世界中で愛され続けるモンスターマシンの進化日曜日の歴史探検

「50年以上にわたって世界中で愛されている乗り物は?」と聞かれて、即答できる方はどれくらいいるでしょうか。この栄誉ある乗り物は日本製であるとヒントを与えれば、正解にたどり着くかもしれません。今回は、本田技研工業によって開発され、今なおその輝きを失わない“カブ”を取り上げます。

» 2009年11月15日 00時00分 公開
[前島梓,ITmedia]

 「50年以上にわたって世界中で愛されている乗り物は?」と聞かれて、即答できる方はどれくらいいるでしょうか。答えすら思い浮かばない方も少なくないでしょう。しかし、この栄誉ある乗り物は日本製であるというヒントを与えれば、かなりの方が正解にたどり着くかもしれません。今回は、本田技研工業によって開発され、2008年4月末時点での生産台数が累計6000万台にも達した世界中で愛されるモンスターマシン「スーパーカブ」を取り上げます。

今なお世界中で愛される“カブ”。カブを発見できない国を探す方が難しいかもしれません(Photo by take_H

 輸送用機器の1シリーズとしては世界最多量産/販売台数を記録しているスーパーカブ。一般には本田技研工業が1958年から生産を開始したC100型以降のシリーズ名を指して“カブ”と称することが多いのですが、その歴史はもう少しさかのぼった1952年にあります。この年、本田技研工業は自転車補助モーター「F型」を搭載したカブF型を発売。従来の自転車補助モーターとは異なり、搭載位置を後輪側面とし、駆動系統もすべて後輪回りに集めた設計は、本田宗一郎氏のたぐいまれなる才能が存分に発揮されており、その後のオートバイに大きな影響を与えることとなりました。

 その後1958年に登場したC100型は、当時の主流だった2ストロークのエンジンに対し、4ストロークのエンジンを採用。競合車種のほぼ2倍という突出した性能と、「蕎麦屋の出前持ちが片手で運転できるように」という設計ポリシーの下誕生した自動クラッチとロータリー式変速機構を備えた構成が見事に調和し、瞬く間に日本市場を席巻しました。

 その勢いを維持したまま翌年には米国進出を果たす本田技研工業ですが、その成功の裏には車体の性能だけでなく、マーケティングの妙も光りました。当時、米国でオートバイというと、映画「イージー・ライダー」や「ワイルドバンチ」に代表されるように、無法者たちの乗り物であるというイメージが定着していました。カブはそこに「ホンダのバイクに乗っているのは素敵な人ばかり」(You meet the nicest people on a Honda)という“普通の人々”をターゲットとするマーケティングを敢行、一般市民向けのシンプルな乗り物としてのオートバイを強く印象づけ、後の成功につながりました。

 米国での成功の後、世界各国で人気を博すことになったカブ。スピードが出るわけではありませんし、外見も現在の感覚からすればレトロではありますが、基本的な輸送手段にとって必要なものがすべてそろっており、なおかつ驚異のタフネスを誇り(食用油でも動作するほどです)、さらには内燃機関を動力とした市販車の中で最も燃費が良い車種の1つとして知られています。丁寧に手入れするたぐいのものではなく、むしろ乗りつぶす1台として、世界中で今なお愛されています。現代の日本でも、郵便配達や新聞配達、出前などの配送では今なお標準的に用いられていることから、その実力は折り紙付きです。

ホンダが発表した新型のカブ「EV-Cub」。電動二輪車となってもフォルムはやはりカブです

 発売から50年を経ても外見を大きく変化させることなく、しかしその一方で電子制御の燃料噴射システムの採用など機構の改良を続けてきたカブ。2009年に入ると、第2次二輪車排ガス規制により2008年に生産終了となった排気量90ccモデルの後継として、110ccエンジンを採用した「スーパーカブ110」を6月に、さらに10月には「スーパーカブ 110プロ」をそれぞれ発表しており、進化は続いています。

 スーパーカブ110への進化はファンにとってはたまらない改良ですが、今年開催された東京モーターショーでは、とうとう次世代のカブが披露され、大きな注目を集めています。「EV-Cub」と名づけられたこの新しいカブは、前後輪のハブ部にインホイールモーターを装備し、バッテリーで動作する電動二輪車。残念ながら今回のモーターショーでは試乗することはできませんでしたが、レトロと最先端技術を調和させた1台としてインパクトは相当なものがあります。

 今後も続いて行くであろうカブの歴史に新たに加わることになるEV-Cubもまた、新しい時代のロングセラー商品となるのでしょうか。注目したいところです。

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