非公開の「AI学習データ工場」に潜入 人型ロボ30台超が稼働、意外と知らない「データ収集」の裏側とは(2/2 ページ)
フィジカルAI用の学習データを収集する施設「J-HRTI 関東データファクトリー」が稼働した。内部には、約30体のロボットが並び、作業を繰り返している。同施設の全容と狙いを、潜入レポートとして紹介する。
「ロボットからデータを取得」 その方法とは?
J-HRTI 関東データファクトリーのロボットには、頭部と両手に合計3つのカメラが設置されており、作業の様子を映像データとして取得している。また、ロボットの駆動装置に含まれている全てのモーターのパラメーター(設定値)も収集しているという。
ロボットの動作は、オペレーターが手に握っているコントローラーで操作する。首から下げている「VRゴーグル」にセンサーが付いており、コントローラーの挙動を感知している。
ロボットの再起動など、各種設定に使うソフトウェアもVRゴーグルで操作する必要があるという。
現在メインで使っているヒューマノイドロボットは、2本の指で物をつかむ形式だ。これでは作業が限定されてしまう。「5本指のロボット」「可動域がより広いロボット」なども複数台導入しているが、操作が複雑になるため、対応できるオペレーターの育成が課題だという。
“素のデータ”をAI学習用に整える「アノテーション」という仕事
ロボットエリアで収集したデータには「アノテーション」という処理を施す。録画した動画を作業シーンごとに区切って「どの作業をしている」「左手を動かしている」といった説明を加えることで、AIが動作を覚えられるという。
アノテーション工程では、エラーの収集もする。例えば「一度つかんだものを落としてしまい、つかみ直す」という行動をエラー扱いにすることで「2回つかまない」とAIに教え込める。
これらの処理と並行して、動画データの品質も判断している。オペレーターの操作ミスがあった場合は「不合格」、設備側の不具合は「異常データ」と分類する。それ以外のデータは「通過」として扱う。
通過データの品質もチェックする。エラーが一切ないものを「優秀」、物をつかみ直すなど、ロボット自身で解決できる程度のエラーは「許容範囲」、物を枠外に落下させるなど、復元不可能なエラーは「不良」に分類している。
収集データでモデル開発 「ジャパン・フィジカルAIを狙いたい」
J-HRTIは、データファクトリーで収集した学習用データを基に、フィジカルAIの「基盤モデル」を開発する計画だ。同モデルを参画企業が利用し、フィードバックを返してデータ収集工程やモデル性能の改善に役立てる。
2026年内に「物を運ぶ」など単純作業に対応できるようにし、現場に実装したい考えだ。磯部氏は「すでに数千件のデータをためており、アノテーションも済んでいます。GPU(画像処理半導体)を使い出すタイミングで(モデル開発に向けて)スピード感を持って取り組んでいます」と語った。
2027年度にはデータファクトリーを全国10カ所に拡大させ、2028年度に物流や製造など業界特化型の基盤モデルを提供する構想を描く。「最終的には、産業を問わない『ジャパン・フィジカルAI』を狙いたい」(磯部氏)
労働力不足が叫ばれる日本の“勝ち筋”として、フィジカルAIの開発、活用に期待が集まっている。J-HRTIは、その期待に応えられるか。
J-HRTIの参画企業。左からINSOL-HIGHの磯部氏、ツムラの熊谷昇一氏(執行役員 生産本部長)、山善の中山勝人氏(トータル・ファクトリー・ソリューション支社 参与)、山善の丸山洋彦氏(トータル・ファクトリー・ソリューション支社長)、ディーエムエスの山本克彦氏(社長)、芙蓉総合リースの堀内洋介氏(DX・マーケティング戦略部 次長)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「データセンター」の中ってどうなってるの? 潜入して分かった、生成AIを支える「冷却技術の進化」
千葉県印西市に新たなデータセンターが開業した。AI時代に対応したデータセンターの内部に潜入して、冷却技術の進化を見てきた様子をレポートする。
NEC「AIパーク」に潜入 “大企業病”を打破する仕掛けがずらり 新オフィスの全貌は?
NECの新拠点は、AIやデータを活用して“大企業病”を打破しようという挑戦的な取り組みが多数仕掛けられている。一体どんなオフィスなのか、内部を取材した。
情シスが「日本1位のAIスパコン」作るまで 猶予は4カ月、ソフトバンク“社長プロジェクト”の舞台裏
ソフトバンクのスパコンが、AI計算性能で国内1位を獲得した。実は、これを開発したのは「情シス」のメンバーだった。“社長プロジェクト”に挑んだメンバーの奮闘を追う。
トンカツ食べながら語った――NVIDIA、富士通、安川電機ら“フィジカルAI連合”誕生、発表直前の裏話
富士通、ファナック、安川電機、川崎重工業とNVIDIAによる“フィジカルAI連合”が誕生した。5社のトップは、記者説明会の直前には「トンカツ」を食べながら語り合ったという。その一幕を富士通の時田社長が明かした。
謎の「“日の丸AI”開発企業」正体明らかに ソフトバンク、NECら大手がそろって出資するワケ
ソフトバンクやNECなどが出資する「国産AIモデル開発企業」がベールを脱いだ。一体なぜ、国内大手企業が出資するのか。





