値上げに応じない顧客は追わない ユポ社長に聞く、高収益化するための「撤退の流儀」
国内シェア70%を誇る合成紙大手ユポは、2030年までに利益率を倍増させる中期経営計画を策定した。原材料高騰下で値上げを断行し、価値を認めない用途から撤退するスクリーニングを実施。「ユポでなければならない高価値領域」に集中する。さらに、何十年も封印してきた「過去の失敗技術」を棚卸しし、研究員の社外研修を通じた他流試合を推進。ニッチトップ市場で最高益を目指す高収益化戦略に迫る。
圧倒的なシェアを誇るグローバルニッチトップ市場で、企業はいかにして成長目標を設定すべきなのか――。
合成紙大手ユポ(東京都千代田区)は、選挙の投票用紙や屋外ポスターに使われる合成紙市場において「国内シェア約70%」を誇るガリバー企業だ。同社は2030年までに「利益率を倍近くへ引き上げる」大胆な中期経営計画を打ち出した。原材料費やエネルギーコストの高騰が素材業界を直撃する中、多くの企業が値上げをためらい、収益を削っている。
だが、ユポの内藤勝弘社長の考え方は真逆だ。あえて値上げを断行し、価格に見合う価値を認めない用途(園芸ラベルやPOPなど)からは潔く撤退する。「ユポでなければならない領域」に資源を集中させ、顧客をスクリーニングすることで収益性を高める強気の経営姿勢だ。
さらに同社は、何十年も封印されてきた「過去の失敗技術」を棚卸しし、研究員を外へ放り出す「他流試合」をさせることで新たなイノベーション創出に挑む。比較対象なき市場で最高益を狙う素材メーカーの知られざる高収益化術に迫る。
利益率を倍近くへ 比較対象なき独壇場市場で挑む「ユポ百年宣言」
――7月に社名をユポ・コーポレーションからユポへ変更し、ブランドも刷新しました。このタイミングで踏み切った経営上の狙いは何でしょうか。
当社は2019年に創業50周年を迎え、百年企業を目指す「ユポ百年宣言」を掲げました。ただ宣言はしたものの、その中身をまだ作り切れていませんでした。そこで2030年までの中期経営計画を策定し、数値目標も立てて動き出しています。
本当にその目標を達成するとなると、これまでのやり方ではスピード感が出ません。加えて、次代を担うメンバーが「自分たちの計画」と意識して進めていくための、いわば代替わりの意味合いもありました。ものを作る会社から価値を創造する会社へと、もう一度立ち返る――。その意思を社内外に発信するために、ブランドを変えたわけです。
――ブランド刷新の投資対効果(ROI)は、どのように測るのでしょうか。
計画通りに進むかどうか、そこに尽きます。当社は50年の間に、マスで期待される市場から、非常にニッチな機能商品の市場を主戦場とするように変化してきました。その経緯もあって、これまで経営に関する数値を、あまり公表してきませんでした。
中期経営計画では、計画期間で利益率を倍近くに引き上げる目標を掲げています。かなり大胆な数字です。機能商品を扱っていますから、マス市場の企業が公表しているROIC(投下資本利益率)などの数値に、プラスアルファを乗せる形で設定しました。その数字が本当に達成可能なものなのかどうかは、進めながら検証していくつもりです。
――利益率の目標を立てる上で、ベンチマークになる企業や商品が少ないということでしょうか。
ユポはいろいろな業界やエリアに顔を出しているので、それぞれに別の世界があり、何と比べて高いのか安いのかが一概には言えません。例えば光学用のPETフィルムは、光学業界の中では安い部類に入りますが、印刷業界に持っていけば高い素材になります。
最近は、ガラスの代替として使われるケースも増えています。分かりやすい例で言えば、歯科医院でセメントを練るとき、昔はガラスの板の上で練っていました。あれが今はユポを使うようになりました。ユポは「使い捨て」できますから。
値上げを「度胸試し」に使う 必然性なき用途を捨てる「思い切り」
――利益率を倍近くにするというのは、新しい用途を生み出して売り上げを伸ばすということでしょうか。
本来はそれが理想です。ただ、ユポの市場はまだ飽和していません。紙の需要が落ちても、ユポは落ちない。景気の影響を受けにくい用途が多く、昔から不況に強いと言われてきました。とはいえ、そこに甘んじていると劣化していきます。
「いま使われているこの用途は、他の分野に展開できないか」「北海道で使われているものを、他県に持っていけないか」。そうやって横展開できる余地は、国内にもごろごろ転がっています。それをやり切った上で、そもそもユポはどこに可能性があるのかという、新しい価値を見つけに行く動きも必要です。両方をやらなければいけません。
――横展開と新規開拓を両輪で進める一方、扱う用途を絞り込む判断も必要になるということですね。
ユポでなければいけない領域に寄せていきます。そうすれば価値が上がり、価格も上がり、利益も上がります。
なぜユポなのか――。つまり、どの機能が評価されているのかが分かれば、あとは顧客が許容する価格帯との兼ね合いです。そこが合わなければ、ユポでなくても「厚手の白いフィルムで十分」だという話になります。最初のうちは面白いので(いろいろな用途を)追いかけるのですが、他の素材が出てくれば追いかける必要はありません。
――用途を絞り込んだ結果、実際にやめた用途はありますか。
園芸用の、土に挿して使うラベルです。「印刷ができて強度もある」という条件だったものの、そこまできれいな印刷は必要ありませんでした。購入時にきれいであればよく、耐候性もさほど要らない。それなら他の素材でいいという話になりますから、もう追いかけません。
他には店頭のPOPです。いずれも値上げをしたら、すぐに受注がなくなりました。
――値上げが、自社製品の価値を見極める一種のスクリーニングになっているわけですね。
コストが上昇する中で、どこまで当社の提供価値が認められるか、ある意味では「度胸試し」です。ユポでなければ困る顧客層だけが残り、収益性が自然と引き上がっていくのです。
何十年も「ふたをした技術」を掘り起こせ 研究所を飛び出す他流試合
――用途を絞り込む一方で、過去に断念した技術を掘り起こす動きはあるのでしょうか。
技術には、うまくいかなかったものが必ずあります。そして、それにふたをしてしまう。終わらせて表に出さず、ずっとふたをしたままにするのです。そうすると、後から入った人間には、そこに何が入っているのか分かりません。ですから、何十年もしまい込んできたものを「一度棚卸ししろ」と私は言っています。今の時代に照らしてみると、当時できなかったことが今ならできるケースが結構あるのです。
紙用の一般的なインキで刷れるユポは、まさにその例です。昔はできないとしてふたをしたものを、もう一度引っ張り出してやらせました。当然最初はできませんでしたが、よく調べると「この技術がある」と分かり、それを使ったらできた。特許にもなりました。
レシピは持っているものの、製品として出していないものもあります。生分解性樹脂を使ったユポがそうです。顧客がそこまで求めていないのです。逆に「すぐ壊れては困る」という声もあります。壊れるスピードをコントロールするのが難しいのです。
――技術の方向性を見極める人材は、どう育てているのでしょうか。
組織や部署という箱を作るのは簡単です。問題は人をどう動かすかです。ずっと研究所の中にいたら何も変わりません。だから外に出ろと言っています。世の中を見なければいけない。
今、主要なメンバーを対象に社外での研修を実施しています。いわば他流試合です。中にいたら変化のスピードが遅い。外に出て刺激を受け、自分で変わっていくしかありません。やれと言われても人は変わりませんから。
――なるほど。ブランド刷新には、従業員への意識改革の狙いもあったのでしょうか。
もともと当社の従業員は、三菱ケミカルと王子ホールディングスからの出向者だけで構成していました。プロパー社員を採用し始めたのは1993年ごろからで、その世代が今は55歳前後になっています。「これからは君たちの会社になるのだから、もっと自覚を持ってほしい」。その意味を込めています。文化を作るのは彼らです。
悪意のある人間はいませんから、任せて判断させても、そう間違ったことにはなりません。型にはまらない商品を扱っているのですから、社員を型にはめて、これをしなければいけないと縛るべきではない。むしろ型から出ていくべきです。新しいロゴも、四角い枠から一本はみ出したデザインになっています。
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