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» 2012年08月23日 14時30分 公開

ほぼ全文書き起こし:電子書籍時代に出版社は必要か――創造のサイクルと出版者の権利をめぐって (4/7)

[ITmedia]

海賊版、価格破壊、フリー化をどう評価し、収益モデルはどう変わるか

福井 今の話はさっきの岡田さんとの対談の話にも繋がる非常に面白い論点で、紙の役割は終わらないかという議論、もっと続けていたいんですけども、ちょっとここで目先を変えてみたいと思うんですね。ただし、今の話に繋がります。

 デジタルでの流通が増えていって、そこで掛かるコストは低下していくっていう議論が出てきた。そうなれば回収すべきコストも少ないはず、そうすると出版社の役割も変わってくるんじゃないですか、という議論が出てきました。

 その中にあって、海賊版が、今よく問題視されます。海賊版流通、増えてるか減ってるか、かなり議論はあるんだけども、まだまだ音楽だけでも十億ファイル単位で流通していることは指摘されている。また、他方では価格破壊がだいぶ起こってきてますよね。物の値段、確かに、どんどん下がってきているという傾向がある。こういうことに対して、どう評価しますか? なぜかというと、それが、書籍なりあるいは電子であれ、本の収益モデルに影響するでしょ? で、収益モデルが変われば、当然必要・不要論って変わってくると思うんです。それをお伺いしたい。

 で、話題提供でご覧いただくとね、音楽CDではデジタルの登場で価格破壊が相当起こったと言われてるんですよね。ご覧いただいてるのはレディー・ガガの最新アルバムがいま、国内外で幾らくらいで売られてるかっていう数字なんですけども、今ご覧いただいているのは日本のアマゾンです。一番下に出てるのが国内盤の「Born This Way」ですね。この価格が、定価2500円だけども2170円と。2000円強で売られてるんです。

アマゾンジャパンでレディー・ガガの最新アルバム『Born This Way』は定価2500円のものが2170円で販売されている(国内盤、以下、価格はすべてシンポジウム時点のもの)

 で、海外のAmazonでどのくらいで売られてるかというと、まずそもそもオーディオCD自体が11ドル88セントで、今の為替だと1000円を切ります。900円台ですよね。だからこれでもう半額以下なんだけど、検索すると必ずデジタルが同時にヒットして表示されるんですよ。すぐ下をご覧頂くと、MP3版のダウンロード、要するに電子配信が出てきて、7ドル99セントなんですよね。もう600円台です。国内外で言うと、4分の1くらい、3.5分の1くらいかな? 価格が低いことになります。

こちらはAmazon.comでの販売価格

 電子書籍だと、ペーパーバックや文庫の存在とか、まあいろいろあるので簡単には言えないですが、電子書籍でもこういう価格破壊はデジタル化の中でどんどん起こっていくかもしれませんね。究極の価格破壊と言えるのは、海賊版が無料で流通してる状況なんですけども、この海賊版や、あるいは価格破壊、フリー化をどう評価し、収益モデルはどう変わっていくでしょうか? どなたか。はい、植村さん。

植村 まず海賊版について言えば、それは絶対に認めない。僕は模倣は凄く認めるし、そもそも私たちの文化発展って模倣の連続だから、素晴らしい作品を一生懸命真似るってのはもう絶対認めるから、個人がやっても凄くいいと思うんですけど、海賊版を認めないのはフリーライドしてそれで食ってるから。他人の作品をタダで利用して、それで食うってことを絶対に許さないっていうことです。だから海賊版と、例えば模倣とか、あと価格破壊の話はまた別で、価格破壊ってのは売り手が決めた値段が下がってくんだったらそれは合意だもん。

福井 そう、別の問題ですよね。

植村 別の問題だと思いますよ。でも海賊版は許さない。ただ歴史的にずっと海賊版ってのが、まるでずーっと続いててまるで無くならないってことも認めるから、今後ともあるだろうなってとは思います。

福井 はい。いかがでしょう、どちらの論点でも構いません。

岡田 海賊版ってヒトコトで言うとですね、混乱しちゃうんですけど、2種類あると思います。1つは「安い海賊版」、もう1つは「タダの海賊版」。で、安い、というのは、誰かが儲けようとしているわけですね。だから今、植村先生がおっしゃってたように、不当な利益を得ようと安く売ってる問題があると。

 これは考え方があって、不当な利益だからけしからんという考え方と、正当な価格が間違ってる場合、ですね。つまり、海賊版の料金が本来正しいのに、無茶な価格をメーカーが付けてるから、あるべき価格に落ちつつあるんじゃないかと。「だって海賊版見てみろよ、その価格でできてるじゃねーか」って考え方もあります。でもそれは、「正規版がちゃんと流通して、正規版をちゃんと作ってくれてそこで資金出してるからだ」という言い方もあると思うんですけども、でも海賊版が出るほど売れてるものなら、資金のリクープ、実はほぼ終わってますよね、と言えなくもない。

 映画業界は例外だと思うんですよ。映画業界って、作るのに100億円くらい掛かるから、海賊版とか認めちゃったらなかなか資金のリクープができないと思うんですけども。海賊版の悩ましいのは、この、安いというのに関して、いつも消費者の視点で言われるのが、じゃあその価格が正当なものなのか。何で日本でアニメがあんなに高くて、僕あのー好きなアニメとかが、あと怪獣映画とかがですね、東宝とかバンダイとかが出してるのが、メーカー名、言っちゃいましたけども……しまったぁ。

福井 いやNHKじゃないから(笑)。

岡田 あーそうですか。いえ、いえいえ、もうあそことは仕事がなくなるな、と。

福井 いやいや、もう、どこに引っかかってるんですか(笑)。

赤松 これから批判しようとしてたのね(笑)。

岡田 で……ああいうところから出してるのってですね、マニアの足元見るような高い値段で出してるのに、海外のクライテリオンとかで出してるの見たらですね、画質それよりいいのに値段が半分とか3分の1くらいなんですね。てことは正規版の値段自体に対する批判的な力を持ってるんじゃないかと、というのが海賊版について1つ。

 で、もう1つ、タダのもの。これに関しては誰も儲けようとしてないから、さっき植村先生がおっしゃった、不当な利益を得ようとしてない。

赤松 ちょ、ちょっと待ってください。それ全然、ネットで違います。タダで音楽とか漫画とかアニメやってるところは、人のものをタダで流しといて、隣にあるアフィリエイトで儲けるっていうシステムです。だから、儲けようとしてます。

福井 あとまあ、ちょっと補足。MegauploadっていうFBIが全世界同時逮捕した、あれ、日本の漫画を手に入れたかったらここに行けっていうほどのアップロードサイトだったけど、誰でも無料でダウンロードできるんだけど、有料会員登録しないと、まともなスピードにならないんですよね。だから、たくさん観たい人は有料会員登録するんです。

赤松 その手ですよね。

福井 で、ぱーっと押収したら、米国の本拠地だけでサーバ1000台あったらしいですけども、現金や高級車で40億円超えてたのかな、そのとき押収されたのが(注:起訴状によれば50億円超)。まあかなりやっぱり、ビジネスとしては美味しかったらしいですよ(笑)。

植村 確認なんだけど、海賊版と言った場合は、他人の著作物なりを断りなく不正に利用しているものをここでは海賊版って言ってるんだよね?

福井 そうです。それに値段付ける付けないは、岡田さんがおっしゃる通りあり得ると思う。

植村 それだったら、悪いことやった奴はダメだよって僕は思います。

岡田 あともう1つ、何でそんな海賊版が起こるのかというと、著作権による許諾が必要だからですよね。これ別に、幾らで売ろうと、その10%を権利者に払えばよい、というような法律が全世界統一でできてしまえば、海賊版問題ってのは自動的に無くなると。

福井 許諾権を報酬請求権にしちゃって、海賊版問題を解消しようと。

岡田 はい。そういう考え方もあるので、すべてのものが、今ある法律に縛られたり、それぞれのお国事情で縛られてるから一斉に出ている問題……

植村 でも、いま海賊版をやってる人たちは、そのシステムに移ってもやっぱり報酬払わないですよ。だって払いたくないからやってるわけで。報酬請求権っていう仕組みができあがったときに、その外にまた海賊版が生まれるんだから。

岡田 じゃあ多分その海賊版と同じ価格で正規版を出して「こちらが正規版です」と言えば多分正規版の方が売れますよね。

植村 だから、価格破壊ってね、例えばAmazonとかいろんなところがやって、ガンガン下げるメカニズム、僕は凄く素晴らしいと思うんですよ。それによって逆に言うと、僅かなお金をうんと売るっていうのが別にできあがるかもしれないから。

福井 ロングテールですね。

植村 ええ、それは別にいいと思います。ちゃんとした約束の中でやってんだから。おおいに価格破壊してほしい。ユーザーとしてはね。

赤松 ちょっと、さっきの表の質問なんですけど、CDとか新聞とかって、日本全部で同じ値段で売らなくちゃいけないっていうシステムあったじゃないですか。

福井 再販制度(再販売価格維持制度)ですね。

赤松 あれはどうなったんですか? これ。安くしていいんですか? CDとかモノですよね。電子データは再販制度に含まれませんけど、これっていいんですか?

福井 まあAmazonの個別事情の話はやめておくとしても、1つには、ほら上を見ると、輸入盤が入ってくるわけですよ。輸入盤との価格競争って問題が既にあるんですよね。

赤松 輸入盤……。

福井 これ面白いでしょ。輸入盤が2000円くらいなんですよ。本国では1000円以下で売ってるんだけど、輸入盤はまだ2000円に保たれてて。

赤松 あーそっかそっか。

福井 ある種の価格競争は既に起こっていると。だから……

植村 あと、再販制度というのはメーカーが設定した価格を小売に守らせるっていうだけだから、メーカーが「これ値引いていいよ」って言ったら……

福井 それはその通りです。だから、再販制度があっても、ある種の価格競争圧力を受ければ、値段は多少動きます。ただ、再販制度が取っ払われると、もっと大きく動きます。そういう話かと。

赤松 なるほど。

福井 はい。今ね、海賊版の是非っていうところで出た収益モデルについては、正規版ならいいよと。正規版の価格はどんどん破壊されてもいいよと。そうするとやっぱり、正規版のコンテンツから得られるお金はどんどん下がっていくっていう岡田理論にだいたい皆さん同意ってことになるんですかね? で、それは、今後の作品作りにとっては特に問題ではないっていうことになるんですかね。

岡田 電子出版に関しては、です。僕が言ってるのは。紙出版に関してはちょっと違います。

福井 うんうん、で、三田さんさっきおっしゃった、電子があっても紙も生き残るだろうと、その紙には投資が要るじゃないかというところは……

三田 うん、だから電子はまあ、あの、どうでもいいっちゃーどうでもいい。

福井 どうでもよくなっちゃった(笑)。

(会場笑い)

三田 うん。

福井 シンポのタイトルが(笑)。

赤松 いや、あのね、漫画に関してですけど、電子でますます盛んになったジャンルがあります。エロです。紙の本だと、本棚に飾れないんです、家では。

福井 はい。

赤松 あとね女性がね、男性向けのエロを結構買ってる。ボーイズラブだけじゃなくて。これは新しい客層ですよ。

福井 ちょっと、活き活きしてきましたね! 赤松さん(笑)。

赤松 二次創作なんかもそうですけど、新しい仕組みがもしかして作られるかもしれない。その場合はですね、驚いたことに、電子書籍のエロ、1000円とかで売ってるんですね。凄い。で、紙の本がね1000円なんです。普通はちょっと下げるじゃないですか、電子を。自信とか実績の現れなんですけど、そういうやり方もあるんですよね。

福井 価格破壊とは限らない、と。

赤松 そうなんです!

植村 現実にね、電子でうまくやって、むしろ高く売ってるっていう例の方が多くて。学術情報の世界だとElsevierとかSpringerはそうですけど、今まで学術情報の貴重なものって、マンスリー、つまり月に1回しかこなかったんですよ。でも必ず、来月号のネイチャーにこんな凄い論文が載るよっていうアナウンスがあって。僕が学生の時代だと日本はまだシッピング(船便)で届いてたから、読むのが遅れちゃうんで、すごく有名な大先生が、自分の研究テーマでどうしても読みたい論文があるからといって、ハワイ大学まで見に行った話がある。

 だけど今どうなっているかというと、さあ、来月号に載るぞ、だけど、電子ジャーナルだったら今日読めるよ、っていって高く売ってるわけです。研究者たちは凄い論文読みたいから、もう毎日のように新しい情報が来るなら高く買うっていうメカニズムですごくうまくいってる。だから、電子ジャーナルは、紙から電子になって、値段がどんどん上がったんですよ。これはビジネスのやり方ですよね。金融などでも凄く早く情報知りたくてお金出すっていう世界あるじゃないですか。

岡田 じゃあ、例えば、三田先生が小説書かれるときに、編集者がちゃんとチェックしたもの、出版の版面を与えたものというのは遅い本で、もっと早いものは、三田先生の個人的なファンクラブで例えば有料メールマガジンに入っていれば、生原稿のデータが読める。こっちの方が高くなる可能性があるわけですよね。

植村 新しいモデルとして、面白いですよね、それね。

福井 今ね、デジタルシュリンクは必ずしも今後も続くとは限らないっていう視点だと思うんですけど、そうすると、ここまでずっと10年以上落ち続けてきた産業規模ですがこのあとひょっとしたら、下げ止まる、あるいは回復するかもしれないっていうことになりますかね? デジタルシュリンクは止まるかもしれない、と。

赤松 いや、あのね、エロがですね……えーっと

福井 うんうんうんうん

赤松 あははは、エロばっかですいませんけど。去年から今年で、(成長が)止まりました。

岡田 止まった。

赤松 下げてます、もう。これは、今までガラケーでエロ読んでたんですけど、ガラケーがなくなっちゃったんで、下げてるんです。スマートフォンではエロ読めないんですよ。それAppleと、Androidも実は規制はしてます。

植村 でもそれ、寂しい世界ですよね。

福井 ぶっ何が?!

植村 スマートフォンで見た方がぜんぜん、豊かな文化が、ねえ。

赤松 いやあ、体面が……あのね、ドコモもauも全部、ガラケー時代と同じ、その、コードで規制しますよって言ってるんだけど、昔より厳しくなってます。エロ漫画でエロシーンの行為は3割ぐらいに留めてくれ、というようなことを口頭で言ってる。

植村 だとしたら多分そのエロは、次の(新しい)チャネルを見つけて、販売が始まるから、それを考えた人が僕は勝ちだと思ってる。

赤松 あーでも普通エロ漫画って言ったら8割か9割エロシーンですよ(笑)。

植村 でもね、うん……

(会場笑い)

赤松 じゃないと読まないですよ(笑)。

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