楽器演奏に介護に、人とともにあるトヨタのパートナーロボット

「トヨタがロボット分野にも進出」――この発表から数年、トヨタはグループの総力を結集して実用的な用途に即したロボットを世に送り出そうとしている。いずれは自動車への技術応用も期待されよう。

» 2005年11月02日 19時24分 公開
[早川みどり,ITmedia]
トランペットを演奏するトヨタ・パートナーロボット、二足歩行タイプ。人間のアシスタントや福祉用として開発された

 愛・地球博トヨタグループ館で華麗に金管楽器や打楽器を演奏した「トヨタ・パートナーロボット」たち。楽器の演奏など簡単だろうと思われるかもしれないが、実際はトランペットやトロンボーンなどの金管楽器は、空気を送れば音が出るという単純な仕組みではない。特殊な口の形と空気を送り込む量の調整ができて、初めて音が出る。意外に難しい動作なのだ。

 トヨタ・パートナーロボットには、金管楽器の演奏を可能とするため、人の唇の動きを実現する「人工唇」が使用されている。柔軟さと細かな動きを再現するこの部位には、非常に高度な技術が結集されている。

 また、音階を出すためピストンを操作する指の動きも、速さと力加減がロボットには難しい。トロンボーンは片腕で管をスライドさせるため、腕全体の動きも複雑になる。

 打楽器も同じことで、ちょうど良い力加減で叩く必要がある。金管楽器の演奏で求められる繊細な動きと相反するような力強い動きが打楽器の演奏には求められる。曲の場面によって強く、または弱く叩く動きは、人間なら何気なくできることだが、ロボットにとってはわれわれが考える以上に複雑で難しい動きなのだ。

トロンボーンを演奏するトヨタ・パートナーロボット、二輪走行タイプ。作業用として開発された

 トヨタ・パートナーロボットの場合、実際に人間が演奏したときの指の動きを学習し、それを再現することでスピードと力加減を調節している。学習には、演奏者の指のどこにどのくらいの力がかかっているかが分かるセンサーを使用し、ロボットはそれを全部記録するのである。この曲のこの部分ではこういう動きというのを、人間がプログラムするのではなく、センサーを通してロボット自らが学習する。また、それを実現するハードウェア、つまり指の構造を持っているのだ。

 動きを学習するロボットとしては、このほかにもホンダのASIMO(アシモ)やソニーのQRIO(キュリオ)などがあるが、これだけ複雑な情報を学習し、曲を演奏できるのはトヨタ・パートナーロボットしかいない。

電子ドラムを演奏するトヨタ・パートナーロボット、二輪走行タイプ。力加減の調整に苦労したという

 ドラム演奏となると、指先だけではなく手首や腕全体の動きも複雑なものとなる。腕や手首の動きを学習するには、演奏する人間の腕や手首にセンサーをつけ、位置やスピードなどを計測する。その情報量は膨大だ。

 この方法で、繊細な作業を学習させ、再現することも可能だ。それにより、今まで人間しかできなかった製造ラインの細かい作業も、ロボットに任せられるようになることが期待される。

 ロボットは人のために作られ、人の役に立つことで存在する。そのコンセプトを見事に実現しているのがトヨタ・パートナーロボットなのだ。もちろん、脇や肘への挟み込み防止機能も搭載している。安全であってこそ、はじめて人間のパートナーたり得るからだ。

人を乗せて歩く二足歩行タイプi-foot(アイフット)。ポッド部分に人がすっぽり入る大きさ

 さらに、福祉用として開発された「人が乗って操作できる」二足歩行ロボットも開発している。i-foot(アイフット)と呼ばれるこのロボットは、高さ2メートル36センチ、重さ200キログラムで、60キログラムまでの人間が搭乗可能だ。操作はジョイスティックで行い、最大歩行速度は時速1.35キロメートルだ。

 トヨタ自動車で培った安全性を応用し、人が乗る部分をポッド型にしたことで、万が一、ロボットが転倒しても人間がケガをしないよう配慮されている。二足歩行なので、段差や階段があっても困らない。今後は車いすのように家庭で使えるよう、小型化を進めるという。

 トヨタがロボット分野に進出したのは2002年。一方、この分野で先行するホンダはすでに20年近い歴史を持つ。しかし、トヨタはグループの総力を結集して、わずか2年ほどでパートナーロボットのような成果を出した。ホンダが二足歩行の技術開発に並々ならぬ情熱と時間を注いでいることを差し引いても、この短期間でここまでのものを開発するトヨタの技術力に改めて驚かされる。

 トヨタのロボットに対する視点は、実用的な用途を想定しているように思われる。いずれは自動車への技術応用も期待される同社のロボット技術の今後から目が離せない。

資料提供:トヨタ自動車株式会社

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