提言4:組織のマネジメントOSを構築せよマネジメントイニシアチブ時代に向けて――7つの提言

今回は「提言マネジメントイニシアチブ時代に向けて――本企画では7つの提言について順次、解説している。今回は「提言4」として、「組織のマネジメントOSを構築せよ」がテーマ。

» 2006年06月15日 07時00分 公開
[増田克善+アイティセレクト編集部,ITmedia]

マネジメントシステムは魔法の杖ではない

 組織の目標達成、価値の最大化に効果的なマネジメントシステムといえども、どんな組織にも成功の果実をもたらす魔法の杖にはなり得ないことがある。これは、あるコンサルティング会社が急成長しているベンチャー企業にマネジメントシステムを導入するためにコンサルティングに入ったときの話だ。その会社のトップは業績好調ながらも、組織としても成熟度を高めてさらなる成長戦略を描くためにマネジメントシステムの導入を決定した。ところが実際に業務分析を行い、マネジメントシステムを導入しようとしたところ、それを受け入れる土壌がまったくなかったのである。その最大の理由は、短期間のうちに急成長したベンチャー企業ゆえ、非常に若い社員がほとんどで、マネジメントとは何かを理解している社員がいなかったためである。

 米国では小学校から、結果重視でなく結果を導き出すに至ったプロセスを重視した教育を行っているという。1つの例として宿題を出す際に、子供たち自身がテーマを決め、それを達成する計画を立てる。出来上がった結果だけを提出するのではなく、結果に至るプロセスで起こった問題や、その問題を解決するために何を考え、どうやり直したかといった説明もさせるという。これはまさしく、マネジメントを実施するときの基本的なプロセスであるPDCAサイクルの考え方を身につけさせる教育である。これに対して日本は、こうした教育を実施している学校はまず珍しいといえるだろう。それどころか、社会人になってもプロセス指向の考え方の教育を受けて修得する機会は少ない。

 ある程度歴史ある大手企業には、うまく機能しているかどうかは別にして、マネジメントを実践してきた経験とノウハウがあるが、前述したベンチャー企業にはマネジメントの基本的なプロセスを理解している社員がいなかったのである。

 ある大手ITサービス会社の役員は、「プロジェクトマネジメントを強化するには、人材育成と組織の成熟度を高める以外に方法はない。これをなくして、安易にプロジェクトマネジメント支援ツールを導入しても効果はない」と言い切る。マネジメントシステムを導入し、機能させるためには、土壌作りのための人材教育とトップのコミットメントに基づく、導入が行われることが不可欠なのである。プロジェクトマネジメントの例で言えば、PMBOK(Project Management Body of Knowledge)をいくら理解をしても、組織自身が意志を持ってその導入を行わない限りはプロジェクトマネジメント導入は実現できない。

マネジメントOSの構築は必須。その構築は経営者の仕事

 コンピュータには、WindowsやLinuxなどのOS(基本ソフト)という土台があって、その上でさまざまなアプリケーションを動かすことができる。このテクノロジーOSとテクノロジーアプリケーションの構造と同様に、マネジメントシステムにもマネジメントOSという土台と、さまざまなマネジメントアプリケーションというモデル化ができる。コンピュータはテクノロジーOSがなければ、ただの箱。同じようにマネジメントOSが貧弱であれば、どんなに素晴らしいフレームワークを持ってきても機能することはないのである。

 マネジメントOSとは、具体的にはPDCAサイクルあるいはTQM(総合的品質管理手法)の考え方である。言うまでもなくPDCAはマネジメントの基本プロセスであり、これら4つのステップを1つのプロセスとしてとらえ組織を運営していくことで継続的な改善が図れる。TQMは、TQC(総合的品質管理)が現場の品質管理活動に主眼を置いていたのに対して、経営的なマクロ視点でその活動を文書化・明確化し、徹底させるマネジメントに重点を置いている。このTQMの思想もPDCAを実践できる能力である。

 マネジメントOSは、こうした考え方ができる能力であり、マネジメントを進めていくためのオペレーションシステムである。組織のマネジメントOSを構築するためには、組織全員のマネジメントシステムについての深い理解が必要であり、マネジメントシステムとは何か、日々の仕事にどんな影響があるかといったことを同時に検討しなければならない。

 これを実現していくには、人材教育以外に道はない。ミドルマネジメントの人材育成はもちろんだが、具体的な日々の活動をコントロールするローワーマネジメントを担う全社員にマネジメントの基本教育をしなければ、マネジメントOSは構築できない。そして、その人材教育は経営者の仕事にほかならないのである。教育サービスベンダーを活用するにしてもOJTで実施するにしても、経営者が主導して行うべき課題である。マネジメントにかかわる人材教育を実施してしっかりとした土壌を作らなければ、その上にいくらマネジメントシステムを構築しようと柱を立てても、家は建たないことを認識すべきである。

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