証券取引所と投資銀行が競合する2015年――生き残る投資銀行の戦略は?

ベリングポイントが、2015年における金融サービス市場の構図に関する予想を示す調査結果を明らかにした。それによると、将来的に証券会社や投資銀行が、証券取引所と直接的に競合関係になっていく。

» 2006年07月05日 17時45分 公開
[怒賀新也,ITmedia]

 ビジネスコンサルティング大手のベリングポイントが、2015年における金融サービス市場の構図に関する予想を示す調査結果を明らかにした。それによると、将来的に証券会社や投資銀行が、証券取引所と直接的に競合するようになる。

 米BearingPointの金融サービス担当マネージングディレクターを務めるピーター・A・ホロヴィッツ氏は「(銀行の証券引受業務と株式の売買を禁止する)グラス・スティーガル法の撤廃により、過去20年間で独立型の投資銀行の数は減少した。次の10年間に起きる変化として予想されるのは、証券取引所や保険会社の投資銀行業への参入だ」と切り出した。

米BearingPointの金融サービス担当マネージングディレクターを務めるピーター・A・ホロヴィッツ氏

 証券取引所が金融サービスの提供に本腰を入れると予想する背景に、証券取引所の株式上場の進展がある。ニューヨーク証券取引所とユーロネクストの合併に代表されるように、株式公開企業として証券取引所が業務を拡大している状況。その時に、これまで証券取引所を「プラットフォーム」として株式公開企業の主幹事を務めるなどの金融サービスを提供してきた証券会社や投資銀行の業務領域にまで、証券取引所が手を伸ばす可能性が高くなってくるという。

 「米国のGoogleの上場が典型例だ。Googleのように知名度のある株式の発行体は、必ずしも証券会社のサポートを必要とせず、直接公募することも可能だ」(ホロヴィッツ氏)

 こうした方向性がある中で、今後成功するのはどのような金融サービス企業なのか。

 まず、成功できない企業を先に指摘すると、「同一のビジネス領域を対象に、証券取引所や保険会社をはじめとした新興勢力も市場参入し、ほぼ同じ戦略を追求することになるため、高コストの企業は淘汰される」という。そのため、成功するためには、情報システム基盤の強化による戦略計画、財務報告、取引ライフサイクル、監視のリアルタイム化などの取り組みが不可欠になってくるという。

 また、米国では、全米市場システム規制(Reg NMS)などの規制を遵守するなどの要件が存在しており、コンプライアンス基盤の構築も鍵になるとしている。

 2015年の金融サービス企業が、そのような新たな体制を支える枠組みを構築する上で、ベリングポイントが重視しているのは、「EDM(Enterprise Data Management)」と「SOA(サービス指向アーキテクチャー)」だ。

 一般に、金融サービス企業は、グローバル化や業務の多角化によって、組織、業務プロセス、テクノロジー、アプリケーションが分断される傾向にある。また、規制の強化や顧客の増加といった外部環境も背景に、より的確にビジネスをサポートするためのデータの正確性を高めることが求められるという。そのための取り組みがEDMだ。

 EDMは、セキュリティやアクセス制限、監査、ワークフローといった基盤を強化するとともに、ビジネスルールエンジンも導入することによって、企業内部および外部データの取得、変換、検証、例外処理などをより適切に行う取り組みだ。EDMを導入することによって、規制対応、新商品の提供、取引ボリューム増、顧客サービスの向上を目指したデータ活用が可能になるとしている。

 さらに、EDMによってデータ基盤を整備した上で、資産に応じた取引処理や損益計算サービス、統合リスク管理といった業務要件を含めたアプリケーションを再構築するための鍵となる技術がSOAだ。SOAを用いることで、業務プロセスの重複を避けたシステムの構築が可能になるからだ。また、複数の商品を横断した形で数字を集計し、レポートするといった対応も柔軟に行うことができるとしている。

 金融サービスを実施する上での垣根が撤廃され、自由化、国際化のさらなる進展が予想される中で、今後の投資銀行や証券取引所の動きに注目が集まる。

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