月30万円かかるAIは「学習しない社員」だった――LayerXが回し始めた仕事の“自己改善ループ”(1/3 ページ)
AIがAIを改善する「再帰的自己改善」は、企業の現場へ広がった。人件費の3〜4割の費用が発生する“覚えないAI社員”をどう育てるのか。LayerXやマネーフォワードの先進事例から、AI活用の成否を握る「評価」の重要性をひも解く。
筆者プロフィール:斎藤健二
金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務めたほか、ビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わる。2023年に独立し、ネット証券やネット銀行、仮想通貨業界などのネット金融のほか、Fintech業界の取材を続けている。
1965年、英国の数学者アーヴィング・ジョン・グッドは、人間より賢い機械が現れれば、その機械はさらに賢い機械を設計でき、「知能爆発」が起きると指摘した。61年後の2026年9月、AnthropicのCEOダリオ・アモデイ氏は「We Must Pace the Frontier」と題した論考で、この夏ごろからAIの進歩が急に速くなり、その主な要因はAIが次世代のAIを作る能力を持ち始めたことだと書いている。同氏はこれを再帰的自己改善(RSI)と呼び、これが業界全体で起き始めているとして、開発の速度に「制限速度」を設ける選択肢にまで触れた。
AIがAIを作るというループは、思考実験ではなくリアルなAI開発の現場にまで降りてきた。では、AIに仕事を任せる側の会社ではどうか。9月3日、SaaSなどを提供するLayerX(東京都中央区)の自社イベント「Bet AI Day 2026」で、CEOの福島良典氏は、AIが自分の仕事のやり方を改善するループを、開発ではなく日々の業務の中で回し始めたと語った。その出発点にあったのが、社員1人当たり月30万円というトークン費用である。
人件費の3〜4割を払って「覚えない社員」を雇う
LayerXは2025年12月ごろから、社内のAIツールをエンジニア以外にも配り始めた。営業や管理部門が商談資料を作り、失注案件を分析する。その結果、AIの利用額は1人当たり月平均30万円に達した。同社の平均給与は約800万円で、給与の3〜4割をトークン費用として払う計算になる。福島氏はこれを「実質的に人件費が1.4倍になる」と表現し、「経常的になると、赤字が本当にやばいことになる」と振り返った。
福島氏はこの使い方を「トークンマキシング」と呼ぶ。AIに任せる仕事を増やし、トークンを消費するほど開発や業務が進むと考えて、まず上限なく使わせる段階である。同氏は、この時期を失敗とは呼ばない。とにかく使ってみることが「カルチャー変革を突破するためにはすごく有用であった」からだ。コードの変更を記録するコミット数を見ると、開発速度は3倍以上になったという。
ただ、同じ講演で福島氏は、この使い方の限界にも触れている。熟練のエンジニアは仕事から学び、プロジェクトから学び、インシデントから学ぶ。ところが「今のAIって、覚えないし、モデルの重み付けを変えない限りは学習もしない」。月30万円払っても、翌月のAIは同じ仕事を同じ出来で繰り返す。人間の新人なら、給与の3〜4割に相当する教育コストをかけても、翌年には成長という形で返ってくる。AIには返ってこない。人件費の3〜4割で雇っているのは、“覚えない社員”だったわけだ。
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