「スーパースリムプロジェクター XJ-S46/XJ-S41」は、2500ルーメンという高輝度と、薄く軽いモバイル性を両立したほか、USBメモリなどによるスタンドアロンのプレゼンが可能だ。企画・開発を担当したカシオの羽村技術センターにある開発本部 PJ部では、その開発にあたり、ユーザーのために様々な思いを込めたという。
今や、ビジネスシーンに欠かせない機器の一つにまでなったプロジェクター。人材や組織構成が流動的になってきてミーティングの回数が増え、ペーパーレス化や情報漏えい対策のため会議ごとの資料のプリントアウトも敬遠されるようになってきたこともあって、プロジェクターの出番は増える一方だ。
しかし、かつてのプロジェクターは大きく重く、会議室に据え置いて使うのが一般的だった。出先でプレゼンできるようにと小型軽量モデルも作られていたが、そのほとんどは光量を犠牲に小型化したもので、機能の面でも妥協せざるを得なかった。
こうした状況にあってカシオは、明るい部屋でのプレゼンを可能にする高輝度と、ノートPCとともに持ち歩ける薄型軽量フォルムを両立させることに成功した。また、USBホスト機能などを搭載し、多様なシーンに対応できる使い勝手も兼ね備えたのが「スーパースリムプロジェクター」だ。2006年8月に最初のモデル「XJ-S30」が、そして時をおかずに「XJ-S35」が発売された。今回は改良を加えた第二世代として「XJ-S46/XJ-S41」が2007年6月下旬より順次発売となる。「XJ-S46/XJ-S41」は、2500ルーメンという高輝度で、世界最薄・最小(2007年4月25日現在。2500ルーメン以上のプロジェクターとして。カシオ計算機調べ)を実現している。
開発を主導したのは、カシオ羽村技術センター、開発本部 PJ部の3名のエンジニア。企画室の出口幸司室長、第1開発室の小川昌宏室長、第2開発室の西浦房夫室長だ。なお、第1開発室は光学系、第2開発室は電子系を主に担当しているという。
XJ-S46/XJ-S41の最大の特徴は、2500ルーメンという高輝度ながらクラス最薄・最小の筐体を実現したことにあると言える。突起部を除き幅270mm ×奥行き199mm×厚さ43mm(最薄部32mm)で、ほぼB5ファイルサイズのモバイルノートPCに相当するサイズだ。
――そもそも、なぜここまで薄さを突き詰めようとしたのでしょうか?
出口 我々は、このスーパースリムプロジェクターを、モバイルでのプレゼンテーションという新しい使い方を提案するものとして位置付けています。より携帯しやすくすることで、出先の商談などでも手軽に使えるなど、利用シーンを広げるというコンセプトで開発しました。
特に、輝度と薄さを両立することが最重要課題となりました。実際、携帯性を重視した小さなプロジェクターは他にもありますが、その多くは1000ルーメン程度と輝度の面で妥協しています。また、これまでの高輝度プロジェクターの多くは厚みがあって、ノートPCと一緒に持ち歩こうとすれば一つの鞄に収まらないのが常でした。ですから、寸法の中でも薄さが最も重要な要素となります。
西浦 輝度は、前モデル「XJ-S35/XJ-S30」で2000ルーメンを基準としました。明るい照明の下でもプレゼンテーションできる輝度にこだわったのです。
――薄さと輝度を両立させることができたのは、やはり光学系の工夫が最大のポイントだと思います。どのような技術が盛り込まれているのでしょう。
小川 まず、レンズの駆動系を扁平にしました。普通は鏡筒が円筒形のカムとなっており、それを回転させてレンズを前後に動かします。今回は、左右のリードスクリューを用いて駆動する構造となっています。
それから、投影レンズも新しいタイプを開発し、最大径を小さく抑えています。2倍ズームでありながらレンズ径26mmとし、従来モデル(XJ-360)の41mmから大幅なスリム化です。ちなみに、2倍ズームという点も、より幅広い環境で使えるようにするために譲れないポイントでしたが、ズームレンズではスクリーン寄りの前玉が大きくなりがちです。それをできるだけ抑えるため、プロジェクターとしては例が少ない非球面レンズを採用しています。
西浦 高輝度を実現するには光源ユニットも重要です。ランプのリフレクターは上下をカットした扁平な形になっていますが、新たに開発した円環レンズを付け加えることによって、効率よく光束をまとめています。
小川 苦労したのは、なんといっても冷却機構ですね。XJ-360では軸流ファンを3つ使っていましたが、薄型化するには使えません。そこで、たった1つのシロッコファンで全体を冷却する構造を考えました。筐体内は狭いので高静圧タイプのファンを採用していますが、流路にある多くのパーツは配置に微妙な個体差があるので、できるだけ安定して冷やせるよう調整するのが大変でしたね。副作用として、ファンを筐体内の中央付近に置いたため、音も静かになりました。
出口 流路設計の上では、レンズに隣接するランプの熱が悪影響を及ぼさないようにするなど、いろいろな工夫が必要でした。ファン1つだけで本当に冷やせるのか、という不安もあったほどです。冷却が行き届いているため、電源オフ後1分間はファンが回り続けていますが、すぐにコードを抜いても問題ありません。あの待ち時間が場を白けさせてしまうこともありましたが、これなら営業活動などにも使いやすいと思いますよ。
西浦 起動時間もわずか15秒です。スタートアップスクリーンを表示する機種が多いかと思いますが、我々は「表示しない」をデフォルト設定としています。
――XJ-S46/XJ-S41では、こうした設計を受け継ぎ、さらにワンランク明るい2500ルーメンを実現したというわけですね。
出口 明るさをアップするためにランプのワット数を増やせば発熱も増えますから、輝度向上も容易ではありませんでした。
西浦 ランプのワッテージUPだけでなく、色を時分割するカラーホイールの最適化なども含め、いろいろな工夫をして実現しました。同時に、画質や色合いについても調整を加え、従来よりさらに向上させています。
XJ-S46は、XJ-S35から受け継いだUSBホスト機能を備えている。例えば、USBメモリ内の画像を使ってスタンドアロンのプレゼンテーションが可能だ。USB接続のオプションとしては、書画カメラ「マルチプロジェクションカメラ YC-430」や無線LANアダプタなども提供されており、多彩なプレゼンテーションが可能となっている。
――USBホスト機能を使ったPCレスのプレゼンテーションができるという点も、なかなかユニークですよね。
出口 常にPCを接続して使うだけがプロジェクターの使い方ではないと思うのです。特に、モバイル用途を考えた場合、場所を変えて同じ内容のプレゼンを繰り返し行うような場合、USBメモリだけ持っていけば済むので、荷物を大幅に減らすことができます。USBに限らず、USBマスストレージクラス対応の様々な機器を接続できますから、デジカメなどに記録されたデータを表示でき、いろいろな活用が可能です。
西浦 グラフ関数電卓を接続して、計算内容を見せることもできるようになっています。この機能は、実際に工業高校の授業などで使われています。
出口 いろいろなモノが接続できれば使い方が広がって面白いと考え、このような機能を搭載しました。
西浦 USBホスト機能の中身は、ほとんどPDAのようなものです。YC-430を接続した場合、XJ-S46側からカメラをコントロールし、画像の自動補正や切り出しなどの制御を行っています。ちなみにYC-430は、PCに接続すればスキャナのように画像取り込みを行うことも可能です。
――USBホスト機能に関連して言えば、XJ-S46では、新たにスピーカーも加えられていますよね。
西浦 単体で音を出せるようにするため、いろいろと工夫しました。ただでさえギリギリまで詰め込んでいたところにスピーカーやLSIを追加したので、例えば端子も変更しなくてはなりませんでした。以前はビデオ入力端子にピンジャックを使っていましたが、今回は3.5mmのミニジャックとしてスペースを稼いでいるのです。
また、せっかくスピーカーを入れても音が割れてしまっては意味がないので、なんとかしてノイズを低減させようと苦労しました。ちなみに、本体内のスピーカーは出力1Wですが、もっと大きな音を出したい場合は、ミニジャックが出力モードに切り替わるので、そこにアンプなど外部機器を接続できるようになっています。
出口 もともと、初代のXJ-S35からスピーカー内蔵を検討していましたが、薄さを最優先としたため搭載を断念した経緯があるのです。どうしても音を出したい場合には、オプションの「ユアプレゼンター YP-100」を接続して使ってもらうつもりでした。しかし、XJ-S35/XJ-S30のユーザーの中にはmpeg4に変換したビデオをUSBメモリに入れて出先拠点に持っていって講習を行うなど、単体での音声出力に対するニーズが強いと判明したため、今回はなんとか内蔵しようと考えたのです。
――無線LANでPCと接続し、ワイヤレスのプレゼンができるという点も便利ですよね。これでプロジェクターのケーブルが一つ減らせます。残るは電源ケーブルだけですね。
出口 さすがに、電源だけはワイヤレス化が難しいでしょうけどね(笑)。しかし、まだまだ重たい、大きいという声が聞かれますので、大きさについては今後も改良していくつもりです。使い勝手の面でも、カバンから出してすぐ使えるようにしていきたいと考えています。我々は、プロジェクター市場においては最後発に近い立場ですから、選んでもらうためには他社と同じような製品を出していては駄目なのです。簡単には他社が真似できないものを、そしてお客様にびっくりしていただけるような製品を、今後も作っていこうと考えています。
西浦 XJ-S35/XJ-S30を出したときは、かなり驚きの声が聞かれました。そういう声を、もっと聞きたいですね。薄型軽量はもちろん、機能面でもUSB関連の強化など、いろいろなことが考えられますので、今後も発展させていくつもりです。
小川 カシオの社是は「創造貢献」、そして「毎日改善」です。これからも、さらに技術を突き詰めていきます。
出口 XJ-Sシリーズの次の世代も、すでに検討が始まっています。具体化するのはしばらく先になるでしょうけど、モバイル性を意識し、よりユーザーの用途の幅を広げるような製品にしたいと考えています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:カシオ計算機株式会社
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2007年6月24日