電子書籍時代に出版社は必要か――創造のサイクルと出版者の権利をめぐってほぼ全文書き起こし(7/7 ページ)

» 2012年08月23日 14時30分 公開
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出版業界30年後の未来――クロージングコメント

福井 分かりました。赤松さん、巻いた方がいいっていう今、メッセージ出てましたね。そろそろみなさんフリップに書く準備してくださいね。ご質問、2人じゃさすがにあんまりか。もう1人だけとりましょうかね? じゃあ、朝日の赤田さんに、ああ、言っちゃいましたー(棒)カットしてくださーい(笑)。

赤田 朝日新聞の赤田でございます。今日、私ですね、電子出版EXPOの取材をずっとしていてですね、未来の電子……、未来の本の形、未来の出版界がどうなるんだろうってことをずっと考えながら取材してたんですけど、今日もまあそういうことを考えながらお話伺っていて、出版社が必要だと概ね3人がおっしゃっていて、岡田先生も、まあ守ってあげたいっていうことでした。あえて伺いたいのが、そういう必要かどうかではなく、予想、予想というか予測をしていただいて、30年後の未来を。

福井 30年でいい?

赤田 はい。出版社がどうなっているか。必要だと思った方も、必要だと思っているけれどなくなってしまっているとかですね、その辺で1つ具体的な事例として、最近で言うと、某大手印刷会社系列の電子書店が、端末も出しますっていう発表をしました。まあ、あの、凸版系ですけれども。

福井 いいんですいいんですいいんです。

赤田 凸版さんは、端末の発売、それからその電子書籍のデータを作るところ、それから端末経由でそれを売るっていう、つまり、一気通貫で電子書籍のビジネスをやるっていうことを言ってらっしゃる。その中で、「本を作る」という出版社の機能は、まだ完全には入ってきてないんですけど、凸版の子会社がやってる電子書店で、実はオリジナルの本も実際でていると。それは漫画ですが、要するに、電子で出たものが、何と某朝日出版から紙の本で出たりしていて、つまり、オリジナル企画が電子で、出版社以外から出ているっていうことですよね。だから、そういう事例も当然出てくるし、当然ネット時代に非常に大規模な資本でなければ逆に生き残れないということも出てくると思います。だから、Amazonや、Appleや、米国資本との関係も含めて、日本の出版社がどうなっているのか。

福井 かえって大資本が必要かもしれない、っていう視点も面白いですね。じゃあね、クロージングコメントの中で、その視点が入れられるようなら入れていただくということでよろしいですか? で、クロージングコメントの質問は、「出版社はやはり必要だと思いますか?」で、赤田さんからの「30年後にどうなっていると予測しますか?」ってことも出るなら。あるいは、今日最後これを言いたいということ。すいません時間限られてます。おひとり1分、そのくらいでお願いできればと。

岡田 1分!?

福井 はい、分かりました、じゃあね……

岡田 や、1分でいいです。

福井 え、これ、延長大丈夫なのかな? 中継は。

岡田 大丈夫です。

福井 ああ、そう。じゃあ、おひとり2分ね。

植村 大丈夫って、主催者みたいですね(笑)。

岡田 いま、放送から○サイン出ました。大丈夫です。

福井 大丈夫ですね。はい、じゃあ、みなさん拍手で。

(拍手)

福井 用事のある方は、こっそり出てってくださいね、はい。じゃあ、赤田さんよろしいですか?

赤松 赤田さんって誰?(笑)

福井 間違えた、赤松さん宜しいですか?

(場内笑い)

赤松 赤田さん、いつから登壇してんの(笑)。

岡田 後で朝日の赤田さんにもコメントさせましょう(笑)。

福井 えーーーーー……

赤松 赤松でいいのかな?

福井 やるんじゃなかったこんな司会ね。

(場内笑い)

福井 はい、じゃあお願いします、赤松さんどうぞっ。

赤松 残念ながら要らないような……要らないって言っても私は欲しいんですけど、若手が徐々に欲しくなくなってしまうから、30年後って、それはもちろん要らないですよ。3年後に要らなくなってしまう可能性が、いまのところ高いのではないかと。私は要ります。私の代とかバクマンの奴らは要りますけど、要らない感じ? 多分そうなってしまうと思う。

福井 お、短かった。じゃあ植村さん。

植村 まず30年後に答えるかっていう意味においては僕は、電子書籍で食える時代っていうか、ボーンデジタルっていうのかね? だからさっきの方が言ったけど、むしろ電子書籍でちゃんと食えるように、ってこれはでもね、意図的に誰かが、みんながっていうのかな、汗かいてそういう時代を作るんだと思うの。

 それは誰が作るのかって言うと、やっぱ、革命じゃないけど、僕、上から巨大な資本が作るのは嫌なの。だから別にいま動いてるIT企業が凄い仕組み作って「ほらお前らやれるよ」って仕組みを僕はそれ受け入れたくなくて、やっぱそれは、下から革命起こそうよっていう方が好きだからさ。何しろ70年闘争を見ながら生きてきた世代だから。電子書籍で食える、生活できる時代は、必ずくるっていうか、必ずこさせようっていうのがどっちかっていうと僕の考え。で、それは下から作ってこうよ。どっかの巨大な資本が作ったものに乗るんじゃなくて、という。そのプロセスとして、出版社に隣接権だとしたら、それも1つのアイデアだなと思ってます、ってことです。いまいまでは。

福井 はい、ありがとうございました。じゃあ、岡田さん。

岡田 はい、僕は「守ってあげたい」というのがシンポジウムの最初の意見でしたけど、いまは、出版社を小さく「する」手伝いをしたいです。このままでは小さくなります。つまり、事情によってとかお金によって売上によって小さくなっていったら、必ず辛いこととか悲しいことがいっぱい起こるので、そうじゃなくて、自分たちで出版社が小さくする、ことの手伝いをしてあげたい。

 そのためには、さっきの質問と込みですけども、こう考えます。これからの読者はこうなるであろうっていうやつです。1万人はタダで読まれる。つまり、読者全体が1万人いるとしたら、母集団として、この人たちは、タダじゃないと読まない人たちだ。で、その中の5%、500人は電子出版を買ってくれる人たち、その中のさらに5%、25人は紙の本を買う人たちです。多分この5%・5%というのは僕自身、あるいはだいたい同じような業界の人が痛感しているものだと思います。

 ということは、この母数を多くするしかないんですね。タダでないと読まない人、つまり、今の読者人口自体が減ってることの方が問題であって、そのためには、タダで本をいっぱい読ませた方が、結局いいと思います。タダで本をどんどんどんどん読ませたり、どんどんどんどん安くすると、結果的に電子出版を買う人がその中の5%で増えていって、その中で紙の本をあえて買おうという25人も増える。で、この、5%の5%の25人っていうのは、時代によって移り変わるんですよ。そのときの経済状況とかですね、たまたま親が紙の本が好きだったとか。でも、ここを増やそうとするよりは、ここ、電子出版とか紙の本を守ろうとするよりは、読者人口自体をいかに増やすかを考えた方がいいので、できるだけ無料に近い形で、どんどん本が読めるような仕組みを作るために、出版社を小さくする方法ってのを一緒に考えたいと思います。

福井 前向きな縮小って感じですね。

岡田 はい。その方がマシ。

福井 フリーミアムモデルですね、基本的にはね、うん。ありがとうございました。三田さんいかがでしょうか。

三田 私は、出版社はなくならないと思います。なぜかというと、やはり紙の本がいいんですね。これは例えば、演劇とかオペラとか、それがたとえテレビで観ることができたとしても、やはりそこに行って観れば楽しいわけですね。紙の本も、持って「重いな」と思いながら読むのが、読む醍醐味であります。だから、紙の本はなくならないんですが、ちょっと危ないかなというふうに思っております。

 なぜ危ないかというと、米国でKindleというものが大変に売れて、電子書籍が非常に売れておりますが、Amazonは紙の本も売って儲けようとしております。何が起こっているかというと、紙の本と電子書籍同時に出版するとですね、Amazonは、思いっきり電子書籍の値段を下げるんですね。駅前とか商店街の中にあるような現実の本屋さんに本が平積みになっているときにですね、電子書籍をダンピングします。で、売れねーなーということでですね、本屋さんの店頭から本がなくなったときに、電子書籍の値段を上げてね、で、Amazonの通信販売で紙の本を売るということをやってます。で、これが実際にそういうことになってしまいますと、街角の本屋さんが消えていくんじゃないかなという危機感を持っています。

 最初に言ったように、本を平積みに置いてもらうというのは作家の命なんですね。現実の本屋さんがなくなってしまいますと、フラーッと本屋さんに入ったら平積みで置いてあって、これ、面白そうだなーと手に取るという、そういう形で本と出会うということがなくなってしまって、全部端末で、情報だけで見るということになってしまいますと、文芸文化そのものに大きな危機がやってくるかなと思います。

 でも、文芸文化そのものが絶えてしまったら、電子書籍も意味のないものになってしまうんですね。だから、なるべく本屋さんで、現実の本屋さんで、本を買おうということを、ここにいる皆さん、そしてネットで見ている皆さんに訴えたいと思いますね。そうじゃないと、例えば文庫本みたいなモノは危ないわけですね。電子書籍と競合します。だからなるべく文庫本を買ってですね、自分で所有すると。できたら2冊か3冊かね、たくさん文庫本を買ってですね……

福井 同じ本を?

三田 紙の本屋さんとそれからあの紙の出版社と、紙の本を現実の店で売ってる本屋さんを、われわれで守っていかなければならないというふうに思ってます。

福井 ありがとうございました。本日は、最初から申し上げていた通り、90分で論点を出す、そういう場だったと思っております。

 出版社のこれまで果たしてきた、あるいは、果たすことが期待されていたいろいろな機能。この機能そのものが、いま、必要とされてるのか、あるいは、必要とされているものがあるとすれば、それを十全に果たしていくためには、いったいどんな仕組みがあり得るのか。それを担うのは、出版社なのか、あるいは形を変えた事業体なのか。そうしたことを考えていく上で、非常にたくさんの、豊富な問題提起・材料をいただけたように思います。

 これは皆さんにそのまま、問題意識としてお渡しします。皆さんが、この先、ぜひ議論をしていただいて、面白い作品が生まれ続ける仕組み、それにわれわれが自由にアクセスし、豊かな文化を享受できる仕組みを、一緒に考えていければ幸いに存じます。お忙しい中ご登壇いただきました、登壇者の皆さんにぜひ大きな拍手をお願いします。

(拍手)

 また本日はお忙しい中、出版界で言えば早朝にですね、お集まり頂きました皆さん、本当にありがとうございました。御礼申し上げます。終わりです。

岡田 福井先生、パート2やりましょうね。今度。

(場内笑い)

福井 有料でしょ?

岡田 有料で。

福井 はい。

岡田 でもやるとしたら、出版社が必要かじゃなくてもっと恐ろしい問題で、「書店がこれから必要か」っていうね。

福井 そう、本屋ね。うん。

岡田 もっと怖い話。

赤松 著作隣接権に関しては、10日の23時半からニコ生をやる予定です(リンク参照)。中川勉強会の方と、作家と、出版社の取締役級が参加する。森川ジョージ先生と、ネームが間に合えば、井上雄彦先生をお呼びしてあります。あと私も出ます。

福井 それは無料ですか?

赤松 ニコ生だから無料……

岡田 あーそれは実質、有料ですね。プレミアム会員じゃなきゃ追い出されちゃうから。

(一同笑い)

福井 はい、本日はありがとうございました。



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