単なる業務効率化で終わらせない 経理のプロが語る「会社を動かすAI活用術」:経理領域でAIは使えるのか
タイトな月次決算、度重なる法改正、そして「1円のミスも許されない」という重圧。ビジネスシーンへのAI活用が進む今、データの厳格な管理やセキュリティ規制への懸念から、経理部門では導入が進まない実態がある。
データの厳格な正確性とセキュリティが命である経理部門で、AIなど本当に使えるのだろうか――。企業の信頼を足元から支える経理・財務部門。しかし実態は、毎月のタイトなスケジュールや相次ぐ法改正への対応、そして「1円の不整合も許されない」というプレッシャーとの戦いだ。業務負担を軽減する手段として、さまざまな産業で生成AIをはじめとする先進ツールによる業務改革が叫ばれる一方で、経理部門に限って言えばAI活用に対する戸惑いの声が多いという。
「お客さまの反応を見ていると、AIの導入効果を過度に期待する企業と、活用に慎重になっている企業に二分しています。AI活用を先行して進める企業もありますが、まだまだマイノリティーというのが率直な印象です」
そう語るのは、1980年創業の会計システムベンダー、ICSパートナーズ 代表取締役社長の峯瀧健司氏だ。同社は東京、大阪、名古屋、札幌、福岡にシステム構築やサポートの拠点を置き、現地完結型の支援体制を強みに持つ。
ICSパートナーズは、AIの研究を重ねる中で実務の知見を取り入れたサービス開発を加速させようと、2026年4月にICSP AIを設立した。グループ企業として、データ統合やAI活用支援、会計・業務DXを推進する。ICSP AIの代表取締役社長を務めるのは本多正行氏。大手上場企業などで経理システム構築や決算業務を30年近く担当し、経理部長も歴任してきた。ICSパートナーズが会計データ基盤と業務システムの構築や運用を支え、ICSP AIが経理実務の知見を生かして、データをAIで活用する仕組みを設計する。長い歴史を持つ「会計システムのプロ」と、現場を知り尽くした「経理実務のプロ」がタッグを組み、新たなAI活用の糸口を探っている。
「本多は元々、当社の顧客企業の経理部門にいたユーザーでした。利用者目線の要望や課題感を誰よりも知っています。本多とは、生成AIが話題になる前から『経理部門の課題をAIでカバーできれば、多くの担当者がどれほど救われるか』という議論を重ねてきました。その構想を実現してお客さまに還元するために本多を当社に招き入れてICSP AIを立ち上げました」(峯瀧氏)
AIブームの陰で足踏みする経理部門のリアル
経理業務は日々の記帳や伝票処理、決算といった定型的なプロセスが多く、AIや自動化ツールを導入しやすい環境にあるように思われがちだ。しかし、ツールの導入には「経理特有の課題とセキュリティの壁が存在します」と本多氏は指摘する。
口座番号や取引先情報といった機密情報の漏えいリスクに加え、インボイス制度や電子帳簿保存法をはじめとする頻繁な法改正への適応、さらには例外的な判断が発生した際に人が適切にカバーできる運用体制の構築など、クリアすべきハードルは多岐にわたる。
「ここ数年で急速に普及したSaaSの存在も、経理部門のAI活用を阻害する一因です」と本多氏は続ける。経費精算や給与計算、購買管理などそれぞれに最適化されたSaaSを導入した結果、取引先コードやプロジェクトコード、従業員コードがシステムごとにバラバラに運用されているのだ。
「経理は全ての業務データが集まる部門です。購買や販売、人件費など、各システムから異なるコードで流れてくるデータを取り込み、手作業で補正、変換しなければなりません。データ構造やコード体系が統一されていなければ、AIが正確に処理・分析できる状態にはなりません。AI活用の前提として、各システムから集まるデータを整理し、活用できる形に整える必要があります」
峯瀧氏は、経理部門への投資そのものが他部門に比べて後回しにされやすいという構造的な問題もあると指摘する。
「経理部門は、取引や金銭の出入りなど高い正確性と厳格な管理が求められる多様なデータを取り扱っていますが、データ量は他部門に比べると少ない方です。経済的合理性の観点から、経理部門へのツール導入といった投資を後回しにする企業が多いと感じています」
人間を単純手作業と重圧から解放するAIの真価
厳格なセキュリティ規制、投資対効果への懸念、そしてツールの乱立によるデータの分断――。「機密情報を扱う以上、経理部門ではAI活用なんてできない」「リスクを考えたら手作業の方が安全だ」と諦めて自らブレーキをかけてしまう企業は多い。
しかし両氏は「適切な環境を整えてAIを正しく活用できれば、経理部門は守りの部署から、攻めの部署に進化できます」と断言する。では、AIは経理実務のどの部分で威力を発揮し、業務の効率化と価値向上をもたらすのか。本多氏はICSP AIが実施した検証結果の一つとして、開示書類のチェック業務を挙げる。
「経理部門は数字ばかりを扱っていると思われがちですが、実は大量の文字を扱う業務が多くあります。有価証券報告書は10万〜15万字、決算短信は1万5000〜3万字ほどあります。従来は経理担当者が目視で整合性を確認していました。これをAIに読み込ませて不整合をチェックするプログラムを組んだところ、わずか3分で不適切な箇所を抽出しました。数万文字の中から人が見落としがちな微細な表記揺れを一瞬で見つけ出します」
日常の経費精算や証憑(しょうひょう)チェックにおける不正やミス検知でも効果が確認できたという。
「営業担当者が領収書を撮り直して2回アップロードしてしまった場合、写真の角度や光の当たり方が違っても、記載内容から『これとこれは同じ内容ではないか』とAIが検知して知らせてくれます。全てのデータを人が目視で確認するのは膨大な工数を要し、大きな精神的負荷を伴います。AIに一次チェックを任せて怪しいデータだけを抽出させれば、人は最後の100件だけの確認で済みます。データ精度が大幅に向上し、締め切りに追われる経理担当者のタイムプレッシャーも大きく軽減されます」
AIに任せるべき領域が明らかになれば、人が担うべき業務の範囲も明確になる。取締役会を100回以上運営してきた本多氏は、人しかできない業務として「説明責任」と「説得」を挙げる。
「取締役会やステークホルダーへの説明、あるいは監査法人との交渉といった説明する場面は、これからも経理担当者がやらなければならない領域です。監査法人の指摘に対して、AIと一緒に自社規定や過去データを分析して理論武装できますが、最終的に判断を下して相手を説得できるのは人だけです」
AIに丸投げするのではなく、AIが一次チェックを担い、人が最後の判断と説明責任を果たす。「AIと人の最適な役割分担」こそが、業務精度と内部統制を両立させ、リスクを抑えて経理DXを成功させる方法だ。企業の現場に入り込んで業務プロセスを整理し、運用体制の構築、運用を支援することこそが、経理実務と基盤システムを知り尽くした両社の強みだ。
なぜ中堅企業でも導入できる価格を実現できるのか
経理現場の課題を本質から解決するためにICSパートナーズが開発するのが、独自のAI技術を活用した経理業務向けツールだ。同社は、先端技術研究所である「京都ラボ」を2019年に設立し、NLP(自然言語処理)、OCR、RPAに絞った独自のAIコア技術を研究開発してきた。現在は、経理業務に特化したLLM(大規模言語モデル)の研究も開始している。自社開発にこだわる理由は「他社の方針変更に左右されない安定提供」と「経済合理性」という、創業以来の経営哲学だ。
「外部の基盤サービスに依存し過ぎると、ベンダーの方針変更や価格変更によって、お客さまのスケジュールや予算とは無関係な影響が出てしまいます。どれほど便利なAIであっても、高額な費用がかかれば、中堅・中小企業は投資判断ができません。自社でコア技術を握っていれば、お客さまの需要に応じたリーズナブルで経済合理性のある価格で提供できます」(峯瀧氏)
一方のICSP AIは既存の生成AIツールと会計業務の知見を組み合わせ、セキュアな環境でデータ活用ができるサービスの開発を進めている。ICSパートナーズの知見とサポート体制、京都ラボの研究成果、それらにICSP AIの技術が加わり、経理部門の幅広い課題に対応する環境が整った。
両社は合同で経理部門におけるAIツールの理解向上を促す取り組みも進めている。経理部門やITリーダーとディスカッションを重ねるワークショップやセミナーを定期的に開催している。「AIを業務のどの部分に活用できるのか」「『Microsoft Copilot』『ChatGPT』『Claude』の具体的な違いと使い分けは何か」といった疑問に実演を交えて答え、理解度に応じたレクチャーを通じてAIを活用できる環境を整えている。
経理部門が「経営参謀」へ変わるために必要なこと
企業がAI導入を検討する際、真っ先に挙がるのが、費用対効果(ROI)の議論だ。だが、両氏は「ROIやコスト削減を目標とする限り、経理DXの本質を見誤る」と警鐘を鳴らす。
「手作業から解放された経理担当者は何をすべきでしょうか。分析された数字を基に『この事業の収益性を高めるために、次はこのコスト構造を修正し、ここに予算を投じるべきだ』と経営陣に戦略的なアクションを提言することです」(本多氏)
予算、購買、販売、プロモーション費、人事採用費に至るまで、企業の資金と事業戦略の全てが集約される場所――それが経理部門だ。集まった情報を駆使して経営判断を支援できるポテンシャルを秘めた部署といえる。
「単に作業時間を短縮して『経理が楽になった』で終わるのではなく、集まった情報をどう生かすかが本質です。売上高利益率だけでなく、部門別、拠点別、製品別など、管理会計の視点で収益性を分析する。前年度との比較や、さまざまな切り口での可視化をAIによって効率化し、経営判断に役立つ情報を提供できれば、利益に貢献するプロフィットセンターとしての役割を果たしていると言えます。ICSパートナーズの強みは、お客さまの業務に対する深い理解があることです。課題を解消するアプローチの一つとしてAIを提案し、導入から定着まで専門スタッフがサポートします」(峯瀧氏)
単なるコスト削減や人件費削減といった従来のROIの枠組みを打ち破り、経理部門を企業の利益と未来を自ら創り出すプロフィットセンターへ。「経理業務のどこにAIを活用できるか分からない」「データが分散し、分析できる状態になっていない」といった初期段階の課題から、経理業務の課題を知り尽くしたICSパートナーズとICSP AIに相談してみてはいかがだろうか。次世代の経理価値を切り開く鍵が見つかるはずだ。
セミナー情報
生成AIの進化により、経理部門と会計システムに求められる役割は大きく変わろうとしています。
これまでの業務効率化だけでなく、会計データを活用した分析や監査、さらには経営判断への貢献まで期待される時代が始まっています。一方で、その実現には業務プロセスの見直しやデータ基盤の整備が欠かせません。
本イベントでは、AI時代に求められる経理業務の再設計から、企業の実践事例、そして会計データとAIを活用した次世代の会計システムの在り方までを分かりやすく解説します。
「経理DXの次の一歩」を考える経理部門・財務部門の皆さまに向けた学びと気付きの機会として、ぜひご活用ください。
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