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» 2010年12月10日 07時00分 公開

電子書籍時代、文芸が生き残るために 芥川賞作家・平野啓一郎さんに聞く(3/3 ページ)

[岡田有花,ITmedia]
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 例えば写真を入れるにしても、どんな写真をどういうレイアウトで入れるか考えねばならず、「デザイナーが必要になりお金がかかる」。小説のシーンに合った音楽を入れるにしても、「音楽の長さと本を読む速さはリンクしない」ため、シーンが終わっても音楽が続くなど、ちぐはぐになる恐れがある。

 「僕はデザインやアートにかなり興味があるけれど、Webサイトのトップページの凝ったFlashはほとんどスキップする。電子書籍もいろいろ付くと、みんなめんどくさいだけじゃないかな」

 ただ、今後発売予定のiPad版では、平野さんへのインタビューや朗読といった「読んだ後に楽しめる小さなオマケ」は付けるかもしれないという。

ネットの登場で「扱う世界が1つ増えた」

 「かたちだけの愛」は、事故で片足を失った女優とプロダクトデザイナーとの恋愛を描く現代小説で、読売新聞に連載した小説に加筆・修正を加えて書籍化した。作品にはメールや携帯電話のGPS、Skype、YouTube、ブログといったIT・ネットツールが自然に使われ、時に重要な役割を担う。

 「ネットは存在しないかのような小説を書いたり、ネットも携帯もなかった過去を舞台にした作品を書く純文学作家も多いが、いまの時代に生きているのにネットや携帯は欠かせない」と、平野さんは言う。

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 ネットの登場で「扱う世界が1つ増え、小説で扱う情報量がものすごく増えた」という。例えば村の中で殺人事件が起きた小説を仮定すると、村人や身近な人の話、テレビなどマスコミの話に加え、ネット上でその事件がどうとらえられているかも、扱うべき世界に加わる。

 その一方で「人が本を読む時間はネットに取られ、本を読む時間は減っている」という矛盾も。「情報量が増えながら、コンパクトさを求められているという矛盾の中で、小説は新しい時代に合った圧縮方法や表現を求められている」

 かたちだけの愛も、テーマによっては「ものすごく関心・興味のある人だけが分かるように書く」など、情報の絞り込みに工夫をこらした。「昔の小説のように、横道に逸れるのも面白さ、というテンションで書くと、今の読者は付いてこない」。幅広い読者を想定しながらも、“分かる人には分かる”表現で圧縮。現代小説は「デザインとエンジニアリングとの緻密なバランスが重要になっている」。

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