同氏と私は長年の親交があり、その考え方とシステムの基本コンセプトを教授戴く機会を得ることが出来た。スミス氏によると小売業におけるCRMの担い手は「販売員」であり、彼/彼女がいかに顧客との関係を深めその情報を把握しているかが最大のポイントになる。
販売員の経験と知恵、さらには技能が究極のCRMのガイドラインであるが、残念ながらプロフェッショナルセールスパーソンの数は減少しており、販売員の多くは顧客別個人情報、購入履歴、併売商品情報、嗜好性などのサポートを必要としている。一方で、優秀な販売員は個人でクライアントブック(顧客台帳)を持っており、その情報をもとに顧客とのリレーションシップを構築し、ほかの通常販売員の数倍の売り上げを計上していた。
このクライアントブックを情報として一元化し、多くの販売員が使えるようにできないのかという発想で、クライアンテリングシステムが誕生した。
まず販売員は顧客と親密になり、住まいと居住年数、仕事、服のサイズ、好みのブランドなどを会話の中から聞き出し、それらを情報として端末機器(通常POSターミナル)にインプットする。これらは本部データベースに登録される。
販売員は毎朝、端末からクライアンテリングシステムにログインし、本部から送られる当日のアクションリストを受け取る。それらのリストには、該当する顧客に送るべきイベント案内、誕生日祝いやお礼の手紙、お直し商品の完成通知などの指示が連絡先とともに含まれている。販売員はそのリストにより、電話、電子メール、自筆の手紙で顧客との関係性を深めるわけだ。
さらに、顧客のブランド志向、好みのデザイナー、サイズ情報を考慮し、適切と思われる商品を提案し、シーズン開始直前に新商品情報を伝えたりする。
また、販売員の担当売場以外から購入した商品情報も含まれており、顧客のコーディネーションの嗜好からほかの売場の案内や最適な商品組み合わせをも提案できる。スーツを買った顧客にはコーディネイトされたアクセサリー、靴、ランジェリーなどの併売を促進することができる。もちろん、担当売場以外での担当顧客の売上実績も評価対象となる。
サックスフィフスアベニュー、バーグドルフグッドマン、ニーマンマーカス、ノードストロム、ティファニー、ジョルジオアルマーニ、グッチでは、クライアンテリング採用の効果が実際にあった。さらに、ロイオヤルティカードシステムと組み合わせ、総合的なCRMプログラムを実践している。
地域スーパーマーケットであるドロシーレーンマーケットも、高級百貨店であるサックスフィフスアベニューも、情報システムと社員の意識とを結びつけることで、顧客との緊密な関係を築き上げていることを認識すべきであろう。
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