ミモダエする週末、「MAMIYA ZM」:-コデラ的-Slow-Life-
中古カメラとの出会いは、ほとんどが運命。MAMIYAの35mmカメラ「MAMIYA ZM」に出会ったのは、たまたま車で通りかかったハードオフのジャンク品コーナー。探している人から見れば、畳の上でミモダエして悔しがるだろう逸品だった。
中古カメラを手に入れる場合、そのほとんどは運命に左右される。これが欲しいと思ってお金持って出かけたところで、必ず手にはいるとは限らない。現行商品とは違うのだ。いつ何時、どんな場所で珍品と出会うかわからない。だから情報だけは、常に沢山頭に入れておく必要がある。
そのカメラに出会ったのは、いつもの西新宿界隈の中古カメラ屋ではなく、たまたま車で通りかかった「ハードオフ」である。妻と娘たちを送ったあと、昼時までには多少時間があるので、中山道沿いで目にとまったハードオフに車を入れた。
これといった目的があったわけではない。実はハードオフ、名前は知っていたが行ったことがなく、どんなものが置いてあるのかひかやしてやろうと思っただけなのだ。
一通りデジカメなどを眺めたあと、ふと目にとまったジャンク品コーナーの片隅に、それはあった。「MAMIYA ZM」とズームレンズが2本、セットで1万5千円。
MAMIYAと言えば、中判カメラの世界では超一流ブランドである。それぐらいは知っていたが、35mmのカメラは中古市場でもあまり見かけない。ましてや標準レンズ付属ならともかく、メーカー純正のズームレンズが2本セットになっているのである。そんなカタマリでMAMIYAの35mmカメラを見たのは、初めてのことだった。
早速ガラスケースから出してもらう。ペンタプリズムのところに浅い傷があるのが難点だが、動作には全く問題ない。レンズも新品ではないかと思えるほど、状態のいいものであった。ジャンク扱いの理由は、「モルト劣化」とある。
見た限り、確かに裏蓋のモルトは潰れてはいるが、腐食しているわけではない。問題があれば自分で貼り替えれば済むことなので、さっそく購入した。
飾り気はないが、姿が美しいカメラ
MAMIYA ZMは、35mm一眼レフのZシリーズ最後のモデルである。1982年発売というから、筆者が就職活動をしていた頃に売り出されたことになる。もちろん当時は、そんなことは知るよしもないわけだが。
当時はセットレンズとして、 MAMIYA-SEKOR(マミヤセコール)50mm/F1.7が標準だったようだ。セコールという名前は今聴くとあまりカッコよくないが、これはマミヤのレンズ工場であった世田谷光機株式会社に由来するものだという。
一緒に付いてきたズームレンズは、28〜50mm/F3.5と、35〜105mm/F3.5。組み合わせ的にもかなりベストなコンビネーションである。だがMAMIYAの35mmは結構マウントを頻繁に変えていたようなので、今後のレンズ探しは苦労しそうだ。
カメラとしては、マニュアルフォーカス、TTL測光の絞り優先を基本として、マニュアル露出も可能。取扱説明書も付いており、それによればダイヤルを「AEL」にセットすることで、AEロックができるとある。
ボディの外装は樹脂製だが、それほど軽くもない。右手グリップ部にはゴムラバーが張ってあり、ホールド感がしっかりしている。巻き上げレバーも樹脂製だが、四半世紀経った今でもしっかりした手応えが残っている。
アイカップも付いてきたが、おそらく前の持ち主が別途購入したものだろう。せっかくなのだが、筆者のようなメガネ者にはかえってファインダが小さくなってしまって、使い勝手が悪かった。
いやそれにしても、このセットを中古カメラ屋に持ち込んだら一体いくらになるんだろうなどという下世話なことを、つい考えてしまう。探している人から見れば、畳の上でミモダエして悔しがるだろうこの逸品。今から撮影が楽しみである。
小寺 信良
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。
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