前回の概論で説明したCRMを実践している代表事例として、米国の地方スーパーマーケットと高級百貨店の事例を取り上げ具体的に考える。
前回の概論で説明したCRMを具体的に実践している代表事例として、米国の地方スーパーマーケットと高級百貨店を見てみる。
1997年5月29日、ニューヨークタイムスの一面に、懐かしい人の写真が掲載されていた。その人は、オハイオ州デイトン市で2店舗のスーパーマーケット、ドロシーレーンマーケットを経営するノーマン・メイヤー氏で、私もデイトンにかつて3年間住んでいた関係から同店を愛用し、メイヤー氏とも懇意にしていた。
記事のタイトルは、「チェリーピッカーよさようなら」「スーパーマーケットが遂に利益向上の道を見出す」であった。ニューヨークタイムスはメイヤー氏を顧客優先プログラムの宣教師として取り上げていた。早速同氏を訪れ、新しくはじめたフリークエントショッパープログラム(FSP)について語ってもらった。
ドロシーレーンマーケットは、ほかのスーパーマーケットと同様、週別の販促セールを販売促進策の柱として実施してきた。フライヤー(新聞折り込みチラシ)を販売対象地区に広く配り、ロスリーダー(目玉商品)を大量陳列し、消費者が多数来店することを最も重視していた。だれでも採用するこの方式では、あくまでも価格がカギであり、大量仕入が可能な大手に伍して競争するのには限界があった。
また、ロスリーダーのみを購入するゆえに、チェリーピッカーを最も利することとなり、優良顧客に対する利益の還元にならない場合がほとんどである。
だれが真の優良顧客であるのか、いかにしたらチェリーピッカーを除くことができるのか。自店でも競合店でも買物をするスプリットショッピングの顧客に、どうストアロイヤリティーを高く持ってもらうのか。さらには、全体としての利益性をいかに高めるか、これらの経営課題を解決するシステムとしてFSP(フリークエントショッパープログラム)を採用するにいたったのである。
このプログラムは、クラブDLMと名付けられ、1995年5月31日より実施された。カードにはバーコードが印刷され、カード会員が買物をするごとに読み取られる。これにより、どこに住むだれが、いつ、何を買ったのかがわかる仕組みが出来上がり、従来はチェリーピッカーを含めたすべての消費者が買えた特別価格の商品は、クラブDLM会員しか購入できなくなった。データベースは、だれが優良顧客なのかを購買履歴から分析し、さらに優良顧客個別に購買頻度の高い商品をリストアップすることができる。
CRMは顧客別詳細データをベースに、顧客に積極的なアプローチを図る取り組みであり、社員全員がいかに知恵を出し合うかよって成功が左右される。ドロシーレーンマーケットでは次のようなプログラムを実践している。
1つは、会員特別価格の提供だ。開始後4カ月で新聞折り込みチラシを全面的に廃止する一方、過去3カ月間の購買累計額上位30%の有料顧客に月次ニュースレターを送ることにし、会員特別価格のお知らせやワイン試飲会などの催し予定を通知するようになった。会員特別価格は棚に明示し、通常価格との二重価格制を採用した。
また、グッドネイバープログラムと呼ばれる取り組みも行われている。ここでは、会員はチャリティー団体の中から希望する団体を選び、このプログラムに参加することができる。申し込んだ会員は買物額の一定比率をチャリティーとして寄付することができる。
さらに、ターゲットされたダイレクトメールも挙げられる。個々の顧客が何を買ったかという購買履歴をデータベースで検索することによって、顧客の嗜好に合わせた販売促進策を打ち出すことが可能になる。たとえば、パンをたくさん買っている顧客には、パンのクーポンが入ったダイレクトメールを送るなど、個別対応をするようになった。
ステルスマーケティングと呼ばれる手法もある。ステルス戦闘機のように敵(競合相手)に捕捉される(手の内を見られる)ことなく、各種施策を打つことができる。電子クーポンやサンキューレターの送付等、多彩なプログラムが社員のアイディアで生まれることになる。
上位30パーセントの優良顧客からの総売上額は、全体の82パーセントを占め、上位1パーセントの最優良顧客による買い上げ額は11.3パーセントにも達している。これにより、だれが大事な顧客であるかが明確に認識できるようになったのである。
日本ではポイントカードプログラムが主流であるが、大阪に本部のある大手量販店では、ドロシーレーンマーケットを参考にして同様のプログラムを実践している。
最優良顧客に対するサンキューレターや来店が滞った顧客訪問は店長の役割であり、誕生日や優良顧客へのギフトなどは、それぞれの店舗で工夫を凝らして実施している。大型顧客データベースを活用し、デシル(10段階)、関連商品、来店頻度推移をはじめとした各種分析を行い、それらの結果を各種アクションに結び付けている。
前サックスフィフスアベニューの上級副社長兼CIOのダン・スミス氏は、米国の高級百貨店/専門店に対するCRMを指導している。同氏は、長年高級アパレル店舗での要職を努め、その経験から新たなCRM手法を開発した。
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