エンタープライズ:インタビュー 2002/10/27 02:05:00 更新


Interview:インテルが進めるモジュラ・ネットワークとは──アンブローズ氏に聞く

インテルの事業において、パーソナルコンピュータのプロセッサ市場に匹敵する強さを持っているのがネットワーク/コミュニケーションプロセッサ市場だ。IDF Fall 2002 Japanで来日した、コミュニケーションズ事業本部マーケティング・ディレクタのアンソニー・アンブローズ氏に聞いた。

 インテルの強い分野は?と言えば、たいていの人が思い浮かぶのは、Pentium 4をはじめとしたパーソナルコンピュータのプロセッサ市場だろう。インテルはこの実績を足がかりに、サーバ市場や携帯電話/PDAなどのプロセッサ市場でも存在感を示し始めている。しかし、インテルがパーソナルコンピュータ用プロセッサ市場に匹敵する強さを保持している分野はもう1つある。それがネットワーク/コミュニケーションプロセッサ市場だ。インテルは同事業で20億ドル以上の年間売上を持ち、イーサネットやネットワークプロセッサでは市場シェア1位となっている。Intel Developer Forum 2002 Fall Japanで来日した、コミュニケーションズ事業本部マーケティング・ディレクタのアンソニー・アンブローズ氏に、コミュニケーションズ事業の現状と今後について聞いた。

ZDNet インテルのネットワークおよびコミュニケーションズ事業に、現在の景気が与える影響は。

アンブローズ インテルのコミュニケーションズ事業には4つのグループがあります。ネットワーク・プロセッシング事業部、イーサネットのビジネスを手がけるプラットフォーム・ネットワーキング事業部、光伝送トランシーバなどを手がけるオプティカル製品事業部、そして4つめがブロードバンド製品事業部です。

 各分野での収益を見ていくと、イーサネットの方は伸びていますが、それ以外の分野はいま非常に難しい時期に来ています。

 コミュニケーションズ事業部のビジネスには、まず企業向けビジネスと、テレコミュニケーション事業を手がける企業向けビジネスの2つがあるわけですが、テレコム側へのビジネスは全世界で難しい環境になっており、サービスプロバイダの売上も落ちてきています。このような状況はサービスプロバイダの収益があがらない限り続いていくでしょう。

 イーサネットコネクションの部分は非常に収益が伸びています。クライアント市場の63〜64%のマーケットシェアを獲得しています。今後戦略的にはIEEE 802.11の方面を伸ばしていこうとしています。またネットワークストレージの分野もプラットフォームの部分で伸びてきています。市場全体はフラットなのですが、インテルから見れば上向きです。

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コミュニケーションズ事業本部マーケティング・ディレクタのアンソニー・アンブローズ氏

ZDNet 日本市場についてはどのような状況でしょうか。

アンブローズ 全体的には世界の動向と似ていますが、市場別に見れば異なります。日本やアジア諸国はブロードバンドの設置に関して進んでいます。また無線ネットワークに関しては、日本は非常に大きな市場機会をはらんでいる地域だと思います。インテルは2003年にはノートPC向けのBaniasプラットフォームを投入しますが、それによって無線ネットワークの市場拡大が期待できます。ワイヤレスクライアントが伸びることで、ワイヤレスホットスポットの分野や、企業向けビジネス、一般向けビジネス分野に大きな影響を与えると考えられます。

ASICから汎用プロセッサへの置き換えが加速

ZDNet ネットワークスイッチやルータ向けのネットワークプロセッサが、各ネットワーク機器メーカーでの採用が増えているということですが、それはなにがポイントなのでしょうか。

アンブローズ インテルのネットワークプロセッサは、競合社と比べると唯一、コンシューマー向けからメトロネットワークなどに向けた製品までを網羅する完璧なロードマップを持っている言えます。特にXScaleコアを採用していることで、ソフトウェアの開発がしやすくなったうえ、ソフトコンポーネントの再利用もでき、OEMの顧客が非常に取り扱いやすくなっているのです。1、2年はこの市場でのリーダーの地位を保持できると考えています。

 ネットワークプロセッサ分野では、米AMCC、米IBM、米モトローラが競合になりますが、2年ほど前はおよそ25社の競合がありました。しかし、その多くはビジネスに失敗して消えていったわけです。顧客企業は、上から下まですべての市場に向けたソリューションを提供でき、財務状況も安定している、そのような供給元を望んでいます。インテルはそのような条件を満たしているのです。

ZDNet インテルはさまざまな分野で、独自技術によって構成された専用システムを、ある標準に基づいた汎用のモジュラ・ビルディング・ブロックで構成されるシステムへ変えていこうとしていますね。ネットワーク/コミュニケーション分野において進めている「モジュラ・ネットワーク」について説明して頂けますか?

アンブローズ 「モジュラ・ネットワーク」は非常に広い範囲の装置に当てはめることができるコンセプトだと考えています。多くの顧客で、システムを開発するやり方が、変わってきています。従来はASICを中心に開発していましたが、現在はプログラム可能なネットワークプロセッサを使うようになりました。システムに関しても、独自のシステムでなく、業界標準型のシステムをどんどん作っていくという流れになってきています。

 コミュニケーションの業界における標準として、「PICMG(PCI Industy Computer Manufacturors Group)3.0」という規格が注目されています。これは「ATCA(Advanced Tele-Communication Architecture)」とも呼ばれるものです。

 こうした標準規格を利用することで、システムデザイナーはいろいろなプラットフォームに向けたアーキテクチャの開発が容易になります。またそうして開発したリソースの再利用も可能になります。結果として、OEM顧客は非常に開発期間が短縮でき、開発コストも低く抑えられまる。サービスプロバイダにとっても、投資が少なくて済み、運営コストも低く抑えられます。ボードメーカーにとっても、顧客のニーズに合わせたインテグレーションをやりやすくなるというメリットがあるというように、市場に対して大きなインパクトがあるものです。ATCAは日本市場でも、OEMとしてNECがサポートしているほか、サービスプロバイダとしてNTTドコモがサポートしています。

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関連リンク
▼Intel Developer Forum Fall 2002 Japan レポート

[聞き手:佐々木千之,ITmedia]