「ものづくり大国日本」を維持するための組み込みソフトウェア開発の技法商品企画の最前線(2/3 ページ)

» 2006年09月07日 08時00分 公開
[姜光明,ITmedia]

組み込みソフトウェア業界の構造

 多階層による開発構造自体が直接、組み込みソフトウェアの品質に問題をもたらすわけではないにせよ、多階層開発構造により、管理する対象会社が多くの関連会社にわたるため、管理が煩雑となり、結果的には、組み込みソフトウェアの品質低下、開発の手戻り、開発費の高騰、生産性の低下、納期の遅延といった諸問題の解決を複雑化していく傾向があることが垣間見える。

2. 企業を取巻く環境の変化

 バブル経済の崩壊とその後の「失われた10年」が過ぎ、日本の景気は徐々に回復の兆しが見えてきた。その間、各企業はグローバル化の波にさらされ、企業統合、業界再編、デフレの波にのまれ、雇用や設備のリストラを行いながら収益改善に向けた全社的な取り組みを行ってきた。

 特に開発現場では、競争力を回復すために、開発コストの削減にとどまらず、製品価値を創出するためのプロセス改善の実施に伴う工夫を行っている。とりわけその中でも、家電メーカー、通信メーカー、情報機器メーカーなどでは、インターネットを活用した関連製品を次々と開発することで他社との差別化を図っている。

組み込みソフトウェア開発規模の増大

組み込みソフトウェア開発規模の増大

 特に、具体的な例として、インターネットの特性を利用して提供されるサービスやアプリケーション(WWWやFTP、電子メールなどの基本的なものからクレジット決済、物流搬送システム、電子マネー等の高度なものまで)では、そのほとんどがPCで自宅に居ながら、海外の企業情報、製品情報を瞬時に取得することが可能となった。一般消費者は、日本国内および海外のあらゆる製品が国境を越えて手軽に購入できるようになった。

 そんな影響を受けてか、各企業でも、インターネットを活用した製品出荷により、顧客の取り込みに躍起となっている。現在、国内最先端の技術を駆使して開発された各製品は、世界的に繰り広げられる市場シェアの獲得に向けて、かろうじてその優位性を維持しているにすぎない状況である。

3.海外における開発改善の取り組みの変化

 一方、国際的な、技術トレンドと技術の標準化に対する動向について見てみると、国際標準化機構によるISO9000シリーズの発行を皮切りに、それらソフトウェア開発へ適用することで、ソフトウェア品質管理の考え方に大きな影響を与えている。昨今日本国内での、組み込みソフトウェアの開発を行っている企業では、こぞって、ISOシリーズまたは、CMMIをベースとした開発プロセスを全社または部分標準として採用するケースが見受けられる。

 1991年に公表されたCMMは、米国国防総省からの依頼によって設立されたSEI(Software Engineering Institute)により開発されたものである。完成後、米国国防関連のシステムで導入され、ソフトウェアの品質や生産性の向上で十分な効果が認められた。その結果、ほかの連邦政府機関や州政府、政府調達に参加する企業、さらには民間企業へと、その利用が拡大された。

 現在、おおよそ全世界40 カ国以上で約7000社以上に上る、企業が参加し評価活動を実施している。アジア諸国においても、CMMIを利用して、国内のソフトウェア産業の育成を図るのと同時に、オフショア開発における欧米市場への進出を有利に進める企業も出現している。中でも、ソフトウェア産業の育成を国家的な戦略と位置付けているインドでは、国策として積極的な取り組み行っている。またお隣の国の韓国(POSDATA、SDS、LG等)・中国においても、有力ソフトウェア開発企業でCMMIを導入・評価する企業が急速に増えている。

4. 開発支援技術の変化

 インターネットの普及と全世界での分散開発環境を短期間に安価に構築することが、きっかけで、ここ数年の間で急激に広がりつつあるオープン技術(*注1)の活用が現在、最も注目を浴びている。近年、組み込みソフトウェア開発の環境は、PCなどによるスタンドアロン形式による小規模な開発形態であったが、現在では、クライアント・サーバ形式またはWeb形式による本格的な大規模分散開発環境で、ソフトウェア開発を行うことが常態化されつつある。

 従来は、ハードウェアおよびソフトウェアの性能制約により旧態依然の開発環境(PCによるスタンドアロン形式)で組み込みソフトウェアを開発することを余儀なくされる傾向にあった。

 しかし、昨今では、組み込みソフトウェア製品の高機能化・高性能化に伴い、製品開発の中心がハードウェア開発からソフトウェア開発へと、開発費規模がシフトする過程で、開発プロセス全般を通じて、効率化を実現し、均質化された品質を確保することが緊急課題としてクローズアップされていることも要因の1つである。

 多くの企業で開発費を抑制する事情を抱えている。そのため安価で実績のあるオープン・ソースを多様することで、少しでも開発費抑制しようと懸命な努力を続けている。また代表的な組み込みOSベンダーが相次いでオープン・ソース(Linuxなどを含めた、世の中で流通しているオープンソース・ソフトウェア)を利用した開発環境製品を提供し始めているのも大きな要因として挙げられる。

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