林氏 クラウドについて、われわれメディアとのかかわりを含めて、どう考えますか。
大野晋一氏(ZDNet Japan編集長) 今回のテーマとしていただいた、クラウド、携帯、仮想化、ブログ、SNSは、どれも3つの特徴を備えています。1つは「プレーヤの複雑化」です。誰がそこに参加するのかということが、多様化しています。もう1つは「バリューチェーンの複雑化」です。誰が誰にバリューを与えて誰がどういう形でリターンを返すのか、という関係が1対1ではなくなってきています。最後の1つは「データが膨大になること」です。
つまり、クラウド時代に競争力を持てるプレーヤは、クラウドにおける自社の役割をきっちりと定義できる者であり、自社の規模やカバレッジに合ったバリューチェーンを最適化して持てる者であり、膨大に蓄積されたデータを生かせる者、ということです。これらを満たした会社が、競争力を持つようになると思います。
われわれネット・メディアの立場で考えると、プレーヤの複雑化はネット・メディアという、広告収入に依存したメディアが登場した時点で、すでに起こっています。バリューチェーンという意味でも同じです。読者から直接対価をいただくのではなく、読者がベンダーに対価を与え、ベンダーがわれわれに対価を与えています。そして、この対価の与え方も多様化しています。
われわれメディアにすでに起こっていながら、大きな課題になっているのは「データの膨大化」です。クラウドを膨大なデータを生かすための場として利用できれば、今よりも高い価値を提供し、大きな利益を生み出すことができるかも知れません。CNETやZDNetの立場でいうと、せっかく何万本ものコンテンツがあるのに、そのうちの一部しか価値提供や収益に結び付いていません。この状況が、クラウドの中にコンテンツを放り込むことによって変えられるかもしれないと考えています。Amazon.comをはじめとするクラウドの提供者は、膨大な商品リストをロング・テールで生かす技術を持っています。われわれが、それを使うのです。
別井貴志氏(CNET Japan編集長) エンタープライズの世界に、米Googleとか、いままでとは異なるプレーヤが出てくることは、いろいろな意味で良いことだと思います。
ただし、「クラウド」と言った瞬間に、定義があいまいになります。わたしの中で「クラウドはバズワードである」と認識している部分があるのです。サーバ・ベンダーのシステム商材が売れなくなっているので、あの手この手と品を変えて作り上げた世界がクラウドであり、システムを売るためのキーワードとして利用しようという戦略が、半分くらいは入っている言葉だと思います。
「これこそがクラウド・コンピューティングの姿だ」という上手な例が、まだないですね。過渡期ということなのでしょうが、ゴールについてさまざまな人がさまざまなことを言い始めているものの、おのおのの企業がおのおのの戦略について語っているだけです。このため、定義があいまいになっていると思います。クラウドという言葉自体も、変わっていくかも知れませんね。
林氏 2年後にクラウド・コンピューティングっていう言葉はなくなっているんでしょうか。
三輪氏 2年ほど前まではバズワードだと言われていたSaaS(Software as a Service)の場合は、Salesforceという具体的なアプリケーションによって認知され、言葉も定着した感がありますね。クラウドも残る気がします。
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