2015年7月27日以前の記事
検索
ニュース

AIで変わる金融機関の「つなぐ力」 西武信金は25年続けた“手作業”マッチングをどう進化させた?(4/4 ページ)

顧客データはあっても事業の中身が見えない――営業活動の属人化を課題とする金融業界で、西武信金はAIを活用し、25年実施してきた手作業での企業マッチングを刷新。AIと人が生み出す支援の現在地に迫る。

Share
Tweet
LINE
Hatena
-
前のページへ |       

AIは「出会いのきっかけ」に過ぎない 最後まで見届ける「人の力」

 もっとも、AIが提示できるのはあくまで「出会いのきっかけ」に過ぎない。ただマッチングさせただけでは、何も起きない、売り込みの嵐になるといった可能性もある。

 高橋理事長によると、中小企業は名刺交換まではするが、翌日にメールを送る人はまずいないという。自社に自信があり、連携するなら相手から連絡が来るはずだと考えるからだ。一方で専門の営業部隊を持つ企業が紛れ込むと、翌日から営業メールの嵐になり、取引先から不満が出る。それでは「どちらもだめだ」と高橋理事長は指摘する。

photo07
西武信用金庫 理事長 高橋一朗理氏(筆者撮影)

 そのため西武信用金庫では、企業同士を引き合わせた後も支店の職員が間に入り、商談の行方を最後まで見届ける。

 高橋理事長は「企業同士のマッチングだが、実際にはうちの支店同士の職員のマッチングだ。そして最後まで追う」と強調する。

 同信金は20年前に「営業係」という呼称をやめ、企業支援を担う担当者をコーディネーターと呼んでいる。企業と企業を出会わせ、国の補助金を紹介し、大学との産学連携を仲介するのが仕事だと位置付けたからだ。AIは入り口であって「最終的に埋め合わせていくのは従来から持っている人の力」と高橋理事長は語る。

photo06
AIが紹介候補を提示し、支店職員が商談を支援する。破線は、商談履歴を企業DBに取り込み、次の候補提示に活用する西武信金の今後の方針を示す(取材・テイラーワークス資料をもとに作成)

 職員が見届けた商談の結果が、その職員の頭の中にとどまれば、顧客情報が担当者の中にしかない状態に戻ってしまう。重要なのは、結果を個人の頭の中にとどめず、組織の資産にすることだ。面談後に顧客からもらった資料や面談ログ、決算書をAIに読み込ませると、解析・保管され、次の候補出しに反映される。「活動すればするほど」金融機関独自のデータベースになると土手本氏は説明する。

photo05
面談ログや決算書などを解析・構造化し、次の提案やマッチングで参照する仕組み(出所:テイラーワークス資料、一部抜粋)

 こうした現場の知見をAIに蓄積する試みは、他行でも始まっている。例えば、りそな銀行の事例では、AIが読み取れる面談ログの書式をTAILOR WORKSと定め、担当者の記録を取り込み始めた。決算書や融資実績のような社内データをAIに渡す金融機関は「増えてはいる一方で、まだ実現に至っているところは多くない」(土手本氏)

 今回のビジネスフェア当日は、AIの事前リストを基に計210件の個別商談が行われた。西武信金はこれらの商談履歴をデータベースに入れ、次回フェアまでの1年間の営業に使う方針だ。この210件の商談のその後を誰が見届け、どの書式で残すかで、AIが候補を出し、人が見届け、結果がAIに戻る循環が一巡するかどうかが決まる。

筆者プロフィール:斎藤健二

金融・FintechとAIを取材するジャーナリスト。アイティメディアでテクノロジー媒体とビジネス媒体の創刊編集長、取締役を歴任し、2023年に独立。技術と事業の両方の現場を見てきた経験から、AIや金融サービスを経営視点で取材する。会社四季報では上場企業の業績取材も手掛ける。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る