「資源に乏しい」わけではない 「海底ケーブル」「レアアース」……AI時代、島国ニッポンの勝機はどこにある?(1/2 ページ)
“資源小国”といわれることもある島国ニッポン。しかし今、列島を囲む「海」を巡って海洋資源やビジネスチャンスが次々に生まれている。地政学の視点で、何が起きているのか明らかにする。
著者プロフィール
小林暢子
戦略系コンサルティングファームを経て、BIG4のパートナーを7年半務める。現在フリーの経営コンサルタントとして活動。ビジネススクール卒業後、米国での勤務経験あり。多文化的な視点から、日本語・英語の両方でオピニオンやコラムを執筆中。
小学校の地図帳でおなじみの「日本地図」は、弓なりに連なる島々の「国土」を描いている。私たちは“日本列島”に目を向けがちだが、その陸地を囲む「海」で今さまざまなビジネスが繰り広げられている。海中には通信ケーブルが張り巡らされ、海底には多様な資源が眠る。AI需要を受けて「海中データセンター」なる計画も浮上している。
干潮時の海岸線を原則とする「基線」から12海里までの「領海」、200海里までの「排他的経済水域」(EEZ)を合わせれば、日本は世界第6位の広さを誇る“海洋大国”だ。
日本の完全な主権が法的に及ぶのは領海までだが、EEZでは資源の探査・開発における「主権的権利」を持つ。だからこそ、日本の競争力や安全保障を考える際は「国土」の概念を周辺の海まで広げる価値がある。
日本を取り巻く海で今、何が起きているのか。地政学の視点で見ると、島国ニッポンに迫る脅威とチャンスが鮮明になる。
NECが世界3位、通信の大動脈「海底ケーブル」巡る脅威とは
Googleで検索した商品を、Amazonで注文し、感想をXに投稿する――私たちの生活の中心になったインターネット。その国際トラフィックの約99%を支えるのが「海底ケーブル」だ。世界で約700本が敷設されており、海底にほぼむき出しで横たわっているという。
“通信の大動脈”を巡っては、地政学リスクの高まりを受けて「国家による妨害工作の可能性」「安全な敷設ルート」「損傷時にどの国に修理を求めるのか」といった論点が急浮上している。実際、2024年にはフィンランドとドイツを結ぶ通信ケーブルが切れる事件が発生。ロシアの関与を疑う声が上がっている。
短期的に日本が神経をとがらせるべきは「台湾有事」だろう。台湾付近の海底ケーブル切断事件は、事故も含めすでに多数起きている。台湾当局も敏感になっており、8月5日に始まった年次軍事演習「漢光」では、中国による通信網攻撃を想定した「モバイル通信低速化演習」が目玉になったという。
日本も備えが必要だ。通信ケーブルが切られても迂回(うかい)できればいいが、海底ケーブルには「チョークポイント」(交通の要衝)がある。チョークポイントで複数本のケーブルが同時に切断されれば、日本の国際通信は大打撃を受けるだろう。
ちなみに日本企業は海底ケーブルのサプライヤーでもある。総務省は2025年、海底ケーブル敷設事業の世界シェアを、現在の20〜25%から35%まで引き上げる目標を発表した。国内では、NECが世界トップ3のシェアを誇る海底ケーブル敷設・保守企業だ。
AIブームによって伝送するデータ量が増える中、需要が伸びる海底ケーブルはビジネスチャンスといえる。それと同時に、日本の近海で地政学的リスクの震源にもなり得る、もろ刃の剣なのだ。
「資源に乏しい国」ではない? “絶海の孤島”がもたらす資源の数々
海洋資源に目を向けると、日本近海の海底に眠る資源に注目が集まっている。
中国は2023年以降、ガリウムやゲルマニウムなどのレアメタルを皮切りに、輸出規制を段階的に強化してきた。2026年1月には対象を日本に絞り込み、軍民両用(デュアルユース)品全般の輸出管理を強化すると発表。高市早苗総理大臣の台湾に関する発言への対抗措置とされ、翌2月には日本企業20社を名指しで事実上の禁輸対象とした。この影響範囲は日本経済に広く及び、経済安全保障の観点から長期的な対抗策が求められる。
そこで期待されるのが、日本が採掘の主権的権利を持つEEZの資源だ。2026年1月、南鳥島沖の日本のEEZで「レアアース泥」の試掘が始まった。海洋研究開発機構(JAMSTEC)の探査船「ちきゅう」が水深約6000メートルの海底から泥を引き揚げ、2028年度以降の産業化に向けて採算性を検証している。
南鳥島は東京都心から南東におよそ1860キロも離れた、面積1.5平方キロの孤島だ。このポツンとある島が「岩」ではなく「島」と認定され、日本領だと認められているため、日本に広大なEEZをもたらしている。そのおかげで、広い海域の海底で資源を探すことができるありがたい存在だ。
同島近海の資源は、レアアース泥だけではない。日本財団と東京大学の共同調査によると、南鳥島近海の約1万平方キロの海域には「マンガンノジュール」が高密度で分布し、コバルトは国内消費量の75年分(約61万トン)、ニッケルは11年分(約74万トン)に相当する量が眠っているという。これらは、EV用電池に欠かせない材料だ。
レアアースだけでなく、重要鉱物全般で中国依存を減らす動きが強まる中、これらの資源を自前で供給できれば大きな強みとなる。日本は資源に乏しい国という通念があるが、それは陸地の話。EEZの海底を含めれば、採掘技術の進歩がその通念を覆す日が来るかもしれない。
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