円増収」
急速に拡大する生成AI市場と金融業務の複雑化を見据え、SBIグループは当面注力する事業戦略を3つに絞り込んだ。
完全なAIドリブン化、金融取引をブロックチェーン上で処理する「オンチェーン化」、そして「ネオメディア」と呼ぶ新規メディア事業の創設だ。この3つの筆頭にAIドリブン化を置いた。データ処理や事務手続きを徹底的に自動化することで、業務のスピードと正確性を引き上げる狙いがある。
ただAI領域の専門知識を要する判断については、社内の人材だけでは担いきれないと判断し、外部の人材を引き入れる方針を固めた。
そこで起用したのが、AI開発を手掛けるRidge-i(東京都千代田区)の柳原尚史社長だ。同社はSBIホールディングスの持分法適用会社で、6月に発表したAnthropicとの提携でも、グループ横断のエンジニアリング体制を構築し、開発から現場への定着までを担う役割を負う。
柳原社長は、SBIホールディングスの社外取締役として迎えた。北尾会長は、人材を登用する際に重視する点として「能力や手腕よりも先に人物の特性」を挙げる。その「人物の特性」に加えて、さらに能力と手腕も抜群であることが起用の理由だという。
戦略の指針に据えたのは、あらゆる人に最適な金融体験を自律的に提供するAIエージェントの開発だ。SBI証券では、顧客対応を担うAIエージェント開発に5億円を投資し、年間27億円という5倍超の増収を見込む。
顧客対応をAIエージェントが担うことで顧客体験(UX)が高まれば、新規の取引口座の獲得や休眠口座の再開にもつながるとみているからだ。AIネイティブな自律型組織への移行と、グローバル市場向けの金融AIコンシェルジュの開発を並行して進めていく。
もっとも、AI単体で全ての構想が完結するわけではないという。北尾会長は「AIに加えてブロックチェーンを基盤とするWeb3が必要。この2つをうまくミックスして初めて、AIエージェントによる自律経済圏が構築できる」と話す。
「入れて終わり」のAI診断は意味がない 必要な「動的防御」とは?
AI導入と並んで開発に時間を割いているのが、セキュリティだ。「最新のAIを一つ導入し、それで自社ソフトウェアの脆弱性診断をして終わらせるやり方では意味がない」と北尾会長は指摘する。攻撃の手法が日進月歩で更新される以上、ある一時点の診断はすぐに陳腐化するためだ。
SBIグループは、AI攻撃の可視化と継続的な監視運用を、対策の基本にしている。北尾会長は「攻撃を検知してから30分以内に処理できなければ、大きな損失につながる」と警鐘を鳴らす。固定された仕組みで守り続ける「静態」の防御では対応しきれず、状況に応じて変化し続ける「動態」の防御への移行が重要になるためだ。
そのためSBIグループでは、認証パスワードが常に変化する技術を持つ韓国のEVERSPINに早くから投資。この技術を軸にした動的な防御システムを、グループ全体で構築してきた。現在日本法人の設立も進めており、EVERSPIN自体も株式公開の準備に入っているという。
さらに、AIによる自動レビューを組み込んだ開発プロセスを展開し、グループ標準のAIセキュリティ基準も策定する。これは新しい技術が次々に登場する中で、個別の製品を追いかけるのではなく、基準と運用の型を先に整えるという発想に基づいているという。
自社システムの堅牢(けんろう)化と動的なセキュリティ基準の確立。この強固な防壁があって初めて、SBI証券が挑む顧客対応AIエージェントによる「年間27億円の増収シナリオ」も現実味を帯びてくる。
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