悲鳴を上げる地球を救う学生たちの戦いImagine Cup 2008 Report

いよいよ開幕したImagine Cup 2008。各部門で熱い戦いが繰り広げられている。日本代表にも期待が掛かる。

» 2008年07月05日 20時47分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 Microsoftが全世界の学生を対象に開催している技術コンテスト「Imagine Cup」。フランスのパリ全体を見下ろす格好でそびえるエッフェル塔のすぐそばに位置するNovotel HotelsがImagine Cup 2008の会場となる。フランスが6カ月間にわたってEUの議長国となるのを記念し、EUの旗にちなんで青色にライトアップされているエッフェル塔が学生を祝福しているかのような錯覚を覚える。

 7月4日から本格的に始まったImagine Cup 2008。今回のテーマは「テクノロジーの活用による環境保護の実現」だ。今回の大会には8チームが参加している中国をはじめ、フランス(6チーム)、アメリカ、韓国、ウクライナ、ブラジル(各4チーム)など強豪国の姿が浮き彫りになりつつある。日本からは2チーム5名が参加している。


 前日にはパリ市役所でウェルカムパーティーが開催された。荘厳な雰囲気を持つパリ市役所で、世界中から厳しい戦いを勝ち抜いてきた61カ国から370人の学生が互いに交流を深めるとともに、明日からの戦いの健闘を誓う光景があちこちで見られた。

61チームによる激戦、ソフトウェアデザイン部門

 明けて7月4日、Novotel Hotelsには、まもなく始まる本戦に向けて静かに集中力を高める学生たちの姿があちこちで見られた。今回のImagine Cupは全9部門が用意されているが、その中で最も競争が激しいのがソフトウェアデザイン部門。61チームが次のラウンドへの出場権を賭けて20分間のプレゼンテーションを行い、第2ラウンドに進めるのは12チームという狭き門だ。

 昨年まで、ソフトウェアデザイン部門の第1ラウンドは、幾つかの国ごとにグルーピングされ、各グループの上位2チームが次のラウンドに進むというスタイルだった。しかし今年は、参加国の増加も影響してか、従来の方式から、すべてのチームが2日間で2回プレゼンテーションを行い、その結果を基に12チームが選ばれるというスタイルに変更された。幾つかのチームを見る限り、「消費電力の削減」「二酸化炭素の削減」「地球温暖化対策」などに大別できるようだった。さらに細かく見ていけば、そうした問題にどう取り組むのかを、昨今のトレンドであるソーシャルネットワークなどを利用しながら実装を試みているものが多かった。

 問題を先鋭化したソリューションも存在する。エジプト代表が好例だが、彼らは地雷除去に着目した。エジプト国内には中東戦争当時の地雷が現在も多数残されており、エジプト国内に存在する地雷だけで、世界の3分の1を占めるとまでいわれる。彼らにとって切実であるこの問題に対し、地雷探知のための地中レーダー(Ground Penetrating Radar:GPR)とGPSを組み合わせ、地図上にマッピングするソリューションを提案していた。GPRの精度を高めるために、2Dと3Dを併用した画像解析を行うというソリューションだが、探知およびそのマッピングまでのソリューションとなっており、最終的な目的である地雷除去にまで話が及んでいなかったのが惜しいように感じた。

 Imagine Cup 2008で特徴的なのは、多くのチームが最新の技術を盛り込んできていることだ。Virtual Earth、Windows LiveなどがWPFなどを活用することで高度に統合されている。しかし、長年Imagine Cupを見てみた記者からすると、確かに高度に統合されているとはいえ、Webサービスとの連携を図る上で、既存のWebサービスにアイデアが引っ張られてしまっており、イノベーションという観点からすると少々新鮮味に欠ける印象も受けた。こうした傾向は昨年のImagine Cupでも多少見受けられたし、昨年のソフトウェアデザイン部門を制したのがタイであったこともあながち無関係ではないだろう。今年もこうした発展途上国が斬新な視点のソリューションを提供するのかが期待される。


 興味深かったのは、消費電力を抑えるソリューションという点で、タイと日本のソリューションは似通っていたことだ。さらに、幾つかのチームも同様のソリューションを披露していた。タイは昨年同様、WPFを熟知したアプリケーションを作成し、その秀麗なアプリケーションで審査員から賛辞を贈られていた。しかし惜しいかな、彼らは英語という壁に苦しんでおり、審査員の質問に的確に答えられず、もどかしそうな表情を浮かべていたのが印象的だった。



流ちょうな英語で堂々としたプレゼンを行う前山晋哉氏

 英語の壁という点では日本代表チームである「NISLAB」(ニスラボ:松下知明氏、中島伸詞氏、加藤宏樹氏、前山晋哉氏)も同様だが、Student Day後に諸般の事情でチームを抜けることになった清水氏の代わりにチームに合流した前山氏がこの問題を解決するキーとなっていた。プレゼンテーションのスキルを磨きたいという前山氏は数年間米国で暮らしていた経験もあり、ネイティブ並みに英語をしゃべることができるが、そんな彼がプレゼンテーションを担当することで、ほかのチームと比べても遜色(そんしょく)ないプレゼンテーションを行う体制を整えていた。

 4月に名古屋で開催された「Student Day」で日本代表を勝ち取ったNISLABは、過去の日本代表と同様、Imagine Cupに向けて大きく軌道修正を図ってきた。Student Dayの際に発表された彼らのグローバル消費電力削減システムソリューション「ECOGRID」は、各家庭の家電操作を直接的に行おうとするものだったが、コントロールボックスを間に挟んで間接的に操作するものに変わっていた。また、PLCに加えて、赤外線(IR)で家電をコントロール、Webカメラを人感センサーとして使用するなど汎用的なものを組み合わせ、すぐにでも使えるソリューションとして磨きをかけていた。



 フランス出発前に国内で壮行会を行った際、報道陣にプレゼンテーションを披露したが、その際はシステムのデモも問題なく行えていた。しかしフランスの地で彼らに襲いかかったのは、デモがうまく動かないというトラブルだった。日本から持ち込んだ多くの電化機器が、美しい形でコントロールされるはずが、Webカメラに人影がなくなっても、電気が切れないというアクシデントに襲われた。幸いデモビデオも用意していたため最悪の事態は回避できたが、第1ラウンドの2回のプレゼンテーション、そのどちらもデモビデオに頼らざるを得なかったのは残念なところだ。

 とはいえ、審査員はそうした表層的な部分にとらわれることなく、本質を見据えた質問を投げかけていたことを考えれば、さほど問題ではなかったのかもしれない。こうしたシステムが老若男女を問わず簡単に使えるのか、などの質問にも、協力し合ってそつなく答えるなどしていた。この模様は動画にてお届けする予定だ。

 すべてを出し切ったNISLAB。その結果は数時間後に明らかになる。

打鍵の音だけが響くアルゴリズム部門


呼吸をするのもためらわれるほど緊迫した空気の中、高橋氏の挑戦は続く。英語が話せなくともコードで会話する好例ではないだろうか。ちなみに手前がRoman氏

 ソフトウェアデザイン部門の会場から少し離れた一室では、アルゴリズム部門もその戦いの幕を開けようとしていた。簡単なパーティションで区切られてはいるものの、隣の息づかいも聞こえるほど近い距離で24時間という長丁場を戦うことになる。

 今回のアルゴリズム部門で実力的には随一と思われるのが、昨年のアルゴリズム部門で2位だったウクライナのRoman Koshlyak氏。同氏は腕に自信がある人間が集うTopCoderでもRedcoderとして活躍しており、その実力は折り紙付きだ。Roman氏のほかにも、昨年のアルゴリズム部門で3位、4位に入賞した学生が今年も参戦しており、アルゴリズム部門はImagine Cup全部門でも屈指のレベルの高さを誇る。


 「作業効率がまったく違うので」と自前の106キーボード(RealForce)を持ち込んだ高橋氏。慣れない英語にも苦労する一方、開始前にキーボードがうまく認識されていなかった様子で、少し不安げな表情を浮かべていたが、無事24時間の戦いに静かにその身を投じていった。今年は例年になく問題の難易度も高いとうわさされている本戦での彼の活躍を期待したい。

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