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動画配信「6000億円市場」の主導権争い なぜRIZINはU-NEXTを離れ「ABEMAを選んだ」のか?(2/2 ページ)

定額制動画配信市場が6000億円を突破し主戦場が「解約防止」に移る中、コンテンツ企業側がプラットフォームを「選ぶ」主客逆転が起きている。今期に年商100億円を見込む格闘技イベント「RIZIN」は、有料配信収益の事業再投資を条件に、配信をABEMAへ一本化した。長年のパートナーU-NEXTとの契約終了と「ゼロ回答」の裏にあった事業構造の違いとは。買い手と売り手の関係から「共創関係」へ挑むコンテンツビジネスの生存戦略に迫る。

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サブスク全盛への逆説 収入を「次の投資」に回す勇気

 サブスクリプションモデルと、大会ごとに都度課金して配信するPPVモデルという課金方式の違いは、コンテンツの質にも影響する。榊原氏がPPVにこだわる理由は、実はそこにあるのだ。

 「1回、1回がお客さんと作り手の真剣勝負です。僕らが作っているものがつまらなければ、その日に買ってもらえない。売り上げの担保は何もないです。だからこそ手抜きができない」(榊原氏)

 対して、固定額の配信権料を受け取る方式にすると、RIZIN側の収入が契約時点で確定する。制作費の上限が収入の範囲に固定され、追加投資の判断が難しくなってしまう。

 「例えばサブスクで1大会2億円の配信権料をもらったとすると、その中で利益を先に確保して、残りの予算で大会を制作することになります。そうなると旬なカードを組もうとしても、予算に制約が生まれますから、最高のマッチメークを実現できない事態が起こります」(榊原氏)

 榊原氏が引き合いに出すのが、米国の動画配信サービス「Paramount+」(パラマウントプラス)で配信されているUFCの事例だ。同団体は2025年8月、米Paramount Global(現Paramount Skydance)と2026年から7年間・総額77億ドル(当時の為替レートで約1兆1400億円)の米国独占配信契約を締結。米国内のPPV販売を終了し、定額制へ一本化した。

 この巨額契約は、長年UFCの配信権を持っていたスポーツチャンネル「ESPN」(ウォルト・ディズニー・カンパニー傘下)からの電撃的な移籍となり、メディア界の「歴史的な転換点」として話題を呼んだ。

 「UFCは、Paramountから北米だけの配信権で年間2000億円近い固定収入を手にしました。でも、そのお金を手にした瞬間に、次の投資に使う勇気があるかどうかです」(榊原氏)

 「次の投資に使う」という考え方は、RIZINの制作姿勢にも表れている。記者会見や大会の会場での演出、選手を追う映像コンテンツなどは、コストを抑えようと思えばいくらでも削れる。だがRIZINはウェスティンホテル東京やヒルトン東京お台場などの外資系高級ホテルや、六本木ヒルズアリーナ、虎ノ門ヒルズなどの都市型施設で記者会見を開き、時には1000人規模を集めるなど、演出のための予算を常に惜しまないことで定評がある。

 「手抜きをしようと思ったらいっぱいできます。でも、お金をかけないと本当に伝えたいものとか、本当の感動は届かないです」(榊原氏)

 もっとも、榊原氏はPPV一辺倒を志向しているわけではない。RIZINは年10大会前後を、大型興行のナンバーシリーズと中規模のランドマークシリーズの2本立てで開催している。この2つはPPVで維持しつつ、新たに立ち上げるシリーズを定額制向けに供給するという構想も明かした。

 「全ての試合を、PPVで販売する予定はないです。年に何回かPPVで大きく数字が動いて、普段はサブスクで安定的に見てもらう。それがベストなビジネスモデルだと考えています」(榊原氏)

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世界最大の総合格闘技団体「米UFC」は、米Paramount Skydanceと7年間・総額77億ドル(約1兆1400億円)の米国独占配信契約を締結した(米ラスベガスのUFC本部。写真提供:ゲッティイメージズ。wellesenterprises)

「売る側と買う側」から「共創関係」へ RIZINの決断が示すもの

 契約に成長投資を組み込む発想は、格闘技に限らない。Jリーグと「DAZN」は2017年に締結した放映権契約を2023年に成果に応じて配分が変動するレベニューシェア型へ切り替えている(Jリーグニュース 2023/3/30より)。

 シェアトップの「Netflix」と米国最大のプロレス団体「WWE」も、2025年からの配信権の受け渡しにとどまらず、ドキュメンタリーシリーズの共同制作に踏み込んでいる。これらに共通するのは、交渉の対象を配信権料の単価だけに置いていない点だ。単価は交渉の一項目にすぎず、契約の構造そのものが中期の事業規模を左右する。

 今回のABEMAとの契約では、RIZINが提示した条件が相手の稼ぎ方に合っていた点が特徴的だ。ABEMAが今回の条件に応じる判断ができた背景には、無料配信と有料配信(PPV)の双方で収益を上げ、自社で番組を制作・資産化できる独自の事業構造がある。RIZINに投じた資金は、番組という自社の資産になって返ってくるのだ。

 一方、多くのジャンルに少しずつ投資する配信事業者に同じ条件を求めても、話はまとまりにくいのかもしれない。応じるかどうかは、経営者の判断力というより、その会社の稼ぎ方、つまりビジネスモデルによって決まる部分も出てくるだろう。

 つまり、コンテンツホルダー側が見極めるべきは「投資してくれる会社かどうか」というよりも、自社への投資が、相手の利益にもなる仕組みになっているかどうかだ。双方が得をする範囲を超えた条件は、持続可能な関係性を生まない。

 配信市場の競争軸が独占コンテンツの確保へ移る局面で、コンテンツホルダーとプラットフォーマーがどう手を組むのか。RIZINの選択は、両者の関係を「配信権を売る側と買う側」から「共にコンテンツの価値を高めるパートナー」、つまり共創関係へ変えようとする試みだ。

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