Webメディア6人の編集長がIT業界の将来を議論情報システムは「所有」から「利用」へ(3/9 ページ)

» 2008年10月08日 08時00分 公開
[ITmedia]

SLAに対するコスト次第ではアウトソーシングも現実解

冨田氏 クラウド事業を始めるシステムインテグレーターが登場する、という話がありました。この場合、事業でやるとしたら、サービスの対象は中小規模になると思います。そうすると、間違いなく低価格化の波が来ます。このとき、システムインテグレーターとしてどれだけ低価格化に耐えられるのか、どれだけSLAを確保できるのかが勝負になります。この結果、世界で5社しか生き残っていない、という展開になるのは寂しいですね。

 米Gartnerの方が「2012年までに20%の企業はメール・サーバの運営を外部企業に委託するようになる」と言っていました(関連記事)。しかし、こうした外部委託の流れはコンプライアンス(法令順守)の流れに逆行している、という見方もできます。仮想化の流れもそうですが、どこかで一度は「より戻し」というか、「自社のものは自社のものとしてきっちりまとめましょう」という動きが出てきてもおかしくないと思います。

浅井 エンタープライズ領域を取材していると、大企業でもできることならシステムを所有しない方向に向かっています。にもかかわらず、まずは中小企業からSaaS型の外部委託が進む背景には、大企業が求めるリクワイアメント(要求)に対して、まだ応えられるレベルにはない、という状況があると思います。例えば、クラウド上で独SAPのアプリケーションを動かした場合、インハウス(社内保有)で動かす場合と比べてサービスレベルがどうしても低くなってしまうのではないでしょうか。

 独SAPのCEO(最高経営責任者)であるヘニング・カガーマン氏も、同社のアプリケーションをクラウド上で動作できる「クラウド・レディ」にする作業を進めている、と言っています。その一方で、すでに一部のアプリケーションでは、例えば「SAP CRM On-Demand」というSaaSを提供しています。なぜ大企業向けの基幹アプリケーションをSaaSで提供しないのかというと、大企業が求めるSLAを実現するには、SAPサイドで相当な投資が必要になり、これを顧客に転嫁すると非常に高額になってしまうからです。

 将来は有力なクラウド・プレーヤーが現れ、費用と効果がうまくバランスしていく気がします。2〜3年後で考えると、クラウドがバズワードとして消えるというよりは、もう少しじわじわと時間をかけつつ、生き残っている気がします。おそらくユーザー企業にも、「IT Doesn't Matter」(注:Nicholas G. Carrが書いた著名な論文のタイトル)ではありませんが、「サービスとして調達すればいい」という考えがじわじわと来ている気がします。

林氏 持つリスクと持たないリスクについては、どうでしょうか。

浅井 アイティメディアの例を挙げると、すでにメール・システムがSaaSになっています。われわれの仕事の形態からすると、PC上にメール・データがあるのは不適切なので、SaaSを利用することでクリアしています。

 「持つ/持たない」という問題は、「構築する/利用する」の選択です。インハウスでやると、どうしても構築が必要になります。そこで新しい価値観として、賢く使うことが勝ちで、「コードを書いてしまったら負け」みたいに、だんだんとそうした時代に入っていくような気がします。

三木 クラウド・コンピューティングを1つの産業と考えると、マージンが小さくなるんじゃないかとか、いろいろな話があると思います。一方で、ITの消費スタイルが変わるというように考えれば、たぶん多くの人たちがクラウド的にITの機能をサービスとして提供していく方向に移行していくんじゃないかと思います。

 先ほど、企業の情報システム部門の話をしたのは、まさしくITの消費スタイルの変化ということなのです。情報システム部門は、必ずしも産業という形には属さないかも知れませんが、ユーザー部門を顧客と考えればサービス提供者です。こうした形態に移行せざるを得ない企業も増えていくんじゃないかと思います。

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