オープンソース技術を活用した「Talking Book」は、iPodのような5ドルのデバイス。貧しい人々の読み書き学習支援を目指す。
クリフ・シュミット氏には使命がある――非識字者をなくす手助けをするという使命が。この戦いで同氏が選んだ武器は、5ドルのiPodのようなデバイスだ。このデバイスは、生活環境が悪く、電気がほとんどあるいはまったく来ない場所でインターネットの代わりになるという。
シュミット氏は、非営利団体Literacy Bridgeの会長だ。同団体の使命は、「教育、医療、経済発展、民主主義、人権を進歩させる効果的な手段として、知識の共有と読み書き学習の道具を子供と大人に提供すること」だとWebサイトのミッションステートメントには記されている。
Literacy Bridgeの中核となるツールは「Talking Book」というデバイスだ。見た目は凝ったリモコンか何かのように見える。同団体によると、Talking Bookは「地域で録音した既存のあるいは新たに作った本の読み上げ音声を利用できる双方向的な多用途ツールを子供と大人に与える。情報システムとして多数の人々に安価に情報を配信し、どの情報をいつ欲しいかを個人が決められるようになる」という。
オープンソースコミュニティーで大企業のオープンソース戦略を支援するコンサルタントを務めてきたシュミット氏は、教育におけるオープンソース技術の活用について語り、Talking Book用のソフトウェアを探すためにOSCON(O'Reilly Open Source Convention)に参加した。
「このアイデアは1年ほど前に思いつき、そこから進化した」とシュミット氏は言う。「わたしはOLPC(One Laptop Per Child)に協力し、ノートPCを使った識字向上支援の方法を考えていた。ガーナに行ったときにノートPCを何台か持って行ったが、価格の問題で、ノートPCは解決策にならないと気づいた。ノートPCは特定の問題の解決策であり、長期的には開発途上国にとって戦略的に有効な手段となり得る。だが個人が生活の質を高められるようなデバイスを買えるようにするために、200ドルや100ドルのノートPCの代わりに、5ドルのデバイスを作れるだろうかと思った」
そこでシュミット氏はTalking Bookに着手した。準備ができた暁には、ガーナ北西部が最初にこのデバイスを受け取る地域になる。同氏は、このデバイスを今のやり方で作ると10ドル以上掛かると話しているが、広範囲に提供できるようになるころには、もっと効率的に製造でき、5ドルで売れるだろうと確信している。このデバイスのターゲットとなる地域では、人々は1日1ドル足らずで暮らしているため、できるだけ手ごろな価格にすることを目指すと同氏は言う。
これまで「このデバイスの機械工学と電気工学の部分に取り組んできたが、ソフトはまだやっていない。だからOSCONに来た」(シュミット氏)
同氏によると、開発チームはTalking Bookの機能を実証するためにソフトウェアのレイヤーを構築したが、「OSを作らなければならない。設計はある。オープンソースの世界こそわれわれにふさわしい場所だと思う」。
実際、オープンソースソフトはLiteracy Bridgeの「サステナビリティ(持続可能性)スツール」を支える3本の脚の1つにかかわるという。3本の脚とは、環境のサステナビリティ、ビジネスのサステナビリティ、エンジニアリングのサステナビリティだと同氏は説明する。
「われわれのコードベースが、われわれを超えたところでも生きることを望んでいる。だからガーナの工業学校と協力しており、ほかの開発途上国の工業学校とも協力するつもりだ」。それによってこのプロジェクトとデバイスを理解するエンジニアが生まれるだろうと同氏は言う。
さらに、「Talking Book向けのソフトを開発できる組み込みCプログラマーを見つけたい」と同氏は付け加えた。
ビジネスとエンジニアリングのサステナビリティは自明だが、環境のサステナビリティについて、同氏は次のように語っている。
われわれは地域で販売している電池で動くTalking Bookを提供するが、このデバイス向けの充電式バッテリープログラムも開発している。小規模企業や地方自治体は、マイクロクレジットローンでソーラーパネルを購入し、バッテリーの充電に利用できる。バッテリーは使い捨ての電池を購入するよりも安い0.25ドル程度でTalking Bookユーザーに貸し出される。これでユーザーを徐々に、使い捨ての電池よりも環境的に持続可能な選択肢に移行させる。
このアプローチを通して、われわれはなじみがあって手に入りやすい既存の電力源を使ってシステムを導入し、その後でユーザーになじみが薄いが環境にいいエネルギーに移行するよう促す。電力網が使えないときは、キオスクに太陽エネルギーを供給する。Talking Bookは、どこかのパーツが壊れたときに全部捨てるのではなく、地域で組み立てや部品交換ができるように設計されている。壊れた部品や端末を捨てるのではなく、キオスクやサービスセンター、販売店に返すよう奨励する方法も模索している。
Talking Bookは近く開催されるLinuxWorld Conference & ExpoのLinux Garageエリアで展示される。「Linux Garageは、偉業を成したすべてのLinux開発者の改造魂に敬意を払った展示フロアのテーマエリア」とLinuxWorldのサイトでは説明されている。Talking Bookは必ずしもLinuxをコアOSにするとは限らないが、同デバイスと連動するキオスクにはLinuxを採用するとシュミット氏は言う。
Talking Bookを提供する村の住人向けに「地域の図書館として機能するキオスクを構築することも計画している」と同氏。「Linuxで構築するのは理にかなっている。われわれは最も安価なハードを求めており、ソフトのライセンスは求めていないからだ」
さらに、シュミット氏の組織が計画しているオープンソースプロジェクトの1つに、Talking Book向けコンテンツを作成するWindows版ツールがある。
Literacy BridgeのWebサイトによると、Talking Bookには以下の機能が搭載される。
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