環境意識により変化した社会で、存在感を示すのはIT――富士通 高橋常務理事(後編)日本のCGO(1/2 ページ)

環境意識の高まりによる社会の変革を予測する富士通CGO 高橋氏。そこで存在感を高めるであろうIT産業の視点から、行政に対する要望も指摘する――。

» 2009年07月02日 08時00分 公開
[聞き手:石森将文,ITmedia]

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 経営と環境の戦略は企業において両輪である、と喝破する高橋氏(「高」は、はしご高)。氏は環境意識の高まりが社会システムの変革につながり、重要な役割を果たすのはIT産業であると予測する。

CGOにとって重要なのは「CIOと仲良くすること」

ITmedia 企業のIT部門は、環境部門どころか、総務部門との壁に悩まされているという実態もあります。例えばファシリティを含めたサーバルームの省エネ化を進めたくとも、エアコンの調達や床の上げ下げなどは総務系が握っており、スムーズに連携できないという声を聞くのです。

高橋 そういった問題は確かにあります。ですがわれわれは経験的に、環境対策を進めるには「ポリシー・技術・設備」の“三本柱”が重要であると知っています。環境本部自体、環境ポリシーを作る環境企画統括部と、技術的な観点から社内の開発部隊に提言を行う環境技術統括部、加えて昨年12月からは建設施設統括部を配下に有しています。こういった組織体系は、ほかの企業にも参考になるのではないでしょうか。

 具体的な取り組みとしては、例えば富士通は館林にデータセンターを所有していますが、そこでは実に電力の約60%が、エアコンや照明など“非IT機器”で消費されていました。これを半減させることを、各統括部が連携し進めているところです。

 そして、ここで実績の上がったインフラ建設については、グリーン・インフラ・ソリューションという形で外販につなげています。社内のITファシリティを環境視点で最適化し、コストを減らし、そして実績のあるソリューションをノウハウとしてユーザーに提供するという展開ができています。

グリーン・インフラ・ソリューションのコンセプト グリーン・インフラ・ソリューションのコンセプト

ITmedia 環境部門が軸となり、部門間連携を進める上で、経験からくるアドバイスはありますか。

高橋 CIOと、まず仲良くすることでしょう(笑)。それはさておき、いくらCIOとはいえ、自分が主導して構築したITシステムが業務上いかに効率的かは把握していても、その年間消費電力の推移までは把握していないことが多い。それを見えるようにしてあげる。これが、われわれ環境部門の役割であり、IT系との連携の端緒になります。

 要は、まず連携したい部門との情報交換をいとわないこと。それから「見える化」する。これがすべての始まりです。すると社内のあちこちで、例えば環境視点での部門連携が生じてくるはずです。

 この“良い雰囲気”を維持発展させるため、富士通ではFUJITSU Wayという富士通グループの理念・指針を定めています(注:高橋氏はFUJITSU Way推進本部員でもある)。そしてこの中には、環境についての項目が、かなりのウェイトで含まれています。例えば企業指針として掲げられた、「社会に貢献し地球環境を守ります」などです。

 これは国内外問わず、グループ全体の社員が常に意識すべきものであり、英語と中国語、韓国語に翻訳されて世界中の社員に配布されています。

グリーン・ポリシー・カードは森林認証紙、大豆インク、水なし印刷方式で作成されたもの グリーン・ポリシー・カードは森林認証紙、大豆インク、水なし印刷方式で作成されたもの(画像クリックで拡大)

 このように、個々の社員に対しても「情報交換をいとわない」ことで、皆が環境に対し取り組む自らの会社に誇りを持てるようにすること。これが、日頃の業務において環境というキーワードで仕事ができる雰囲気につながると実感しています。

 なお新しい取り組みとしては、「グリーン・ポリシー・カード」を作成し配布しました。行政では環境省が主導し「1人、1日、1kg CO2削減宣言」という運動を展開していますが、これを富士通という企業に当てはめたものと理解してください。具体的には、会社は基本的に一日8時間であり、それは24時間の3分の1となります。ということは、勤務時間中に300グラム強のCO2排出量削減を達成する必要があるわけです。カードにはそのための方法が、空調使用時間の短縮やペーパーレス化など、4つの例で示されています。

Revenue on Carbonという指標

ITmedia 電力や紙の消費を抑制し、コストを減らせば、企業は最終的に財務指標に反映できる。つまり「売り上げを伸ばす」のと同じ取り組みだという側面もあります。

高橋 そのとおりです。実は従来、われわれのように多様な事業体をグループ内に抱えていると、それぞれの責任者が「ある売り上げに対してどれだけ電力を消費しているか」を把握することすら、ままなりませんでした。

 対策を進めた結果、昨年から、各ビジネスユニット(BU)、ビジネスグループ(BG)と環境本部が連携し、それぞれの売り上げに対する電力コストを可視化できるようになりました。「おい、お前のところ、売り上げは高いけど、電気代がすごいぞ」という具合ですね(笑)。BU、BG側での意識も高まり、例えばBUでは、個別に「環境活動会議」を開始しています。

 とはいえ、各事業の性格(例えば製造事業と、コンサルティング事業など)によって、売り上げに対するCO2の出し方が異なります。そこで、事業活動に対するCO2比をROC(Revenue on Carbon)として相対化し、算定しています。そして絶対値で評価する必要がある場合には、同(事)業他社と比較するようにしています。

 いずれにせよ、環境本部は収益部門ではありません。つまり、BU、BG側がいかに効率よく利益を上げられるか、法規制に抵触しないかをサポートするのが役割であり、存在価値であると認識しています。

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