ソニーの半導体工場、アイシン九州の部品工場に学ぶBCP 熊本地震と台湾リスクが問う『分散と集積』の二重構造(2/3 ページ)
2016年の熊本地震で、トヨタの完成車工場が停止した。その教訓を生かして、熊本に集まる自動車部品メーカーや半導体関連企業が取るリスク対策とは。
熊本は自動車部品に加え、ソニーやTSMCの半導体工場が立地し、半導体試験装置の米Teradyne社が1995年から拠点を構える、半導体の一大集積地でもある。阿蘇の豊富な地下水などの立地条件は、地震が多いという弱点を補って余りある、半導体の集積地としての熊本の引力となっている。
クラスタの強みは、装置メーカー、材料サプライヤー、メンテナンス業者などが近接し、取引コストや輸送コストが下がることだ。さらに人材が集まり、人と知恵のエコシステムができ、イノベーションの好循環が生まれる。
代表例が台湾だ。台湾政府が主導して整備した科学技術工業団地を筆頭に、半導体関連の企業が集まっている。10ナノ未満の先端半導体で、台湾は世界シェアの約6割を握る。
だが集積は、裏を返せば「急所の集中」でもある。地政学リスク――例えば台湾有事となれば、止まるのは1つの工場ではなく、世界のデジタル産業そのものだ。
地政学リスクは、ビジネスにどう影響するのか。2025年には、日本の自動車メーカーが生産停止を余儀なくされた事例がある。同年秋、オランダ政府が中国資本傘下の半導体メーカー、Nexperia(ネクスペリア)の経営権を握ると、中国は同社の中国工場からの輸出を止めた。対象部品の調達を同社1社に頼っていた本田技研工業は、北米で約11万台の減産を見込む事態に陥った。
原因が地震か地政学リスクかの違いはあれ、どこか1カ所が止まると全体が止まる構図は、ドアチェックと同じだ。では、熊本や台湾のような集積は、地震や有事で総倒れになるリスクを抱えるだけなのだろうか。
「一斉に止まり、一斉に立ち上がる」クラスタの底力
実はここにクラスタのパラドックスがある。災害時にはバリューチェーン全体が一斉に止まる弱さを抱える一方、近くに保全要員や装置メーカー、取引先がいるからこそ、復旧も速い。
台湾も日本と同じ地震国だが、2024年4月の台湾・花蓮地震では、発生後10時間以内の設備復旧率が70%を超えたという。専門家はその要因として、耐震強化の積み重ねや即応体制に加え、サプライチェーンの上流から下流まで関連企業が団結して復旧に協力したことを挙げる。
今回の熊本地震でも、アイシン九州には本社の保全要員に加え、トヨタ自動車などグループ各社から約200人が駆け付けて復旧に当たった。地理的な近さに加え、こうした顔の見える取引関係の厚みこそが集積の底力だ。集積は「一斉に止まるリスク」であると同時に「一斉に立ち上がる力」でもある。
目指すべきは「集積を避ける」ことではなく「止まらない集積を作る」ことだ。実際、熊本に先端半導体の集積を築く勢いは、地震後も衰えていない。政府は地震のわずか3日後の7月31日、九州7県を「AI・半導体」の「戦略産業クラスター計画」に選定。菊陽町など熊本県の2市2町では官民で約2兆5000億円の設備投資を目指すという。TSMCは熊本第2工場で、国内初となる3ナノ相当の先端半導体を生産する計画だ。
台湾リスクに備えて世界では拠点を分散し、分散先の地域では集積する。この「世界では分散、地域では集積」という二重構造こそが、地政学リスクと災害リスクの両方に備える鍵となる。
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