2006年、グローバル社会元年のすべて(1/2 ページ)

グローバル化の流れは、アウトーソーシングの分野だけにとどまらないようだ。IBMなどの企業は、インドや中国、ロシアなどの国々で事業所を設立している。

» 2006年11月27日 18時07分 公開
[Stan Gibson,eWEEK]
eWEEK

 国境を超えた取引きは今に始まったことではない。多国籍企業も新しいものではない。だが昨今のグローバル化には、これまでにはない新しさが感じられる。

 国際商取引は文明初期のころから行われていたが、今日のグローバルビジネスの最大の特徴は、分散した場所の間で即座にコミュニケーションが可能であるため、地球の反対側にあるオフィスでも、まるで隣にあるように思えることだ。

 例えば、Hewlett-Packard(HP)は、Procter&Gambleの支払勘定業務を処理するための事業所をインドのバンガロールに設立した。同事業所では、フランスの香水メーカー各社の請求書に対し、英国の銀行口座を通じて決済処理を行うという。

 このような相互関係のネットワークを構成するグローバルな神経系統を可能にしたのは、トーマス・フリードマン氏のベストセラーブック「The World is Flat」(邦題:フラット化する世界)で礼賛されている帯域幅の過剰供給である。

 ドットコムブームのころに過剰建設され、ドットコムバブルが崩壊して使われないままになっていた光ファイバーのパイプラインに、世界中のデータが流れるようになったのだ。

 「ドットコムブーム時代における光ファイバーへの大規模な過剰投資は、今も恩恵をもたらし続けている」とフリードマン氏は記している。

 だが、グローバルファイバーネットワークだけがすべてではない。巨大な人口を抱えた2大国家であるインドと中国が、社会主義経済政策を捨て、市場経済を選択したのだ。

 全般的に見れば、今日の新しいグローバル化は、かつては発展途上国と言われていた国々の経済発展を可能にしている。これは、連邦政府のかつての海外援助政策担当者も想像しなかったような状況である。

 アウトソーシング先としてナンバーワンのインドは現在、成長期の苦しみを経験しているところだ。新参国家からグローバル舞台での有力プレーヤーに脱皮し、「インド2.0」とでも呼ぶべき国家を実現しようと格闘しているのである。

 今年2月にバンガロールで開催されたソフトウェア業界カンファレンス「Nasscom」では、Tata Consultancy Services、Wipro、Infosysといったインドのアウトソーサー各社が、北米のみならずドイツ、英国、欧州およびアジア各国に営業所を開設する計画を明らかにした。

 インドの企業はもはや労働力を半額で提供するだけではなく、世界レベルの研究開発を通じて知的財産を創造するというのがインド2.0である。

 インドにはその自信があるようだ。Nasscomカンファレンスでは、約1000人のIT業界のリーダーが参加したイベントで「将来、インド企業が時価総額で世界一のITプロバイダーになると思うか」という質問に対して、ほぼ全員の参加者が手を挙げた。

 実際、インドのほとんどの業界リーダーは、日本が自動車産業で成し遂げたことをとIT分野で達成し、米国からリーダーシップを奪い取ることが自分たちの使命であると考えている。

 インドが自分たちの弱点をしっかりと認識していることも、彼らの強さの表れだと言える。彼らが抱えている弱点とは、賃金水準の高騰と従業員の転職率の高さである。

 このため彼らは、低賃金と意欲の高い労働力を武器とする中国、さらにはベトナムなどの国々の追い上げに警戒心を抱いている。

 この競争の先頭に立つことを狙うインドのアウトソーサーであるInfosysとTata Consultancy Servicesは、インド企業の中国進出をリードしてきた。一方、Wiproは2006年6月、ベトナムにビジネスプロセスアウトソーシングオフィスを設立した。

 Nasscomカンファレンスでは、多くの外国人を驚かせるような、もう1つの弱点が明らかになった。それは、インドの企業がインドの教育システムに不満を抱いているということである。

 インドの大学や専門学校は毎年何万人もの技術系あるいはコンピュータ専門の卒業生を送り出しているが、インドの企業が採用するのは彼らのごく一部にすぎない。大多数の卒業生は即戦力として使えないからだという。

 インドの企業はカリキュラム改革を提言しており、問題を是正するために企業がお金を寄付するケースもある。

 インドがアウトソーシング先としてナンバーワンの国であるとすれば、中国は文句なしにナンバーツーであり、長期的な潜在的可能性は中国の方が高いとみる向きもある。米連邦準備制度理事会のアラン・グリーンスパン元議長はボストンで行った講演で、「新しいグローバルエコノミーにおける最大の勢力は中国である」と述べた。

 インドのハイデラバードに大規模な開発オフィスを開設したMicrosoftも中国に本格的に進出しており、北京海淀区にMSR(Microsoftリサーチ)オフィスを設立した。

 Microsoftはこのオフィスで、同社にとって重要な戦略である検索技術の開発を推進する考えだ。

 米国のIT企業各社も、開発業務で次第に中国のパートナーを利用するようになってきた。その際には、知的財産の保護に特に注意しなければならないと各社は感じているようだ。中国の法体系においては、知的財産というのは比較的新しい概念であるからだ。

 中国の瀋陽を本拠とするソフトウェアデベロッパー、Neusoft Groupのウォルター・ファン副社長兼CTO(最高技術責任者)は、「この問題は非常に誇張されているのではないか。わたしはそういった問題を耳にしたことがないが、そのような認識が存在するのは事実だ」と話している。

 中国プロバイダーへのアウトソーシングで成功している米国企業は、小規模なプロジェクトからスタートし、徐々に信頼関係を構築してきた。

 一方、中国政府は自国のIT産業の発展を促進するために、東北沿岸都市の大連に見られるようなソフトウェアパークを各地に建設したり、海外在住の中国人をIT起業家として呼び戻すための「海亀政策」を策定するなど、さまざまな施策を講じている。

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