エンタープライズ:ニュース 2003/09/19 09:50:00 更新


基調講演:セキュアなモビリティを実現するSun Ray、ラボでは「Soft Ray」も開発中

SunNetwork 2003が最終日を迎えた。基調講演でSunのバスCIOは、セキュアなモビリティを実現し、かつ管理を簡素化してくれるSun Rayの優位さをアピールした。また、フェローのミッチェル氏は、ラボでSoft Rayプロジェクトが進んでいることも明らかにした。

 米国時間9月18日、カリフォルニア州サンフランシスコで開催されている「SunNetwork 2003」カンファレンスは最終日を迎え、基調講演にはSunでCIOを務めるビル・バス副社長が登場した。国防総省でCIOを務めた経歴を持つ彼は、セキュリティとモビリティを実現する「Sun Ray」の全社的な配備を推進した。その台数は2万7000に上る。

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バス氏の古巣ともいえる米海軍では空母などにもSun Rayが導入されている


 ネットワークが遍在化するのに伴い、それに接続されるデバイスも急増している。例えば、外出先や自宅から企業のシステムに接続し、仕事をするのも日常化していることからもそれは分かる。しかし、それは企業にとっては、管理できないネットワークデバイスが増えることを意味している。蔓延するウイルスにも振り回されっぱなしだ。景気回復の足取りが鈍い中、企業のIT予算は抑制されたままで、こうしたデバイスへの対処もままならない。

 Sunは、自らのラボで開発した“ウルトラThinクライアント”によってこうした問題を解決しようとしている。

 Sun Rayのデビューは、Javaからそれほど遅れなかった1990年代後半。Sunのラボでは1993年ごろから研究開発が始まったという。サーバ側でアプリケーションを稼動させ、その画面をリモートのスクリーンに映し、キーボードで操作する、いわゆるThinクライアントソリューションの一つだが、比較的大きなサーバと太い帯域幅のネットワークが必要だったことから、いまだ成功にはほど遠い状態にある。

 しかし、同社のスコット・マクニーリーCEOは、なかなかあきらめない。

 「Sunの社員でさえ、新しいスタイルに慣れてもらうのはたいへん。しかし、Sun Rayのメリットを粘り強くアピールし、今では家庭にも欲しいという社員が増えた。私の自宅などには6台もある」(マクニーリー氏)

 彼は、初日のプレス向けQ&Aセッションでこう話し、Sun Rayを売り込んでいる。

 Sunはオフィススペースの節約にも取り組んでおり、セールス部門を中心とした社員の1/3に決まったデスクを与えていないが、それを実現するためにはSun Rayの技術が不可欠なのだ。

 Sunの社員には、「JavaBadge」と呼ばれるJavaCardが配布されている。どのオフィスに出掛けても、Sun Rayを見つけてこれを差し込めば、自分のデスクトップ環境(もしくは、さっきまで作業していたセッション)が現れる。同社では、ワイヤレスLAN機能を搭載したノートブック型Sun Rayも開発中で、今回のSunNetworkカンファレンスの展示フロアでも披露している。

 「これはもう単なる液晶パネルに過ぎない。液晶パネルのために管理や更新といった作業は必要ないのだ」とバス氏は巨大組織のCIOらしく話す。

 また、Sunでは広くVoIPを活用しているため、Sun Rayにヘッドセットをつなげば、電話として使える。黒く不恰好なビジネス電話もお払い箱だ。自分の電話番号に掛けられた通話がログインしているSun Rayに自動転送されるだけでなく、席を外しているときには携帯電話に転送することもできるという。

 「これこそ完璧なコールセンターソリューションでは?」とバス氏。

 もちろん決まった部屋が与えられている技術者も多いため、SPARC/SolarisのワークステーションやWindowsマシンにはJava Desktop System(旧Project Mad Hatter)を導入し、ユーザーの使い勝手を統一している。

 Sun Rayが必要とした帯域幅も当初の10Mbpsから数百kbps程度まで改良が進んでいる。ソフトウェア事業を統括するジョナサン・シュワルツ執行副社長は、「政府の出先機関、銀行の支店、小売業の店舗、ファストフード店など、さまざまな場所にSun RayをKIOSK端末として設置できるようになった」と、日本人プレス向けのインタビューで話した。もちろん、セキュリティに対する懸念の高まりが追い風になっていることは言うまでもない。

 かつてJavaがテレビセットトップボックスをターゲットに開発された時期があったことを思い出してほしい。

 「例えば、通信事業者やサービスプロバイダーがSun Rayを各家庭に配布したとしよう。すべての管理がサーバ側で行えるため、メンテナンスやウイルスに悩まされることはない。PCデスクトップを配ったらビジネスモデルはめちゃくちゃになってしまうだろう」とジョナサン氏。

 彼らの最大の顧客は今も通信事業者やサービスプロバイダー(データセンター)なのだ。

「Soft Ray」プロジェクトも進行中

 通信事業者や政府などで潜在需要が期待できるSun Rayだが、Sunのラボではこの仕組みをソフトウェアで実現し、WindowsデスクトップのようなFatクライアントやPDAも「Sun Ray化」するプロジェクトが進行中だ。

 バス氏からステージに招き上げられたジム・ミッチェル副社長は、「Project Soft Ray」と呼ばれる取り組みについて、デモを交えながら話した。ミッチェル氏は、Sunで数少ない「フェロー」の称号を持つひとりだ。

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分散OSの研究でも知られるミッチェル氏


 「Thinクライアントとはハードウェアのことを意味するのではない」とミッチェル氏。

 彼によれば、「それが壊れてしまったら人生途方に暮れてしまうようなデバイスはThinクライアントではない」という。言い得て妙だ。PalmをThinクライアントと思っている人がいるかもしれないが、そうではない。逆にWindowsデスクトップのようなFatクライアントでも、Javaで書かれたSoft Rayのコードをダウンロードして実行させれば、ウインドウ内にSun Rayの場合と同じ自分のデスクトップ環境が現れるというわけだ。

 ミッチェル氏は、「家庭のPCもSoft Rayによってウイルスから逃れられるようになる」とし、56kbpsというナローバンドでも使えるように圧縮技術の改良が進んでいるという。

 ただ、課題もある。多くの人が持ち歩くPDAや携帯電話をどのようにSun Ray化するかだ。ディスプレイは小さく、Sun Rayのデスクトップ環境をそのまま表示しても使いものにならないし、かといってサーバ側で稼動させるアプリケーションをデバイスごとに書くのもたいへんだ。

 そこで、Sunのラボでは、XMLベースのUniversal Client Markup Language(UCML)によってアプリケーションを記述することを着想し、現在開発を進めているという。

 「セッションのモビリティを意味あるものにしたい」とミッチェル氏。デバイスごとにどのようにメニューやボタンなどを表示すればいいのかをライブラリ化し、UCMLで記述されたアプリケーションがそれを呼び出しながら実行するという。こうすれば、一度書いたアプリケーションはデスクトップでもPDAでも使えるようになる。

 セキュリティを保ったモビリティの実現は、コスト削減と複雑性の解消、ネットワークサービスの短期開発支援と並ぶ、Sunの戦略の大きな柱なのだ。

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シャープZaurus上でSoft Rayをデモした。メニューもデバイスに応じて変わるという


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[浅井英二,ITmedia]